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使用人は見た②
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「いいえ、この場で見たとパウラさんが証言してくださったのでそれはないでしょう」
この場の全員がパウラを見ていた。夫人も気づいたからこそ話をそらそうとしたのだ。
「な、なによ。まさか私を疑っているわけ?」
「ごめんなさいねパウラさん。私もあなたを疑いたくないの。だから……『無実を証明するために』調べさせてもらうわね」
「ちょっと! ただじゃおかないわよ!」
「カペル夫人、申し訳ないのですがご協力お願いします」
「おばさん! なんでこいつの言う通りにするのよ!」
仕方がないのだ。
司法の場ではないここで協力を拒否すればパウラを疑っている事になる。
あとはパウラが無実である事を信じるしかないのだ。
夫人はもう諦めたようでパウラを抑えていてくれる。
今度はイヴェット自身でパウラのポケットやベルト裏を確認する。
「……」
太もものあたりに固いものがあった。
靴下に挟んでいたようだった。
男性陣の目から見えないように隠してその固いものを取り上げる。
「あなたが見たというブローチはこれかしら」
透明な石がついた金装飾のブローチだ。
「それは……。そ、そうよ、その使用人が盗っていたのはそれ! 危ないから私が持っていてあげたの!」
「そう……」
聞き苦しい言い訳だった。子供とはいえはっきりさせた方が良いだろう。
「あなたは『これ』が何か知っているはずよね?」
イヴェットは疑われた使用人にブローチを見せる。
使用人は未だおどおどとしていたがそれでも答えてくれた。
「は、はい。それは亡くなられた大旦那様が購入されたものです。透明度が非常に高くカットも独自に開発されたもので、ガラス技術が進んでいる事に大層お喜びでした。大量生産の目途が立てばガラスと区別してクリスタルの名を冠することも検討されていたようでした」
「は……?」
「私はパウラ様がこのお部屋に入られているのをお見掛けし、道に迷われたのかと思い声をかけたのですが……」
パウラはその説明を聞いて目を見開いた。
「これは舞台用に作られたイミテーションよ。金の部分もメッキなの。父はその技術力の進歩を気に入ってこれを譲ってもらったそうよ。屋敷の中でも、お客様にもよくこのブローチの出来を褒めていたわ。だからこれが偽物である事はこの屋敷の者なら誰でも、お義母様も知っていることなの。彼女には盗む動機がないのよ」
理解したパウラは青ざめている。
盗んだのが自分だとバレた事、それを使用人に押し付けようとした事。
さらにはその盗んだブローチが装飾用の偽物であった事が今パウラを混乱させていた。
「我がオーダム家は盗みを働いた者への刑を決めていないのです。皆さん働き者で窃盗などなかったのですもの。さて、パウラさんが望んでいらっしゃったのは窃盗犯に鞭打ち、斬手でしたかしら。それとも騎士団に一緒にいきましょうか? 死刑も流刑も可哀そうだとは思うのですが、仕方ありませんね」
パウラの顔は今や青を通り越して白になっており、ぶるぶると震えていた。
どれも自分が言い出した事だ。
騎士団で無実証明をしようにも、パウラが盗んだのは事実であり屋敷を取り仕切る女主人が罪人と認めればそれまでだ。
「ちょっと、子供のした事なのだからそんなに脅かさなくてもいいじゃないの。結局安物なんでしょう? 買い取ってあげるわよ」
「いいえ、そういう問題ではありません。私にとって、いえこの屋敷の者にとってこれは大切な父の形見なのです。このブローチを見ると父の笑顔を思い出しますわ……。だからこそこの部屋に置いていたのは、ご理解頂けますね?」
「それは……」
この場の全員がパウラを見ていた。夫人も気づいたからこそ話をそらそうとしたのだ。
「な、なによ。まさか私を疑っているわけ?」
「ごめんなさいねパウラさん。私もあなたを疑いたくないの。だから……『無実を証明するために』調べさせてもらうわね」
「ちょっと! ただじゃおかないわよ!」
「カペル夫人、申し訳ないのですがご協力お願いします」
「おばさん! なんでこいつの言う通りにするのよ!」
仕方がないのだ。
司法の場ではないここで協力を拒否すればパウラを疑っている事になる。
あとはパウラが無実である事を信じるしかないのだ。
夫人はもう諦めたようでパウラを抑えていてくれる。
今度はイヴェット自身でパウラのポケットやベルト裏を確認する。
「……」
太もものあたりに固いものがあった。
靴下に挟んでいたようだった。
男性陣の目から見えないように隠してその固いものを取り上げる。
「あなたが見たというブローチはこれかしら」
透明な石がついた金装飾のブローチだ。
「それは……。そ、そうよ、その使用人が盗っていたのはそれ! 危ないから私が持っていてあげたの!」
「そう……」
聞き苦しい言い訳だった。子供とはいえはっきりさせた方が良いだろう。
「あなたは『これ』が何か知っているはずよね?」
イヴェットは疑われた使用人にブローチを見せる。
使用人は未だおどおどとしていたがそれでも答えてくれた。
「は、はい。それは亡くなられた大旦那様が購入されたものです。透明度が非常に高くカットも独自に開発されたもので、ガラス技術が進んでいる事に大層お喜びでした。大量生産の目途が立てばガラスと区別してクリスタルの名を冠することも検討されていたようでした」
「は……?」
「私はパウラ様がこのお部屋に入られているのをお見掛けし、道に迷われたのかと思い声をかけたのですが……」
パウラはその説明を聞いて目を見開いた。
「これは舞台用に作られたイミテーションよ。金の部分もメッキなの。父はその技術力の進歩を気に入ってこれを譲ってもらったそうよ。屋敷の中でも、お客様にもよくこのブローチの出来を褒めていたわ。だからこれが偽物である事はこの屋敷の者なら誰でも、お義母様も知っていることなの。彼女には盗む動機がないのよ」
理解したパウラは青ざめている。
盗んだのが自分だとバレた事、それを使用人に押し付けようとした事。
さらにはその盗んだブローチが装飾用の偽物であった事が今パウラを混乱させていた。
「我がオーダム家は盗みを働いた者への刑を決めていないのです。皆さん働き者で窃盗などなかったのですもの。さて、パウラさんが望んでいらっしゃったのは窃盗犯に鞭打ち、斬手でしたかしら。それとも騎士団に一緒にいきましょうか? 死刑も流刑も可哀そうだとは思うのですが、仕方ありませんね」
パウラの顔は今や青を通り越して白になっており、ぶるぶると震えていた。
どれも自分が言い出した事だ。
騎士団で無実証明をしようにも、パウラが盗んだのは事実であり屋敷を取り仕切る女主人が罪人と認めればそれまでだ。
「ちょっと、子供のした事なのだからそんなに脅かさなくてもいいじゃないの。結局安物なんでしょう? 買い取ってあげるわよ」
「いいえ、そういう問題ではありません。私にとって、いえこの屋敷の者にとってこれは大切な父の形見なのです。このブローチを見ると父の笑顔を思い出しますわ……。だからこそこの部屋に置いていたのは、ご理解頂けますね?」
「それは……」
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