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同棲編
番というものをなめてました 下
しおりを挟む「あ、す、すまない・・・?」
思わず、ゼブラさんは謝った。
そして、両手を顔の横に上げた。
なんという素直さ。
そしてとても優しい。
・・・ここで間を置いたら、また闇落ちゼブラさんが戻ってきそうだ。
そう思った私は、もう訳が分からないけど、気持ちのままに発言することを決めた。
「さっき胸触ったのも、力任せに触ったら痛いよ。もっと、優しく撫でるように触って!」
ゼブラさんは戸惑いのまま私に怒られて再度謝る。
ちらりと私の胸を見て、赤くなっているのに気が付いて・・・顔色を少し悪くさせた。
ゼブラさんはさっきまで怒っていただろうに、さらに私に怒られて、もう思考はぐちゃぐちゃだろう。
ちょっとパニックになりかけた。
自らの両手を見て、「あ、あぁ・・・うあ・・・」と言葉にならない声を出し、涙をぼろぼろと流し続けた。
もう訳が分からなくなっているところ悪いが、私はまだ攻撃の手を緩めない。
唯一自由に動く足を使って、はしたないけど・・・ゼブラさんの腰を、両足でホールドした。
私はぐんっとゼブラさんの腰を手前に引っ張った。
ゼブラさんは驚いて思わず私の顔の両サイドに手を置いて、私に倒れこまないようにした。
「あと、服を脱がせる前に、ちゃんとキスして」
ゼブラさんは訳が分からないまま、私に促されて・・・触れるだけのキスをした。
女の人に腰ホールドされながらキスをしている竜王なんて、今までで一人もいなかっただろう。
これ、ほかの人に見られたら滑稽すぎて、黒歴史になりそうだ。
すぐに顔を離したから、「もっと」とキスをねだってみた。
ゼブラさんはあまりちゃんと理性が動いていないのだろう。
私に言われるがまま、ちゅ、と唇を合わせる。
何度も何度も「もっと」と言うと、ゼブラさんは少しずつ唇を合わせる時間を延ばして・・・
舌こそ入れないものの、顔の角度を何度も変えながら、キスをした。
「ミーア・・・」
少しずつ、ゼブラさんの目に光が戻ってきた。
お互いに息が苦しくなって、首筋にゼブラさんの唾液が垂れてきたころ、ゼブラさんはゆっくり上着を脱いで、私にかけてくれた。
そのころには私の足も力が入らなくなっていたので、腰のホールドはゼブラさんが身体を起こしたときに容易に外れてしまった。
ゼブラさんは蝋燭の台をベッドから抜いて、ベッドサイドに放り投げる。
私の腕を拘束したシーツを引きちぎって、両手を自由にしてくれた。
「ミーア・・・!」
泣き声で、ゼブラさんは私を力強く抱きしめた。
「なぜ裏切ったのだ・・・!!」
奇跡的に、死亡確率を下げることができた。
ゼブラさんは、私の口を塞ぐことなく、私に発言の機会を与えてくれた。
私は、自由になった両手でゼブラさんを抱きしめた。
ゼブラさんの涙で私の肩口がびしょびしょになったころ、ようやくゼブラさんの身体の震えが治まった。
“愛していたのに”とか“やはり私が醜いから”とか“もう無理なのか”とか、いろんなことを呟いていたけど、会話にならないそれに、「私も愛してるよ」とか「ゼブラさんはかっこ良いよ」とか「なんで無理なんて言うの?」と返して、ゼブラさんがマイナス発言するのにずっと否定していた。
涙が落ち着いたゼブラさんは私をようやく離して、「それじゃあなんで浮気なんて」と、不思議で仕方ない顔をした。
いや、それは私が一番聞きたい。
何、浮気って。
私がいつ浮気したよ。
これ絶対文化の違い的なところで拗れてるな・・・。
「私が浮気をしたって思う原因は何?」
「・・・、どういうことだ?」
「私・・・いつ浮気したのかな?」
私のその言葉に、ゼブラさんはきょとんとした。
意味が分からないという顔だ。
私も意味分かってないから、取り敢えずこの質問には答えてもらいたい。
「だって・・・、まだ結婚していないのに別の男の名を呼んだし、部屋に入れた・・・。手も握っていたではないか。番がいて結婚の予定もあるのに、それをするのは・・・相手に気があると言っているようなものだろう」
「え?そうなの?」
「え?」
あー・・・、番持ちの人間が不幸になる確率が高い理由、分かったわ。
これは文化が違いすぎる。
「あのさ、ゼブラさん。私の種族は分かってる?」
「ああ、人族だ。わ、私は人族の勉強もしたぞ!人族も、婚約者がいたら部屋に男を入れないとか、ほかの男に触らないとか、苗字ではなく名前で呼ぶのは婚約者の男と兄弟だけだと聞いた!」
「いや、それ貴族とかお金持ちの家の人くらいだと思うけど」
「え!?」
ゼブラさんは、固まった。
あー、そうだよね。
庶民は別に友達だったり年下の男の子とか部屋に入れたりするし、普通に肩触ったり握手したりすることもあるし、下の名前で呼び慣れている友達は婚約者がいても普通に呼んだりする。
もちろん、あまり仲良くない人と変に接近したり、べたべた引っ付いたりはしないけど・・・
あ、もしかして、私が咄嗟にソルトさんの名前を呼んじゃったからか。
ソルトさんって下の名前だったんだね。
苗字かと思っていた。
申し訳ないことしたなー。
一先ず私の中の常識の話をした。
今後はゼブラさんの常識の方に合わそうと思うけど、今日のことは誤解であると分かってもらうためだ。
ただ、ソルトさんの名前は前に城に来た時に誰かがそう呼んでたから、苗字かと思って誤って呼んじゃった。それはごめんなさい、と謝った。
きちんと誤解だったと伝わったところで、ゼブラさんは私の手を優しく握った。
「すまなかった・・・。私がきちんと話していなかったことが原因だ。ミーアを傷つけてしまった・・・」
「違うよ。私が話してなかったからだし、ゼブラさんを傷つけちゃった。ごめんね」
ゼブラさんは、小さな声で「よかった・・・」と呟いて、私を再度強く抱きしめた。
うん、同棲初日に彼女に浮気されたと思ったら、誰でも取り乱すよね。
私がゼブラさんをちゃんと一途に好きで、ちゃんと恋していると分かってもらえたら、こんな誤解は生まなかったかもしれないけど・・・って、それは違うか。
むしろ、余計に裏切られたと思ってさっさと心中していたかもしれない。
「ゼブラさん・・・、大好きだよ」
「ミーア、私もだ・・・」
ゼブラさんは大きく息を吸って、私の匂いを堪能している。
ちょっと変態ちっくだけど、私がゼブラさんの腕の中にいることを実感したいのかな。
それであれば、私もゼブラさんともっといちゃいちゃらぶらぶしたい。
「ゼブラさん」
ぽんぽんとゼブラさんの腕を叩いた。
ゼブラさんはゆっくり私の身体を離してくれた。
「ミーア?」
「ゼブラさん、仲直りしよう」
仲直り?
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私は今、このタイミングで、二人の関係を進展させようとあることを閃いたのだ。
「恋人が仲直りするときに必要なことは、何だと思う?」
「た、互いに謝る・・・のではないのか?もしくは、き、きき気持ちを伝える、とか・・・」
さっき私たちがしたことだ。
でも、それだけじゃあいつも通りだ。
私はそれ以上を所望する。
「仲直りのキスって知ってる?」
ゼブラさんは硬直した。
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