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1章
0歳 -土の極日4-
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この世界の反物の標準的なサイズは知りませんが、前世の反物よりも明らかにサイズが大きいって事は解ります。なにせお祖母ちゃんが浴衣を作ってくれた時の反物よりも遥かに大きくて、二倍ではきかない横幅がありますから。
そういえば、この世界の女性たちは嗜みとして機織りの腕を磨くのですが、「より綺麗に、より早く、より大きく」という3つの重要ポイントがあるのだそうです。その結果、華族女性の作る布の幅はどんどんと大きくなっていき、今では2m弱ぐらいになったのだとか。私の感覚では、それは反物じゃなくて絨毯なんじゃないかと思うぐらいのサイズです。
それを母上たちは岩屋の壁の天井付近に取り付けた横木から経糸を無数に垂らして、毎日少しずつ織り上げていった訳です。その根気に頭が下がる思いです。
その母上たちの努力の結晶のような布を、浦さんに指示してもらいながら母上と橡に服へと仕立て上げてもらいます。
兄上と私はドーリス式キトン。私はまだ無理でしょうが兄上なら自分ひとりで着替える事ができる服としてこちらを選びました。本来なら足首が隠れる長さのキトンですが、私と兄上は膝が隠れるぐらいの長さにしてもらいました。その長さの方が服を踏んで転ぶ心配もありませんし、トイレも楽ですしね。
そして母上と橡はイオニア式キトンで服を作る事になりました。成人女性は肌を極力露出させるものではないという価値観があるようなので、ドーリス式だと腕が丸出しになってしまってアウトなのです。その点、イオニア式だと布はより多く必要になりますが、袖が作れます。まぁちょっと穴だらけな袖になりますが。
後、忘れてならない物が母上たちの下着ですね。この世界では小さい子供は下着をつけないのですが、母上たちには当然ながら必要になります。ただこの世界の下着は私に馴染みのある下着とは全く形状が違っていて、私から見ればタイトな膝丈の巻きスカートにしか見えません。ほぼ同じ形状をしていたのは祖母が持っていた湯文字です。和服を着る時につける下着ですね。
ちなみに男性用の下着は干してあった洗濯物を見る限り、褌と同じ形状のようです。褌の種類や締め方は良く知らないですし、叔父上たちの着替えをマジマジと見た事も無いので着用法に関してはちょっと解りません。
「不思議な形の着物ですのね」
そう言いながら帯と呼ぶには少し細い紐を腰に巻いて締める母上に、橡も頷き返します。母上たちが岩屋で着ていた服は平安時代ごろの庶民の女性の服に近く、小袖の上に褶だつものと呼ばれる巻きスカートと言えば良いのか、短めの行灯袴と言えば良いのか……。そんなのを着けた格好でした。全体的なシルエットとしてはスットン!って感じですね、上から下までストレート。
そういう意味ではキトンも同じようなシルエットなので、母上たちも抵抗が全く無いとは言えないものの、許容できる範囲だったのかもしれません。
全員が新しい服を着終えたら、母上と橡には椅子に座ってもらいます。そしてテーブルの上にあった小さな陶器の瓶を手に取ります。小さな瓶といっても私が持てば両手にあまるサイズではあるのですが、摘まみのついた蓋をあけて中身を手のひらに取りだします。
「はーうえ、おめめ ぎゅーして」
そう言って自分も目を瞑ってみせました。そうして目を瞑った母上の顔に手のひらで温めたトロリとした液体をぺちぺちと叩き込みます。
「な、何をしているの? 櫻 これはなーに??」
驚きはしたものの「精霊様の御力」の連続の後だけに、とりあえずは抵抗はしないで受け入れてくれる母上。
「おかお んー、うるうる? ぷるぷる? んーー よいものれす!」
説明が難しいです……。私が手に取っていたのは浦さんに「浄水」してもらった綺麗な水に柚子モドキの種を暫く漬けておいたもので、簡単にいえば化粧水です。
柚子シロップを作る時など、種をお茶パックなんかに入れて一緒に入れておくとトロミがでるのですが、そのトロミ成分が化粧水として使えるんです。
