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終章 セカイに光あれ
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白い影たちの黄色い涙に包まれながら、カリンダは必死に叫びつづけていた。
やがて、魂たちの氾濫はカリンダの心にまで流れ込んでくる。
悲痛な声の洪水。カリンダはいつしか、心の中で「お母さん」と叫ぶようになっていた。目を閉じて、ヒカルの言葉を信じ、幼いころに見た母の優しい顔を。
――カリンダ。
頭で想起していたはずの母が笑う。
「お母さん?」
「こんなに大きくなって……」
母の目から黄色い涙が溢れ、そして頭の中を真っ白な光が包み込む。
――頼みましたよ。
目を開けると、カリンダは自分も泣いていたことに気がついた。影たちから解放されていたことも、今度は目の前の少女が白い影に押さえつけられていることも、今気がついたのだ。
それから、自分の手にいつの間にか握りしめていた白く輝く宝石のことも。
◯
「リオン?」
――ごめんなさい。
ああ、その声は確かにリオンのものだ。ハスキーでいて透き通った声。
「俺こそごめん! あのときはこのセカイに来たばっかりで、なにがなんだか分からなくてさ……だから――」
――いいから早く! 竜神様は動きだしているのよ! 謝る暇があるなら早く行きなさい!
感動の再開のはずが、またもや怒られてしまったヒカル。だが、それもリオンらしい。
「うん……ありがとう」
ヒカルは偽リオンを横目に懐中時計を拾いあげた。
「ふふふ……無駄って言ってるのに」
「一つ言っておく。リオンはそんな笑い方をしない」
そして、あらためてリオンの白い影を見た。
――ありがとう。
――こちらこそ。
ヒカルはカリンダの手を握ると、走り出した。
「行こう、カリンダ!」
青い光で折れた右腕を治し、二人は梯子を昇っていった。目指すは中核部メインルーム。完成された懐中時計が眠る、黄金竜の心臓だ。
◯
「もう無駄よ! 無駄って言ってるでしょ!」
ヒカルとカリンダが去ったあとも叫び続けるリオンもどきの元に、白い影たちが集まってくる。
「貴方たちだってこのままだと消えてしまうわ。何千年も我慢してきたのに、ついに手に入りそうな争いのないセカイを、みすみす手放すと言うの?」
「争いはどこでも起きるのよ」
少しだけハスキーな少女の声。
「たとえ、平和を願う方舟の中であってもね」
◯
オニが光に飲まれた。
黄金竜が落として行った金色の卵。オニの拳で入ったヒビから白い光が漏れ、瞬く間に卵が孵ったのだ。
ウインは見ていた。拡散していく真っ白な光りに飲み込まれ、そして消滅していく様を。
あの光は何だ?
その光はオニだけではなく、周囲の兵士たちにも襲いかかる。さらに、光はこちらにも迫ってきているではないか。
あの光に触れてはいけない。
ウインはとっさに魔法防御壁バリヤーを張った。しかし、白い光が触れるだけで壁は薄氷のように砕かれる。
「ならば!」
今度は壁を幾枚も重ねる。光は壁を割ることは無くなったが、その計り知れない威力で、壁ごとメリメリと押し始めたではないか。
「止められない!」
壁が光に負ける――。その時、剣を放り投げたブリーゲルがウインが唱えた壁に手をあてた。
「兄さん!」
「ぐおおおお!」
兵士たちも彼に倣い、剣や盾を投げ捨て、光の進行を止めようと壁に手を当てる。光と兵士たちの力比べだ。壁が壊れては、ウインがまた唱えて補充する。兵士たちは歯を食いしばり、光の拡散を阻止すべく壁を押す。
「たく……休んでる暇もねえ」
「パッチ!」
ウインをかばい、背中にオニの攻撃を受けたパッチが、よろよろと起き上がり壁に手を当てる。
「ふんっ!」
傷口から血が噴き出る。
しかし、光が完全に止まったではないか。
すべてを飲み込む浄化の光――ウインの創り出した魔法壁に、兵士たちやパッチの協力で、止まった。だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。黄金の卵はグラダのみではなく、世界中に落されたのだから。
やがて、魂たちの氾濫はカリンダの心にまで流れ込んでくる。
悲痛な声の洪水。カリンダはいつしか、心の中で「お母さん」と叫ぶようになっていた。目を閉じて、ヒカルの言葉を信じ、幼いころに見た母の優しい顔を。
――カリンダ。
頭で想起していたはずの母が笑う。
「お母さん?」
「こんなに大きくなって……」
母の目から黄色い涙が溢れ、そして頭の中を真っ白な光が包み込む。
――頼みましたよ。
目を開けると、カリンダは自分も泣いていたことに気がついた。影たちから解放されていたことも、今度は目の前の少女が白い影に押さえつけられていることも、今気がついたのだ。
それから、自分の手にいつの間にか握りしめていた白く輝く宝石のことも。
◯
「リオン?」
――ごめんなさい。
ああ、その声は確かにリオンのものだ。ハスキーでいて透き通った声。
「俺こそごめん! あのときはこのセカイに来たばっかりで、なにがなんだか分からなくてさ……だから――」
――いいから早く! 竜神様は動きだしているのよ! 謝る暇があるなら早く行きなさい!
