勿忘草 ~記憶の呪い~

夢華彩音

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第六章 安積織絵

~家族2~

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お姉ちゃんが死んでからも、部屋はそのままにしてあった。

でも…これだけじゃなかった。
お母様が自殺したのだ。
きっと、精神的に限界だったのだろう。
そんなお母様ですら、お姉ちゃんの死を直接見ていないんだって。
だから…死んだという事実以外のことは、分からないまま。



そこまで言うと、玲香は何も言わなくなった。
お姉さんのことが、誰よりも大好きだったのだろう
「玲香は…本当のことを探してるの?」
織絵はそう聞くのがやっとだった。
玲香は顔を伏せた。
「ずっと、探してきた。でも、何も分からないまま。誰も知らないの。唯一全てを知っているお父様は何も教えてくれない。」
織絵は玲香のことを初めて知れたような、不思議な思いだった。
あたしだけが複雑な事情を抱えている訳ではないのだと言われているような…
ふいに玲香が明るい口調で言った。
「こうしない?お互いに協力し合うの。知りたいことを見つけるために。」
「協力?」
「そう。織絵ちゃんにも、何かあるでしょう?」
「どうしてそれを…」
「直感。初めて会った時、寂しそうだったから」
「寂しそう…か」
似たような思いを持つ玲香だから気づいてくれたのかもしれない。
織絵は初めて自分のことを話した。

「あたしは…記憶喪失なの」
「記憶喪失?」
「そう。小さい頃の記憶がない。気がつくとあたしは5年生だった。両親には、ショックで記憶を失ったのだ。あまり気にすることはないって言ってたけれど、自分のことはちゃんと知っておきたい。
だから…あたしはこの街に来たの」
「全てを…知るために?」
「うん」

玲香は少し驚いているようだった。
「どうしてこの街に?」
「分からない。けれど、唯一の手がかりである写真に映る場所がこの街だったから」
「…その写真。今持ってる?」
「え?うん」
写真を取り出して、織絵は玲香に渡した。
写真に映る公園を見て、玲香はあっと声を上げた。
「この公園、知ってる!というか、家の近くだもん」
「え?本当に?」
「うん。案内しようか?」
「お願い」


この公園に行くことができる…
期待と、ほんの少し怖さを覚えた。




「…着いたよ。日向公園」
織絵は公園を見回した。
確かに、写真の場所だ。
やっと…やっと見つけた。けれど…何とも思わない。
懐かしいような感覚はあるが、それだけだった。
「何か…思い出せそう?」
織絵は首を振った。
「あーあ。ふりだしに戻っちゃったか。ごめんね。わざわざ案内してもらったのに」
「仕方ないよ。そんなすぐに記憶戻らないだろうし。焦らず、ゆっくりでもいいんじゃない?」
「…そうだね」

またここに来ればいい。いつか分かるだろう。
何故か、そう思うことができた。




玲香はお姉さんを。

あたしは、自分自身を探す。

全てを知る日は、そう遠くない気がする。

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