お祖母ちゃんは水ではなくホワイトリカーに漬けていましたが、あれは肌が弱い人にはちょっと刺激が強いと聞いた事があるので、今回は綺麗な水に入れて作りました。更に念を入れて服を作る少し前に、母上たちの肘の内側に少しだけ塗ってパッチテストも実行済みです。母上たちは特に肌が弱いという感じではなさそうですが、今回は色々と初めてな事が多いので、念には念を入れて……ですね。
この化粧水。水で作ると保存がきかないので、将来的にはアルコールで作る事にも挑戦してみたいです。その為には度数の高いアルコールを作る必要があります。度数の高いアルコールは化粧水だけじゃなく、消毒にも使えるので挑戦する価値はあるはずです。
酒税法なんてものはこの世界には存在しないので、作る事は違法でも何でもありません。今まで作っていなかったのは、たんに前世では未成年でお酒を飲んだ事が無かった為にアルコールが身近ではなく、その必要性が今一つピンと来ていなかっただけ。
なんてことを色々と考えつつ、母上の頬を「化粧水よ、染み込めーっ!」と念を込めるようにしてぺちぺちとします。
と、そんな私の横から小さな手がにょっきりと出てきました。そちらを見ると兄上が目をキラキラさせながら
「あにうえにもちょーだい」
と良い笑顔です。一瞬迷いましたが、この化粧水は水と柚子の種しか使っていないので、兄上どころか私にだって使える事は検証済みです。なので
「あい! あいうえ」
と兄上の小さな手のひらにも少しだけ化粧水を瓶から出してあげます。
「橡! これ凄いわっ! 頬が手のひらに吸い付くの!」
私が兄上に応対している間に母上も自分でぺちぺちとしてみたようで、思わずといった感で橡に話しかけました。
「うーばみも、ぺちぺち してね」
兄上に続いて橡の手にも化粧水を出してあげます。そうやって4人でぺちぺちと自分の頬の感触を楽しんだのでした。
全員の身支度が終わったところで、温泉に入る前に着ていた服を部屋の隅に置いてあった大きな籠にまとめて入れます。私が中にすっぽりと余裕で入れるぐらいの大きさの籠なので、大人を含めた全員分の服だって入ります。
「はーうえ、うーばみ、こりぇ もって」
全員分の着物が入った洗濯籠は、重さもさることながらサイズ的に私では持ち上げられないので、母上たちに持って行ってもらう事にします。
「姫様、私が持ちますので姫様は坊ちゃまと嬢ちゃまを」
「えぇ、わかりました」
そう言うと母上は右手で私を抱き上げて、左手で兄上と手を繋ぎました。
「櫻、次はどこへ向かえば良いのかしら?」
「あっちらよ!」
そう言って私が指さした先には扉がありました。
この脱衣場には扉が3つあります。一つは外から脱衣場に入る為の扉、一つは温泉へと続く扉。そして今、私が指さしたのが母屋へと繋がる渡り廊下に出る扉です。
私にとって馴染みがあり、過ごしやすい家にしようと思っていたのですが、どうにもならない問題にぶち当たりました。例えば温泉がその代表なのですが、家の中に設置できない施設や道具がある為、それらを離れとして作るしかなく。
その離れと母屋を繋ぐ渡り廊下を作る必要性が出てきてしまった結果、母上たちに馴染みのある、建物と建物を廊下で繋ぐ寝殿造りもどきな拠点になったのです。
まぁ、みんなの個室は母屋に集中しているので、あくまでももどきですが。
その渡り廊下なのですが、普通に作ってしまうと家の裏に行きたいだけなのにぐるっと大きく外周を歩かなくてはならなくなります。幼児の私にとってはなかなかキツイ距離なので、対策を考えなくてはなりませんでした。三太郎さんと相談した結果、渡り廊下の下を叔父上たちが余裕で通れる程度の高さで作る事になりました。だいたい2m半から3mぐらいの高さなので、渡り廊下だけ2階の高さにある事に。ちょっと不格好ではありますが、実用性重視です。
<浦さん、洗濯小屋で待機お願いします。
私の会話力で説明するの、かなりしんどい事が判明しました>
脱衣場を出て階段を昇った先の渡り廊下を歩きながら浦さんに心話を飛ばします。この後も色々と説明しなくてはならない事が山盛りなのです。
<それは構いませんが、私が詳しく説明できるのは水の技能関係だけ……。
むしろ全ての事に詳しいのはあなたの方では?>
<そうなんだけどね、既にもう疲れてしまって……。
それに今眠気がすごい来てる。気を抜くと寝ちゃいそう>
