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王妃たち
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イヴェットは一時的に王宮の敷地内で過ごすことになった。
後ろ盾が誰であるかを分かりやすく宣伝する為だ。
王族がその辺をうろついていたら気が休まらないだろうとかなりの離れの城に案内された。
離れとはいえ王族が使用してきたものであり、その煌びやかさはイヴェットにとって目が回るものだった。
「ありがたいけれど良いのかしら」
過去はともかく今の王族は目立って特定の貴族の肩入れをする事があまりない。
一時保護の名目だが介入と取られてもおかしくないだろう。
そんな不安をそれとなく、様子を見に来たフランシスに伝えると苦笑が帰って来た。
「あなたはご自分の価値を低く見積もりすぎですよ」
「それはどういった……?」
今は二人、手入れのされた中庭で甘いホット・チョコレートを囲んでいる。
傍らにはトレイシーが控えていた。
「先日のお茶会を覚えていますか? このホット・チョコレートをメイナード王子や王妃に振舞った」
「もちろん覚えていますわ。とても楽しい時間でしたもの」
これは社交辞令などではなくイヴェットの本心だった。
少し前に王妃のサロンに招かれたイヴェットはカチコチに緊張していたのだが、三姉妹の姫たちや侯爵夫人も、もちろん王妃その人も穏やかでイヴェットに気を配ってくれていた。
王族など社交界デビューの挨拶以来見ることもなかった。
「まあ、よくいらしてくださいましたわ、イヴェットさん」
王妃がサロンを訪れたイヴェットに朗らかに挨拶をする。
同時に三姉妹たちがイヴェットの腕をがっしりと掴んだ。
「えっ!?」
驚くイヴェットに対して三姉妹は楽しそうに声を響かせる。
「いま、社交界はあなたの噂で持ちきりよ!」
「メイナード兄さまばかりあなたとお話して、ずるいわ……」
「詳しく聞かせてもらうまで今日は離しませんわよ~」
「えっと、あのっ」
突然のことに目を白黒させるイヴェットだが、王妃が三姉妹を宥めてくれたおかげでなんとか無事に座ることができた。
(驚いたけれど緊張は少し解れた気がするわ)
王族のサロンなのだからマナーや作法に厳しい場だと思っていたのだが、それは考えすぎだったようだ。
たしかにみんな品が良く穏やかだが、堅苦しい雰囲気はない。
王妃直々に招かれた時には胃がキリキリと痛んだものだが、身内ばかりの集まりと事前に聞かされていた通り思っていたより気安い集まりらしい。
「そういえば何か珍しいものをご用意くださったとか。気を遣わせてしまったかしらね」
王妃が鈴を転がすような声でおっとりと切り出す。
(メイナード王子に似てお美しいわ……)
容貌は言うまでもない。そして最先端のドレスではなく、スタンダードな形のものを着こなしている。
細部の凝った意匠は主張しないが王妃の威厳と優雅さを際立たせていた。
「あの、お口に合うと良いのですが」
そこへ侍女たちがホット・チョコレートをもって入ってきた。
それぞれの前にカップを置くと、奥深く華やかな香りが濃密に部屋を満たす。
「まあ……」
貴婦人たちもホット・チョコレートに興味津々だ。
後ろ盾が誰であるかを分かりやすく宣伝する為だ。
王族がその辺をうろついていたら気が休まらないだろうとかなりの離れの城に案内された。
離れとはいえ王族が使用してきたものであり、その煌びやかさはイヴェットにとって目が回るものだった。
「ありがたいけれど良いのかしら」
過去はともかく今の王族は目立って特定の貴族の肩入れをする事があまりない。
一時保護の名目だが介入と取られてもおかしくないだろう。
そんな不安をそれとなく、様子を見に来たフランシスに伝えると苦笑が帰って来た。
「あなたはご自分の価値を低く見積もりすぎですよ」
「それはどういった……?」
今は二人、手入れのされた中庭で甘いホット・チョコレートを囲んでいる。
傍らにはトレイシーが控えていた。
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「もちろん覚えていますわ。とても楽しい時間でしたもの」
これは社交辞令などではなくイヴェットの本心だった。
少し前に王妃のサロンに招かれたイヴェットはカチコチに緊張していたのだが、三姉妹の姫たちや侯爵夫人も、もちろん王妃その人も穏やかでイヴェットに気を配ってくれていた。
王族など社交界デビューの挨拶以来見ることもなかった。
「まあ、よくいらしてくださいましたわ、イヴェットさん」
王妃がサロンを訪れたイヴェットに朗らかに挨拶をする。
同時に三姉妹たちがイヴェットの腕をがっしりと掴んだ。
「えっ!?」
驚くイヴェットに対して三姉妹は楽しそうに声を響かせる。
「いま、社交界はあなたの噂で持ちきりよ!」
「メイナード兄さまばかりあなたとお話して、ずるいわ……」
「詳しく聞かせてもらうまで今日は離しませんわよ~」
「えっと、あのっ」
突然のことに目を白黒させるイヴェットだが、王妃が三姉妹を宥めてくれたおかげでなんとか無事に座ることができた。
(驚いたけれど緊張は少し解れた気がするわ)
王族のサロンなのだからマナーや作法に厳しい場だと思っていたのだが、それは考えすぎだったようだ。
たしかにみんな品が良く穏やかだが、堅苦しい雰囲気はない。
王妃直々に招かれた時には胃がキリキリと痛んだものだが、身内ばかりの集まりと事前に聞かされていた通り思っていたより気安い集まりらしい。
「そういえば何か珍しいものをご用意くださったとか。気を遣わせてしまったかしらね」
王妃が鈴を転がすような声でおっとりと切り出す。
(メイナード王子に似てお美しいわ……)
容貌は言うまでもない。そして最先端のドレスではなく、スタンダードな形のものを着こなしている。
細部の凝った意匠は主張しないが王妃の威厳と優雅さを際立たせていた。
「あの、お口に合うと良いのですが」
そこへ侍女たちがホット・チョコレートをもって入ってきた。
それぞれの前にカップを置くと、奥深く華やかな香りが濃密に部屋を満たす。
「まあ……」
貴婦人たちもホット・チョコレートに興味津々だ。
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