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「こんにちは、マチルダおばさん」
ドアを開けると土精霊エザフォスの恵みの証である金髪を肩口で切りそろえた育ちのよさそうな少年が立っていた。
それはリリアで憂さ晴らしをしていた主犯格……ブライアンである。
「あれ、仕立て屋の所の坊ちゃんじゃないか」
「ブライアンです。どうもこの院が大変らしいという噂を聞きましてね。どうかしたんですか?」
「ああ……ここに無加護がいたんだけどこの前出て行っちまったの、知ってるかい。それでちょっと今手が足りないのさ」
全くあの無加護、どこまで迷惑かけりゃ気が済むんだい、とマチルダはぼやく。
普段親しくしてない者でも分かるほどマチルダ院長は疲れ果てていた。
いつもにこやかにおしゃべりしていた面影は今はない。
ブライアンはそんなマチルダを見て口元をゆるませた。
「なるほど。リリア……無加護は森へ行ったんですよね。俺が迎えに行ってきましょうか」
「ええ? そんな、だめだよ坊ちゃん。申し出はありがたいけど、あの森は賊が出て危険だから女子供だけで行くのは禁じられてるんだからね」
「平気ですよ。もう大人になりましたし、護身用ですが剣術も筋が良いって言われているんです。それに精霊への信仰も篤いこの孤児院が困っているのに何もしないなんてできませんよ。ほら、知ってますよね? 俺が今年の精霊王役に選ばれたんですよ。それでなくてもただ力になりたいんです。俺なら大丈夫ですので」
(この子、そんなにこの孤児院に思い入れがあったのかねえ…)
ふと疑問が頭をよぎるが、疲れ切ったマチルダはブライアンの勢いに押されてはあ、とだけ答えた。
ブライアンは白百合院の院長からリリアを連れ戻すという大義名分をもぎ取ったその足で森に向かった。
リリアを連れ戻したいのは本当の事だが、あの孤児院にそのまま引き渡すつもりは毛頭ない。
勿論共もつけずブライアン一人だ。
(それにしてもリリアのいた孤児院、聞いていたよりひどい状況だったな)
ブライアンが孤児院を訪れたのは顔見知りの孤児の一人が愚痴を言いまわっていたからである。
ドアの隙間から見ただけでも院の中はひどい散らかりようだった。
何をしたらいいのかも分からないのだろう。
途方に暮れた子供たちは庭で遊んだりぼんやりしているだけ。
どこからかすえたようなひどい匂いも漂ってきていて、マチルダ院長のやつれた顔がけっして誇張ではない事はすぐにわかった。
(いまさら、リリアがいなくて困ってんのかよ)
大人受けするお坊ちゃん面の下でブライアンは目の前の院長と孤児院を馬鹿にしていた。
今までこき使ってきた自覚もないとは救えない。院長達はリリアが戻ってきたらまた酷使させるつもりだ。
今この惨状もリリアのせいだと思っているらしい。
やはり自分だけがリリアの良さに気づいているとブライアンは考える。
リリアがいなくなって慌てふためくのは別に孤児院に限ったことではなかった。
普段から無加護の悪口で団結していた女共は、自分がいない間に仲間に悪口を言われているんじゃないかと疑心暗鬼になっている。
全ての不幸や都合の悪い事を無加護のせいにしてきた人々はリリアがいないから誰のせいにも出来ずギスギスしていた。
どこか気まずく、微妙に落ち着かない村の様子は見ていて痛快だった。
(皆、無加護を唾棄している割に頼り切ってるんじゃねえか)
しかしそれはブライアンも同じだ。
だからリリアを連れ戻そうとしている。
ドアを開けると土精霊エザフォスの恵みの証である金髪を肩口で切りそろえた育ちのよさそうな少年が立っていた。
それはリリアで憂さ晴らしをしていた主犯格……ブライアンである。
「あれ、仕立て屋の所の坊ちゃんじゃないか」
「ブライアンです。どうもこの院が大変らしいという噂を聞きましてね。どうかしたんですか?」
「ああ……ここに無加護がいたんだけどこの前出て行っちまったの、知ってるかい。それでちょっと今手が足りないのさ」
全くあの無加護、どこまで迷惑かけりゃ気が済むんだい、とマチルダはぼやく。
普段親しくしてない者でも分かるほどマチルダ院長は疲れ果てていた。
いつもにこやかにおしゃべりしていた面影は今はない。
ブライアンはそんなマチルダを見て口元をゆるませた。
「なるほど。リリア……無加護は森へ行ったんですよね。俺が迎えに行ってきましょうか」
「ええ? そんな、だめだよ坊ちゃん。申し出はありがたいけど、あの森は賊が出て危険だから女子供だけで行くのは禁じられてるんだからね」
「平気ですよ。もう大人になりましたし、護身用ですが剣術も筋が良いって言われているんです。それに精霊への信仰も篤いこの孤児院が困っているのに何もしないなんてできませんよ。ほら、知ってますよね? 俺が今年の精霊王役に選ばれたんですよ。それでなくてもただ力になりたいんです。俺なら大丈夫ですので」
(この子、そんなにこの孤児院に思い入れがあったのかねえ…)
ふと疑問が頭をよぎるが、疲れ切ったマチルダはブライアンの勢いに押されてはあ、とだけ答えた。
ブライアンは白百合院の院長からリリアを連れ戻すという大義名分をもぎ取ったその足で森に向かった。
リリアを連れ戻したいのは本当の事だが、あの孤児院にそのまま引き渡すつもりは毛頭ない。
勿論共もつけずブライアン一人だ。
(それにしてもリリアのいた孤児院、聞いていたよりひどい状況だったな)
ブライアンが孤児院を訪れたのは顔見知りの孤児の一人が愚痴を言いまわっていたからである。
ドアの隙間から見ただけでも院の中はひどい散らかりようだった。
何をしたらいいのかも分からないのだろう。
途方に暮れた子供たちは庭で遊んだりぼんやりしているだけ。
どこからかすえたようなひどい匂いも漂ってきていて、マチルダ院長のやつれた顔がけっして誇張ではない事はすぐにわかった。
(いまさら、リリアがいなくて困ってんのかよ)
大人受けするお坊ちゃん面の下でブライアンは目の前の院長と孤児院を馬鹿にしていた。
今までこき使ってきた自覚もないとは救えない。院長達はリリアが戻ってきたらまた酷使させるつもりだ。
今この惨状もリリアのせいだと思っているらしい。
やはり自分だけがリリアの良さに気づいているとブライアンは考える。
リリアがいなくなって慌てふためくのは別に孤児院に限ったことではなかった。
普段から無加護の悪口で団結していた女共は、自分がいない間に仲間に悪口を言われているんじゃないかと疑心暗鬼になっている。
全ての不幸や都合の悪い事を無加護のせいにしてきた人々はリリアがいないから誰のせいにも出来ずギスギスしていた。
どこか気まずく、微妙に落ち着かない村の様子は見ていて痛快だった。
(皆、無加護を唾棄している割に頼り切ってるんじゃねえか)
しかしそれはブライアンも同じだ。
だからリリアを連れ戻そうとしている。
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