あくびを噛み殺しながら更に心話を飛ばします。昨日の夜は作業をしていないので、いつもに比べれば寝ている方だとは思うのですが、お風呂で疲れすぎました。
<仕方ありません、駆け足で説明して寝室へと向かうようにしましょう>
そう浦さんが心話を飛ばしてくれ、すっと私の中から浦さんの気配が消えると同時に、廊下の先の扉の前に浦さんが実体化して現れました。
「ここで着物を洗うように……」
そう言って浦さんが開けた扉の向うには石造りの床で、中央に一辺が1mより少し大きいぐらいの穴がぽっかりと開いています。その穴には水がたっぷりと入っていて、その水を入れる為の水路と排出するための水路が部屋を横切っています。
その穴には大きな木樽が水に浮いていて、その中に着物を入れるように浦さんが指示を出しました。浦さんの言葉通りここは洗濯小屋で、すぐ横には川が流れています。位置的には温泉から少し川沿いを下ったところです。
洗濯小屋と言っても当然ながら洗濯機を作れる訳がありません。代わり何かないかと最初に試みたのが「浄水」による洗浄でした。でもそれでは染みついた汚れを落す事が出来ず失敗という結果に。更に色々と試行錯誤した結果、前世でテレビ番組で見た川の流れを利用して自動でお芋を洗う水車を思い出してそれを試すことにしました。お芋ではなく服を入れて回せば横になった樽の中で服が攪拌されて、まるでドラム型洗濯機のように服を洗う事が出来ました。
これで水力式、或は水車式洗濯機の完成です。
最初は川に直接浮かべていたのですが、石鹸を使ったりして汚れた水を浄化槽へと流し込む事を考えると、川の水を引いてきた方が良いという事になり、小屋の中に石造りの槽を作ってそこに浮かべることにしました。
これで橡も母上も冬の冷たい水で服を洗い、手が痛くなる事もなくなります。何より温泉のお湯も引いているので、お湯で洗う事もできるのです。
橡が汚れた服を洗濯機の中へと入れると、横に置いてある棒と呼ぶには太いしっかりとした角材を壁の穴に差し込みました。するとその角材がぐるぐると回転し始めます。この穴は小屋の外の大きな水車に繋がっていて、軸で繋ぐ事で洗濯機を回す事ができるのです。そうやって洗濯機が回り始めたら水の中に液体石鹸を適量入れて、このまま暫く放置です。後で水路の水門という名の木の板を引っこ抜いて排水してから再び水を入れてすすぎます。それが終わればこの部屋にある二本の丸い棒を組み合わせたような手回し式のローラー型脱水機を通せば、あとは干すだけです。
再び渡り廊下を通って、次に案内したのは母屋の中にある台所です。竈を設置しなくてはいけない関係で床に木材は使えません。この世界では一見すると土にも見える三和土を使った土間が多いのですが、掃除のしやすさなどから私は石畳にしてもらいました。何にしても台所に用がある時は草履を毎回はかなくてはならないのが面倒なところです。
また竈も大昔の煙がそのまま出てくるタイプではなく、煙突を付けて排煙できるタイプの竈をフレーム映像で見せて再現してもらいました。
祖父母の家がかなり古い様式の家で本当に助かったと思います。もう使ってはいませんでしたが、此処に再現したものと同じような竈があったんです。祖父母の家には他にも粉に挽くほうの石臼や、餅を搗く方の石臼もありました。もっとも挽くほうの石臼は、もう使う事が無いだろうからと溝のある面を上にして庭で飛び石として使われていましたが……。まぁそれも含めて助かりました、なんせ断面がしっかりと映像として残せていたので。
そんな台所には浦さんの「浄水」と「流水」が籠められた霊石があり、上水道も完備しています。そして竈には桃さんの「竈の中の炭に発火」という条件付けがされた霊石もあります。おかげで浦さんの霊石よりも少し大きいサイズの霊石です。炭限定なので竈の近くに竹籠を置いて、その中に竹炭をたっぷりと入れてあります。
次に案内したのは台所からすぐに入れる食堂で、続き間で奥には居間もあります。基本的にはゆったりと過ごす為の場所ですね。
そこを通り抜け、個人の部屋がある一角へと向かいます。部屋の作りは基本的にみんな同じです。大人も子供も男性も女性も主も従者も同じです。
部屋の中にあるのは平安風天蓋付きベッドともいえる御帳台です。もっとも肝心要のカーテン部分の布も布団も何もかもが作れていないので、現在はまだ骨組みだけの状態です。
