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悪徳商人と浮気相手
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「さて、君の懸念は早めに晴らしておこう。婚姻後、君の屋敷にはたびたび今まで関りがなかったような客が訪れていたね」
「ええ、そうです」
ここにいると気にしないですむが、かつての宴会騒ぎは本当に堪えたものだ。
あまり思い出したい記憶ではない。
「じゃあ『ヒンズリー』という名に覚えはないかな」
「その方なら存じております。その、恐ろしい方でしたので直接お話したことは少ないのですが」
「いい、いい。あんなのに遠慮しなくて。最悪なやつだっただろう? あいつは今国家を挙げて牢にぶちこんでやろうと思ってる相手でね」
「はあ……」
ひらひらと手を振りながら評された最悪なやつ、という言葉にはイヴェットも同意する。
使用人たちもひどいめにあったのだ。
(あの人が国から追われているというのはどういうことかしら)
国家機密かもしれないと思うと聞くに聞けない。
しかしメイナードが率先して話してくれるので問題はなかった。
「ヒンズリーはピスカートルのいくつかのギルドや土地を買収する計画があったようでね。ピラート島もその範囲に入っていたから君の義母と話をつけていたんだろう。そんなのは困るし調べさせたら買収資金の調達元が随分怪しかったんだよね」
「さらに調査を進めると違法賭博経営や違法薬物の取引、王家管轄の遺跡から窃盗の疑いが出てきたんです」
「えっ」
印象が悪くとも実際に知っている人がそんなことをやっているとなると驚いてしまう。
奇妙な金遣いの荒さと数々の装飾品の裏で犯罪が行われていたとは。
(まあ一度は家族になった人たちが殺人未遂をしたのだけれど)
「ただ証拠がなかなか難しくてね。本人も悪知恵だけは働くのかなかなか居所を掴ませない。だからヒンズリーを摘発するのに君から情報がほしい」
(なるほど、確かに一人保護した代わりに情報が手に入るかもしれないのなら納得だわ)
国家規模ではないが商会を動かしているイヴェットは頭の中で計算した。
ただしヒンズリーには近寄りたくなかったのであまり情報はない。
それでもダーリーンがこぼした内容や、覚えている限りのことは伝える。
「あまり有益ではなくてすみません」
「いや、とても助かるよ。……ああそういえば」
メイナードが含みのある視線を向ける。
「あまり君に聞かせたくないと思っていたのだけれど、君の夫の不貞相手はヒンズリーの娘だそうだ」
「なっ、それは本当ですか?」
「本当。ヒンズリーのファミリーネームはカウリングだよ」
「ジェニファーさんと同じ……」
「偶然にしてはって感じだよね。でもなんでその二人がオーダム家の近くにいたのか考えてみれば分かるんじゃないかな」
試すような言葉だ。
イヴェットは直感をそのまま言葉にした。
「ヒンズリーがジェニファーさんを紹介した……?」
「もしくはその逆かもしれないけれど、可能性は高いと思ってるよ」
「だとすれば、ジェニファーさんのいる場所なら分かります」
不貞の証拠集めに尾行していた時にジェニファーの活動範囲も自然と絞り込めたのだ。
「もし二人が親子で接点があるのなら、ジェニファーさんからヒンズリーにたどり着けるかもしれないということですね」
「……なあフランシス。俺この子気に入っちゃってもいい?」
「だめです」
間髪入れず冷たい声がフランシスから発せられたが、イヴェットは情報をまとめるのに必死だ。
「ジェニファーさんの活動範囲は大体ディードット通りを中心にして……」
思えばヘクターがイヴェットを連れてデートをしたのもこの辺だ。
証拠集めの時に気付いてはいたものの目を背けていたが、改めてこんなにひどいことはないと今では素直に思える。
(彼女ときたところに婚約者を連れていくなんて……)
おそらくジャニファーに教えてもらったのだろう。
だいたいの範囲や時間を伝えるとメイナードは満足そうに微笑んだ。
「お役に立てましたでしょうか」
「もちろん。思った以上に素晴らしいよ」
「あとのことは騎士団に任せてゆっくり療養して頂きたいです」
「そうだな。騎士団はしっかり働けよ」
嵐のようなお茶会が終わり、フランシスとメイナードはどこか慌ただしく戻っていった。
ジェニファーとヒンズリーの関係や、国家から目をつけられていた人物が家で騒いでいたことに眩暈がするようだ。
「王子はあんな感じですが、イヴェット様が回復されるギリギリまで待っていらっしゃいました」
部屋に戻ると事情を知っているらしい城付きの侍女が困ったように教えてくれた。
「そうなんですね。もっと早く情報のことを教えていただければ私もお伝え出来ましたのに、悪いことをしました」
「療養は悪ではありませんわ」
侍女はイヴェットのアフタヌーンドレスを緩めながら続ける。
「それにイヴェット様への聴取要請を止めていたのはフランシス様らしいですよ」
「へっ!?」
「聴取自体も本来は騎士団が行うようですが、無骨な方が多い騎士では怖がらせてしまうからとお二人が」
(と、とっても気を遣われていたのね!?)