感動の再開のはずが、またもや怒られてしまったヒカル。だが、それもリオンらしい。
「うん……ありがとう」
ヒカルは偽リオンを横目に懐中時計を拾いあげた。
「ふふふ……無駄って言ってるのに」
「一つ言っておく。リオンはそんな笑い方をしない」
そして、あらためてリオンの白い影を見た。
――ありがとう。
――こちらこそ。
ヒカルはカリンダの手を握ると、走り出した。
「行こう、カリンダ!」
青い光で折れた右腕を治し、二人は梯子を昇っていった。目指すは中核部メインルーム。完成された懐中時計が眠る、黄金竜の心臓だ。
◯
「もう無駄よ! 無駄って言ってるでしょ!」
ヒカルとカリンダが去ったあとも叫び続けるリオンもどきの元に、白い影たちが集まってくる。
「貴方たちだってこのままだと消えてしまうわ。何千年も我慢してきたのに、ついに手に入りそうな争いのないセカイを、みすみす手放すと言うの?」
「争いはどこでも起きるのよ」
少しだけハスキーな少女の声。
「たとえ、平和を願う方舟の中であってもね」
◯
オニが光に飲まれた。
黄金竜が落として行った金色の卵。オニの拳で入ったヒビから白い光が漏れ、瞬く間に卵が孵ったのだ。
ウインは見ていた。拡散していく真っ白な光りに飲み込まれ、そして消滅していく様を。
あの光は何だ?
その光はオニだけではなく、周囲の兵士たちにも襲いかかる。さらに、光はこちらにも迫ってきているではないか。
あの光に触れてはいけない。
ウインはとっさに魔法防御壁バリヤーを張った。しかし、白い光が触れるだけで壁は薄氷のように砕かれる。
「ならば!」
今度は壁を幾枚も重ねる。光は壁を割ることは無くなったが、その計り知れない威力で、壁ごとメリメリと押し始めたではないか。
「止められない!」
壁が光に負ける――。その時、剣を放り投げたブリーゲルがウインが唱えた壁に手をあてた。
「兄さん!」
「ぐおおおお!」
兵士たちも彼に倣い、剣や盾を投げ捨て、光の進行を止めようと壁に手を当てる。光と兵士たちの力比べだ。壁が壊れては、ウインがまた唱えて補充する。兵士たちは歯を食いしばり、光の拡散を阻止すべく壁を押す。
「たく……休んでる暇もねえ」
「パッチ!」
ウインをかばい、背中にオニの攻撃を受けたパッチが、よろよろと起き上がり壁に手を当てる。
「ふんっ!」
傷口から血が噴き出る。
しかし、光が完全に止まったではないか。
すべてを飲み込む浄化の光――ウインの創り出した魔法壁に、兵士たちやパッチの協力で、止まった。だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。黄金の卵はグラダのみではなく、世界中に落されたのだから。
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