壁にある扉はクローゼットで、その上部にはロフトがあります。これで収納もばっちりです。
机はこの世界では珍しい、私の世界では普通のシステムデスクと椅子です。こちらだとローデスクなので長時間座っていると足が痺れちゃいそうなので、こちらにしました。
他にも細々としたものは多々ありますが、大型家具はこんな感じです。
そして三太郎さんの部屋は別棟になりました。私としては家族として同じ母屋に住んでほしかったのですが、精霊が一緒に住むなんて母上たちが気を使って大変な事になるぞと三太郎さん全員に言われて、色々と悩んだのですが直ぐ近くの別棟ならばと妥協することになりました。ただ一緒の食事だけは譲れませんでしたが。
個人部屋の後は、母上たちの機織り部屋と叔父上たちの仕事部屋を案内しました。機織り機は技術に定評のあるヤマト国の最新型らしく、金さんが拠点作りの情報取集でヤマトの国に行った際に見た物を再現してくれました。とても大きな機織り機が橡のと合わせて二台もある為に、拠点の中でも上位を争う広さの部屋です。
叔父上たちの方は仕事部屋と言っても、狩猟の道具の製作や手入れをするための部屋らしく母上たち程の大きさはありませんでした。
そんなこんなでかなりの時間をかけて母屋を回り、再び居間へと戻ってきました。早速とばかりに橡が竈でお湯を沸かしてお茶を淹れに行ってくれ、そのお茶を飲みながら皆で座って休憩することにしました。お茶はこの辺りで良く採れる葛(のような植物)の葉を乾燥させては揉んで、また乾燥させてを繰り返したモノを使ってもらいました。お湯を沸かしている間に横で乾燥させた葉を炒ってもらって、それにお湯を注げば葛の葉茶の完成です。
「あの、水の精霊様。ここの床は何だか暖かいように思うのですが」
座ってお茶を飲んでいた母上が何かに気づいたようで、床に手を何度も当ててから恐る恐ると言った感じで浦さんに声をかけました。
母上、良く気付きました!
「えぇ、この床の下や壁の中には常にお湯が流れているのです。
その為、冬でも暖かく過ごせるはずですよ」
と浦さんが母上の疑問に答えてくれました。これが私が考えた最強の……ではなく快適な生活の為の方法の一つです。
洗濯機と同じように作りたくても作れないのがエアコンでした。でも夏の酷い暑さや冬の厳しい寒さは体調不良を引き起こす要因の一つなので何かしらの対策が必須です。母上たちには何が何でも疫病死エンドを回避してもらいたいのです。それに私自身もエアコンの無い生活には耐えられません。
色々考えた結果、床下にお湯を流せば良いんだって事に思い至りました。いわゆる温水式床暖房というやつですね。温泉では常にお湯が湧いては流れ出ていくのだから、有効活用しなくては勿体ない!
床暖房用に流し込むお湯の温度は、何度も試した結果40度ぐらいのお湯が丁度良いという事になりました。偶然にも泥を沈殿させ終わって浴槽に流し込むお湯の温度とほぼ同じで、改めて温度設定をする必要が無くて助かりました。もっとも雪が積もる真冬になったら温度を上げる必要はあるんでしょうけどね。
そしてその温水床暖房を壁にも適用させました。こちらは冬でも使いますが、どちらかといえば夏の暑さ対策用です。お湯を引き込む所の近くには弁があって、その弁を切り変えることによって川と温泉、どちらから水(或はお湯)を引き込むか選べるようにしてあります。これで暑くなれば床下と壁の中を川の冷たい水が流れて室温を下げる事ができます。
「これが精霊様のお知恵、そして御力なのですね……」
浦さんの説明を聞いた母上が呆然としながらそんな事を呟いています。そんな母上の横で兄上と私は、こっくりこっくりと船を漕ぎはじめていました。
うん、そろそろ眠気の…限界が………。
その後、私と兄上が寝ている間に、母上と橡は運ばれた荷物を整理したり、浦さんや金さんから渡された糸で布を織る下準備をしたりしたようでした。
その後、暗くなる前にもう一度お風呂に入り、晩御飯を食べ……。
桃さんの作ってくれた「発光」の霊石で、夜でも明るい部屋に母上たちが吃驚してちょっとした騒ぎになったりもしましたが、どうにか無事に今日一日が終わりました。
あぁ……疲れた…………。
今日は疲れすぎたから、もう何も考えたくないし何もしたくない。
<なぁ、俺様いつまで隠れてりゃぁ良いんだよ!
