黄金竜のいるセカイ

にぎた

文字の大きさ
上 下
88 / 94
終章 セカイに光あれ

しおりを挟む
 白い影たちの黄色い涙に包まれながら、カリンダは必死に叫びつづけていた。

 やがて、魂たちの氾濫はカリンダの心にまで流れ込んでくる。

 悲痛な声の洪水。カリンダはいつしか、心の中で「お母さん」と叫ぶようになっていた。目を閉じて、ヒカルの言葉を信じ、幼いころに見た母の優しい顔を。

――カリンダ。

 頭で想起していたはずの母が笑う。

「お母さん?」
「こんなに大きくなって……」

 母の目から黄色い涙が溢れ、そして頭の中を真っ白な光が包み込む。

――頼みましたよ。

 目を開けると、カリンダは自分も泣いていたことに気がついた。影たちから解放されていたことも、今度は目の前の少女が白い影に押さえつけられていることも、今気がついたのだ。
 それから、自分の手にいつの間にか握りしめていた白く輝く宝石のことも。



「リオン?」

――ごめんなさい。
 ああ、その声は確かにリオンのものだ。ハスキーでいて透き通った声。

「俺こそごめん! あのときはこのセカイに来たばっかりで、なにがなんだか分からなくてさ……だから――」

――いいから早く! 竜神様は動きだしているのよ! 謝る暇があるなら早く行きなさい!

 感動の再開のはずが、またもや怒られてしまったヒカル。だが、それもリオンらしい。

「うん……ありがとう」

 ヒカルは偽リオンを横目に懐中時計を拾いあげた。

「ふふふ……無駄って言ってるのに」
「一つ言っておく。リオンはそんな笑い方をしない」

 そして、あらためてリオンの白い影を見た。
――ありがとう。
――こちらこそ。

 ヒカルはカリンダの手を握ると、走り出した。

「行こう、カリンダ!」

 青い光で折れた右腕を治し、二人は梯子を昇っていった。目指すは中核部メインルーム。完成された懐中時計が眠る、黄金竜の心臓だ。



「もう無駄よ! 無駄って言ってるでしょ!」

 ヒカルとカリンダが去ったあとも叫び続けるリオンもどきの元に、白い影たちが集まってくる。

「貴方たちだってこのままだと消えてしまうわ。何千年も我慢してきたのに、ついに手に入りそうな争いのないセカイを、みすみす手放すと言うの?」
「争いはどこでも起きるのよ」

 少しだけハスキーな少女の声。

「たとえ、平和を願う方舟の中であってもね」



 オニが光に飲まれた。

 黄金竜が落として行った金色の卵。オニの拳で入ったヒビから白い光が漏れ、瞬く間に卵が孵ったのだ。

 ウインは見ていた。拡散していく真っ白な光りに飲み込まれ、そして消滅していく様を。

 あの光は何だ?

 その光はオニだけではなく、周囲の兵士たちにも襲いかかる。さらに、光はこちらにも迫ってきているではないか。

 あの光に触れてはいけない。

 ウインはとっさに魔法防御壁バリヤーを張った。しかし、白い光が触れるだけで壁は薄氷のように砕かれる。

「ならば!」

 今度は壁を幾枚も重ねる。光は壁を割ることは無くなったが、その計り知れない威力で、壁ごとメリメリと押し始めたではないか。

「止められない!」

 壁が光に負ける――。その時、剣を放り投げたブリーゲルがウインが唱えた壁に手をあてた。

「兄さん!」
「ぐおおおお!」

 兵士たちも彼に倣い、剣や盾を投げ捨て、光の進行を止めようと壁に手を当てる。光と兵士たちの力比べだ。壁が壊れては、ウインがまた唱えて補充する。兵士たちは歯を食いしばり、光の拡散を阻止すべく壁を押す。

「たく……休んでる暇もねえ」
「パッチ!」

 ウインをかばい、背中にオニの攻撃を受けたパッチが、よろよろと起き上がり壁に手を当てる。

「ふんっ!」

 傷口から血が噴き出る。
 しかし、光が完全に止まったではないか。

 すべてを飲み込む浄化の光――ウインの創り出した魔法壁に、兵士たちやパッチの協力で、止まった。だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。黄金の卵はグラダのみではなく、世界中に落されたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...