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恋人関係

ゼブラさんとお昼寝します

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「…強引なことをして、ごめんなさい。でも、こうでもしないとゼブラさん、休んでくれないでしょ?」

「ミーア…」

ゼブラさんは、戸惑った声で、私の名前を呼んだ。
なぜこんなことを、という気持ちがこもっている視線に、私も同じ気持ちを乗せて見つめ返す。

「早く仕事をしないといけない理由は何?」

ベッドサイドに立ってそう尋ねると、ゼブラさんは少し照れ臭そうに「ミーアと過ごす時間を…」と言って、次に落ち込んだ声で「重いよな…」と呟いた。

重いか重くないかわからないけど、私が重いと思わないんだったら問題ないよね。
私は、ゼブラさんが私と一緒にいる時間を作ってくれることは、凄く嬉しいんだ。愛されてると思うし、そこまでして会いに来てくれていたことがとても嬉しい。
でも…それ以上に、彼には無理をしてほしくない。

「ゼブラさんのその気持ち、凄く嬉しいよ。愛されてると思うし…私も、ゼブラさんと一緒にいる時間を増やしたいもん」

その言葉に、ゼブラさんはとても嬉しそうな顔をした。
私と想いが通じ合っていると分かって、より幸せオーラが周囲に漂う。

だけど…

「でも、だからって無理して欲しいわけじゃない。ゼブラさんが体調を崩して…私、凄く辛かったんだから」

思わず、ぼろりと涙が出た。
ゼブラさんがギョッとして、ベッドから抜け出して私の涙を拭いに来る。

「すまない、そんなに君が私を想ってくれているなんて…!泣かせたかったわけではないのだ、もう無理はしないから、どうか悲しまないでくれ…!」

ぽろぽろと流れ出した涙は、止まらない。
ゼブラさんはどこからか取り出したハンカチで、そっと私の涙を拭う。
しかし、なかなか涙が止まらないから、ずっと「すまない」と謝り続ける。

違う、今は謝罪の言葉が欲しいんじゃない。
彼の温もりを感じたいんだ。

「ゼブラさん…、抱きしめて、ぎゅってして…」

両手で彼の服の裾を握って、おねだりをすると、彼は恐る恐る私の身体に手を回した。

大きな身体に包まれると、やはり安心する。

「頭をぽんぽん撫でて」

もう一つ要求を追加したら、彼はすぐに行動に移してくれる。
こんな、私の我儘を許してくれる彼を、私はずっと離さないだろう。
不器用な手の動きに、彼がこれをするのが私だけだと想像できるとまた嬉しくて、漸く涙が止まった。





そのあと、侍女の人に寝巻きに着替えさせてもらって、昼食も持ってきてもらって、私とゼブラさんは今日一日寝室に缶詰することが決定した。
私がここに住むようになるんだから、これからは今以上に会えるようになるよ、今は無理しないで欲しい、と彼を説得して、今日一日は仕事を全くしないと約束してもらったのだ。
部下の人には申し訳ないと思ったのだけど、「しっかり皇帝を休ませて下さい」「私どもが何を言っても聞かなかったのです」と言われたので、ゼブラさんにはしっかり休んでもらおうと思う。

「ゼブラさん、ご飯食べよ」

スープなどが冷めないうちに早くご飯を食べようと、ゼブラさんを誘う。ゼブラさんの手を引いて、小さなテーブルに並んで座る。

彼は戸惑いながらも私に抵抗せず、私の横に収まった。
さっきまで私が泣いていたことから、私を刺激しないように彼は言われるがままに動く。
大きな身体をして権力もある彼が、私一人に振り回されているこの光景を部下の人たちが見たらどう思うだろう。
…いや、もう結構見られてるか。

目の前にあるスープをまず飲む。
あんまり高級なのを飲んだことがないから分からないけど、これは絶対美味しいやつだ!

ゼブラさんは私の様子を見ながら、自分のお皿に乗った食べ物を口に運ぶ。
うんうん、ちゃんとご飯食べてくれないと、回復しないからね。

パンもとても柔らかいし、キッシュも美味しい。
脂っこいものがなくて、あっさりしたものばかりだ。

食後にゼリーがあったので、それも早々に平らげた。
本当はゆっくり食べた方がお淑やかに見えるのかもしれないけど…私にそんな芸当はできない。
美味しいものが目の前にあったら、欲望のままに食べちゃうよ。

お腹がいっぱいになったところで、眠気が襲う。
私もちょっと朝からバタバタしてたから疲れちゃったみたいだ。
さっき侍女の人がいるところでもゆっくり紅茶を飲む時間があったけど、その時は眠くならなかったんだよね…。
ゼブラさんがそばに居るから、安心して眠気が出るのかな…

もらったアロマセットに手を伸ばすと、横にいるゼブラさんが私の代わりにそれらの準備をすると言ってくれた。
有難い。私が眠たくなってることを察してくれているようだ。

でも、ゼブラさんを眠らせないといけないのに、私が寝ちゃったら意味がない…。
なんとか眠気を飛ばして、アロマを手にしたゼブラさんの後に続いてベッドに向かう。

ゼブラさんは枕元にアロマオイルを染み込ませたコットンを設置して、柔らかい毛布をめくって私が入りやすいようにしてくれた。

「ゆっくり眠ると良い」

「私よりも、ゼブラさんが寝ないとだめ」

ベッドに乗り上げた私は、ゼブラさんの手を引いてベッドに誘った。
ゼブラさんは戸惑った顔をしながらも、私に抵抗しない。
言われるがままにベッドに入った。
でも、端っこの方にいるから、ベッドから落ちてしまいそう…。

なんとか中央の方に来てもらいたくて、眠たい頭をフルに使って彼を呼び寄せる。

「ゼブラさん」

名前を呼んで、両手を広げてみた。
目の前のゼブラさんはごくりと何かを飲み込んで、恐る恐る近づき…私の両手が彼を抱きしめられる距離まで来たところで、私は思いっきり彼の胸に飛びついた。

「な!ミーア!?」

「ゼブラさんがちゃんと寝付くまで離さないからね!」

「そ、そんな…!なんてこと…!!」

とても焦った彼は、声だけで必死に私を説得しようとするが、無理に引き剥がそうとしない。
ゼブラさんに手を出されるなら望むところだし。
むしろ、そろそろゼブラさんからちゅーしてほしい。

ぎゅうぎゅう抱きついて、ついでに胸も押し付けてみる。
びくんと身体を跳ねさせたゼブラさんの反応に楽しくなってきて、私は眠気も忘れて戯れついた。



結局、ゼブラさんは私以上に疲れたようで、手を繋いで寝ると言う折衷案を受け入れた彼は、あっさりと眠ってしまった。
アロマが効いたのかもしれないし、疲れていたからってのもあるだろう。
決して、私がじゃれついたからじゃない。……多分。
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