金と浦ばかり出てずりぃだろっ!!>
そんな桃さんの愚痴が聞こえてきても、返事が出来ない程に疲れきっていた私でした。
そういえば、この世界の女性たちは嗜みとして機織りの腕を磨くのですが、「より綺麗に、より早く、より大きく」という3つの重要ポイントがあるのだそうです。その結果、華族女性の作る布の幅はどんどんと大きくなっていき、今では2m弱ぐらいになったのだとか。私の感覚では、それは反物じゃなくて絨毯なんじゃないかと思うぐらいのサイズです。
それを母上たちは岩屋の壁の天井付近に取り付けた横木から経糸を無数に垂らして、毎日少しずつ織り上げていった訳です。その根気に頭が下がる思いです。
その母上たちの努力の結晶のような布を、浦さんに指示してもらいながら母上と橡に服へと仕立て上げてもらいます。
兄上と私はドーリス式キトン。私はまだ無理でしょうが兄上なら自分ひとりで着替える事ができる服としてこちらを選びました。本来なら足首が隠れる長さのキトンですが、私と兄上は膝が隠れるぐらいの長さにしてもらいました。その長さの方が服を踏んで転ぶ心配もありませんし、トイレも楽ですしね。
そして母上と橡はイオニア式キトンで服を作る事になりました。成人女性は肌を極力露出させるものではないという価値観があるようなので、ドーリス式だと腕が丸出しになってしまってアウトなのです。その点、イオニア式だと布はより多く必要になりますが、袖が作れます。まぁちょっと穴だらけな袖になりますが。
後、忘れてならない物が母上たちの下着ですね。この世界では小さい子供は下着をつけないのですが、母上たちには当然ながら必要になります。ただこの世界の下着は私に馴染みのある下着とは全く形状が違っていて、私から見ればタイトな膝丈の巻きスカートにしか見えません。ほぼ同じ形状をしていたのは祖母が持っていた湯文字です。和服を着る時につける下着ですね。
ちなみに男性用の下着は干してあった洗濯物を見る限り、褌と同じ形状のようです。褌の種類や締め方は良く知らないですし、叔父上たちの着替えをマジマジと見た事も無いので着用法に関してはちょっと解りません。
「不思議な形の着物ですのね」
そう言いながら帯と呼ぶには少し細い紐を腰に巻いて締める母上に、橡も頷き返します。母上たちが岩屋で着ていた服は平安時代ごろの庶民の女性の服に近く、小袖の上に褶だつものと呼ばれる巻きスカートと言えば良いのか、短めの行灯袴と言えば良いのか……。そんなのを着けた格好でした。全体的なシルエットとしてはスットン!って感じですね、上から下までストレート。
そういう意味ではキトンも同じようなシルエットなので、母上たちも抵抗が全く無いとは言えないものの、許容できる範囲だったのかもしれません。
全員が新しい服を着終えたら、母上と橡には椅子に座ってもらいます。そしてテーブルの上にあった小さな陶器の瓶を手に取ります。小さな瓶といっても私が持てば両手にあまるサイズではあるのですが、摘まみのついた蓋をあけて中身を手のひらに取りだします。
「はーうえ、おめめ ぎゅーして」
そう言って自分も目を瞑ってみせました。そうして目を瞑った母上の顔に手のひらで温めたトロリとした液体をぺちぺちと叩き込みます。
「な、何をしているの? 櫻 これはなーに??」
驚きはしたものの「精霊様の御力」の連続の後だけに、とりあえずは抵抗はしないで受け入れてくれる母上。
「おかお んー、うるうる? ぷるぷる? んーー よいものれす!」
説明が難しいです……。私が手に取っていたのは浦さんに「浄水」してもらった綺麗な水に柚子モドキの種を暫く漬けておいたもので、簡単にいえば化粧水です。
柚子シロップを作る時など、種をお茶パックなんかに入れて一緒に入れておくとトロミがでるのですが、そのトロミ成分が化粧水として使えるんです。