全く気付かなかったことに顔が熱くなる。
あまりにもスマートだった。それなのにできることはないかと勢い込んでいた時分が恥ずかしい。
「心臓に悪いですよね、あのお二人」
「本当だわ……」
「ええ、そうです」
ここにいると気にしないですむが、かつての宴会騒ぎは本当に堪えたものだ。
あまり思い出したい記憶ではない。
「じゃあ『ヒンズリー』という名に覚えはないかな」
「その方なら存じております。その、恐ろしい方でしたので直接お話したことは少ないのですが」
「いい、いい。あんなのに遠慮しなくて。最悪なやつだっただろう? あいつは今国家を挙げて牢にぶちこんでやろうと思ってる相手でね」
「はあ……」
ひらひらと手を振りながら評された最悪なやつ、という言葉にはイヴェットも同意する。
使用人たちもひどいめにあったのだ。
(あの人が国から追われているというのはどういうことかしら)
国家機密かもしれないと思うと聞くに聞けない。
しかしメイナードが率先して話してくれるので問題はなかった。
「ヒンズリーはピスカートルのいくつかのギルドや土地を買収する計画があったようでね。ピラート島もその範囲に入っていたから君の義母と話をつけていたんだろう。そんなのは困るし調べさせたら買収資金の調達元が随分怪しかったんだよね」
「さらに調査を進めると違法賭博経営や違法薬物の取引、王家管轄の遺跡から窃盗の疑いが出てきたんです」
「えっ」
印象が悪くとも実際に知っている人がそんなことをやっているとなると驚いてしまう。
奇妙な金遣いの荒さと数々の装飾品の裏で犯罪が行われていたとは。
(まあ一度は家族になった人たちが殺人未遂をしたのだけれど)
「ただ証拠がなかなか難しくてね。本人も悪知恵だけは働くのかなかなか居所を掴ませない。だからヒンズリーを摘発するのに君から情報がほしい」
(なるほど、確かに一人保護した代わりに情報が手に入るかもしれないのなら納得だわ)
国家規模ではないが商会を動かしているイヴェットは頭の中で計算した。
ただしヒンズリーには近寄りたくなかったのであまり情報はない。
それでもダーリーンがこぼした内容や、覚えている限りのことは伝える。
「あまり有益ではなくてすみません」
「いや、とても助かるよ。……ああそういえば」
メイナードが含みのある視線を向ける。
「あまり君に聞かせたくないと思っていたのだけれど、君の夫の不貞相手はヒンズリーの娘だそうだ」
「なっ、それは本当ですか?」
「本当。ヒンズリーのファミリーネームはカウリングだよ」
「ジェニファーさんと同じ……」
「偶然にしてはって感じだよね。でもなんでその二人がオーダム家の近くにいたのか考えてみれば分かるんじゃないかな」
試すような言葉だ。
イヴェットは直感をそのまま言葉にした。
「ヒンズリーがジェニファーさんを紹介した……?」
「もしくはその逆かもしれないけれど、可能性は高いと思ってるよ」
「だとすれば、ジェニファーさんのいる場所なら分かります」
不貞の証拠集めに尾行していた時にジェニファーの活動範囲も自然と絞り込めたのだ。
「もし二人が親子で接点があるのなら、ジェニファーさんからヒンズリーにたどり着けるかもしれないということですね」
「……なあフランシス。俺この子気に入っちゃってもいい?」
「だめです」
間髪入れず冷たい声がフランシスから発せられたが、イヴェットは情報をまとめるのに必死だ。
「ジェニファーさんの活動範囲は大体ディードット通りを中心にして……」
思えばヘクターがイヴェットを連れてデートをしたのもこの辺だ。
証拠集めの時に気付いてはいたものの目を背けていたが、改めてこんなにひどいことはないと今では素直に思える。
(彼女ときたところに婚約者を連れていくなんて……)
おそらくジャニファーに教えてもらったのだろう。
だいたいの範囲や時間を伝えるとメイナードは満足そうに微笑んだ。
「お役に立てましたでしょうか」
「もちろん。思った以上に素晴らしいよ」
「あとのことは騎士団に任せてゆっくり療養して頂きたいです」
「そうだな。騎士団はしっかり働けよ」
嵐のようなお茶会が終わり、フランシスとメイナードはどこか慌ただしく戻っていった。
ジェニファーとヒンズリーの関係や、国家から目をつけられていた人物が家で騒いでいたことに眩暈がするようだ。
「王子はあんな感じですが、イヴェット様が回復されるギリギリまで待っていらっしゃいました」
部屋に戻ると事情を知っているらしい城付きの侍女が困ったように教えてくれた。
「そうなんですね。もっと早く情報のことを教えていただければ私もお伝え出来ましたのに、悪いことをしました」
「療養は悪ではありませんわ」
侍女はイヴェットのアフタヌーンドレスを緩めながら続ける。
「それにイヴェット様への聴取要請を止めていたのはフランシス様らしいですよ」
「へっ!?」
「聴取自体も本来は騎士団が行うようですが、無骨な方が多い騎士では怖がらせてしまうからとお二人が」
(と、とっても気を遣われていたのね!?)
全く気付かなかったことに顔が熱くなる。
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「心臓に悪いですよね、あのお二人」
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