お祖母ちゃんは水ではなくホワイトリカーに漬けていましたが、あれは肌が弱い人にはちょっと刺激が強いと聞いた事があるので、今回は綺麗な水に入れて作りました。更に念を入れて服を作る少し前に、母上たちの肘の内側に少しだけ塗ってパッチテストも実行済みです。母上たちは特に肌が弱いという感じではなさそうですが、今回は色々と初めてな事が多いので、念には念を入れて……ですね。
この化粧水。水で作ると保存がきかないので、将来的にはアルコールで作る事にも挑戦してみたいです。その為には度数の高いアルコールを作る必要があります。度数の高いアルコールは化粧水だけじゃなく、消毒にも使えるので挑戦する価値はあるはずです。
酒税法なんてものはこの世界には存在しないので、作る事は違法でも何でもありません。今まで作っていなかったのは、たんに前世では未成年でお酒を飲んだ事が無かった為にアルコールが身近ではなく、その必要性が今一つピンと来ていなかっただけ。
なんてことを色々と考えつつ、母上の頬を「化粧水よ、染み込めーっ!」と念を込めるようにしてぺちぺちとします。
と、そんな私の横から小さな手がにょっきりと出てきました。そちらを見ると兄上が目をキラキラさせながら
「あにうえにもちょーだい」
と良い笑顔です。一瞬迷いましたが、この化粧水は水と柚子の種しか使っていないので、兄上どころか私にだって使える事は検証済みです。なので
「あい! あいうえ」
と兄上の小さな手のひらにも少しだけ化粧水を瓶から出してあげます。
「橡! これ凄いわっ! 頬が手のひらに吸い付くの!」
私が兄上に応対している間に母上も自分でぺちぺちとしてみたようで、思わずといった感で橡に話しかけました。
「うーばみも、ぺちぺち してね」
兄上に続いて橡の手にも化粧水を出してあげます。そうやって4人でぺちぺちと自分の頬の感触を楽しんだのでした。
全員の身支度が終わったところで、温泉に入る前に着ていた服を部屋の隅に置いてあった大きな籠にまとめて入れます。私が中にすっぽりと余裕で入れるぐらいの大きさの籠なので、大人を含めた全員分の服だって入ります。
「はーうえ、うーばみ、こりぇ もって」
全員分の着物が入った洗濯籠は、重さもさることながらサイズ的に私では持ち上げられないので、母上たちに持って行ってもらう事にします。
「姫様、私が持ちますので姫様は坊ちゃまと嬢ちゃまを」
「えぇ、わかりました」
そう言うと母上は右手で私を抱き上げて、左手で兄上と手を繋ぎました。
「櫻、次はどこへ向かえば良いのかしら?」
「あっちらよ!」
そう言って私が指さした先には扉がありました。
この脱衣場には扉が3つあります。一つは外から脱衣場に入る為の扉、一つは温泉へと続く扉。そして今、私が指さしたのが母屋へと繋がる渡り廊下に出る扉です。
私にとって馴染みがあり、過ごしやすい家にしようと思っていたのですが、どうにもならない問題にぶち当たりました。例えば温泉がその代表なのですが、家の中に設置できない施設や道具がある為、それらを離れとして作るしかなく。
その離れと母屋を繋ぐ渡り廊下を作る必要性が出てきてしまった結果、母上たちに馴染みのある、建物と建物を廊下で繋ぐ寝殿造りもどきな拠点になったのです。
まぁ、みんなの個室は母屋に集中しているので、あくまでももどきですが。
その渡り廊下なのですが、普通に作ってしまうと家の裏に行きたいだけなのにぐるっと大きく外周を歩かなくてはならなくなります。幼児の私にとってはなかなかキツイ距離なので、対策を考えなくてはなりませんでした。三太郎さんと相談した結果、渡り廊下の下を叔父上たちが余裕で通れる程度の高さで作る事になりました。だいたい2m半から3mぐらいの高さなので、渡り廊下だけ2階の高さにある事に。ちょっと不格好ではありますが、実用性重視です。
<浦さん、洗濯小屋で待機お願いします。
私の会話力で説明するの、かなりしんどい事が判明しました>
脱衣場を出て階段を昇った先の渡り廊下を歩きながら浦さんに心話を飛ばします。この後も色々と説明しなくてはならない事が山盛りなのです。
<それは構いませんが、私が詳しく説明できるのは水の技能関係だけ……。
むしろ全ての事に詳しいのはあなたの方では?>
<そうなんだけどね、既にもう疲れてしまって……。
それに今眠気がすごい来てる。気を抜くと寝ちゃいそう>
あくびを噛み殺しながら更に心話を飛ばします。昨日の夜は作業をしていないので、いつもに比べれば寝ている方だとは思うのですが、お風呂で疲れすぎました。
<仕方ありません、駆け足で説明して寝室へと向かうようにしましょう>
そう浦さんが心話を飛ばしてくれ、すっと私の中から浦さんの気配が消えると同時に、廊下の先の扉の前に浦さんが実体化して現れました。
「ここで着物を洗うように……」
そう言って浦さんが開けた扉の向うには石造りの床で、中央に一辺が1mより少し大きいぐらいの穴がぽっかりと開いています。その穴には水がたっぷりと入っていて、その水を入れる為の水路と排出するための水路が部屋を横切っています。
その穴には大きな木樽が水に浮いていて、その中に着物を入れるように浦さんが指示を出しました。浦さんの言葉通りここは洗濯小屋で、すぐ横には川が流れています。位置的には温泉から少し川沿いを下ったところです。
洗濯小屋と言っても当然ながら洗濯機を作れる訳がありません。代わり何かないかと最初に試みたのが「浄水」による洗浄でした。でもそれでは染みついた汚れを落す事が出来ず失敗という結果に。更に色々と試行錯誤した結果、前世でテレビ番組で見た川の流れを利用して自動でお芋を洗う水車を思い出してそれを試すことにしました。お芋ではなく服を入れて回せば横になった樽の中で服が攪拌されて、まるでドラム型洗濯機のように服を洗う事が出来ました。
これで水力式、或は水車式洗濯機の完成です。
最初は川に直接浮かべていたのですが、石鹸を使ったりして汚れた水を浄化槽へと流し込む事を考えると、川の水を引いてきた方が良いという事になり、小屋の中に石造りの槽を作ってそこに浮かべることにしました。
これで橡も母上も冬の冷たい水で服を洗い、手が痛くなる事もなくなります。何より温泉のお湯も引いているので、お湯で洗う事もできるのです。
橡が汚れた服を洗濯機の中へと入れると、横に置いてある棒と呼ぶには太いしっかりとした角材を壁の穴に差し込みました。するとその角材がぐるぐると回転し始めます。この穴は小屋の外の大きな水車に繋がっていて、軸で繋ぐ事で洗濯機を回す事ができるのです。そうやって洗濯機が回り始めたら水の中に液体石鹸を適量入れて、このまま暫く放置です。後で水路の水門という名の木の板を引っこ抜いて排水してから再び水を入れてすすぎます。それが終わればこの部屋にある二本の丸い棒を組み合わせたような手回し式のローラー型脱水機を通せば、あとは干すだけです。
再び渡り廊下を通って、次に案内したのは母屋の中にある台所です。竈を設置しなくてはいけない関係で床に木材は使えません。この世界では一見すると土にも見える三和土を使った土間が多いのですが、掃除のしやすさなどから私は石畳にしてもらいました。何にしても台所に用がある時は草履を毎回はかなくてはならないのが面倒なところです。
また竈も大昔の煙がそのまま出てくるタイプではなく、煙突を付けて排煙できるタイプの竈をフレーム映像で見せて再現してもらいました。
祖父母の家がかなり古い様式の家で本当に助かったと思います。もう使ってはいませんでしたが、此処に再現したものと同じような竈があったんです。祖父母の家には他にも粉に挽くほうの石臼や、餅を搗く方の石臼もありました。もっとも挽くほうの石臼は、もう使う事が無いだろうからと溝のある面を上にして庭で飛び石として使われていましたが……。まぁそれも含めて助かりました、なんせ断面がしっかりと映像として残せていたので。
そんな台所には浦さんの「浄水」と「流水」が籠められた霊石があり、上水道も完備しています。そして竈には桃さんの「竈の中の炭に発火」という条件付けがされた霊石もあります。おかげで浦さんの霊石よりも少し大きいサイズの霊石です。炭限定なので竈の近くに竹籠を置いて、その中に竹炭をたっぷりと入れてあります。
次に案内したのは台所からすぐに入れる食堂で、続き間で奥には居間もあります。基本的にはゆったりと過ごす為の場所ですね。
そこを通り抜け、個人の部屋がある一角へと向かいます。部屋の作りは基本的にみんな同じです。大人も子供も男性も女性も主も従者も同じです。
部屋の中にあるのは平安風天蓋付きベッドともいえる御帳台です。もっとも肝心要のカーテン部分の布も布団も何もかもが作れていないので、現在はまだ骨組みだけの状態です。
壁にある扉はクローゼットで、その上部にはロフトがあります。これで収納もばっちりです。
机はこの世界では珍しい、私の世界では普通のシステムデスクと椅子です。こちらだとローデスクなので長時間座っていると足が痺れちゃいそうなので、こちらにしました。
他にも細々としたものは多々ありますが、大型家具はこんな感じです。
そして三太郎さんの部屋は別棟になりました。私としては家族として同じ母屋に住んでほしかったのですが、精霊が一緒に住むなんて母上たちが気を使って大変な事になるぞと三太郎さん全員に言われて、色々と悩んだのですが直ぐ近くの別棟ならばと妥協することになりました。ただ一緒の食事だけは譲れませんでしたが。
個人部屋の後は、母上たちの機織り部屋と叔父上たちの仕事部屋を案内しました。機織り機は技術に定評のあるヤマト国の最新型らしく、金さんが拠点作りの情報取集でヤマトの国に行った際に見た物を再現してくれました。とても大きな機織り機が橡のと合わせて二台もある為に、拠点の中でも上位を争う広さの部屋です。
叔父上たちの方は仕事部屋と言っても、狩猟の道具の製作や手入れをするための部屋らしく母上たち程の大きさはありませんでした。
そんなこんなでかなりの時間をかけて母屋を回り、再び居間へと戻ってきました。早速とばかりに橡が竈でお湯を沸かしてお茶を淹れに行ってくれ、そのお茶を飲みながら皆で座って休憩することにしました。お茶はこの辺りで良く採れる葛(のような植物)の葉を乾燥させては揉んで、また乾燥させてを繰り返したモノを使ってもらいました。お湯を沸かしている間に横で乾燥させた葉を炒ってもらって、それにお湯を注げば葛の葉茶の完成です。
「あの、水の精霊様。ここの床は何だか暖かいように思うのですが」
座ってお茶を飲んでいた母上が何かに気づいたようで、床に手を何度も当ててから恐る恐ると言った感じで浦さんに声をかけました。
母上、良く気付きました!
「えぇ、この床の下や壁の中には常にお湯が流れているのです。
その為、冬でも暖かく過ごせるはずですよ」
と浦さんが母上の疑問に答えてくれました。これが私が考えた最強の……ではなく快適な生活の為の方法の一つです。
洗濯機と同じように作りたくても作れないのがエアコンでした。でも夏の酷い暑さや冬の厳しい寒さは体調不良を引き起こす要因の一つなので何かしらの対策が必須です。母上たちには何が何でも疫病死エンドを回避してもらいたいのです。それに私自身もエアコンの無い生活には耐えられません。
色々考えた結果、床下にお湯を流せば良いんだって事に思い至りました。いわゆる温水式床暖房というやつですね。温泉では常にお湯が湧いては流れ出ていくのだから、有効活用しなくては勿体ない!
床暖房用に流し込むお湯の温度は、何度も試した結果40度ぐらいのお湯が丁度良いという事になりました。偶然にも泥を沈殿させ終わって浴槽に流し込むお湯の温度とほぼ同じで、改めて温度設定をする必要が無くて助かりました。もっとも雪が積もる真冬になったら温度を上げる必要はあるんでしょうけどね。
そしてその温水床暖房を壁にも適用させました。こちらは冬でも使いますが、どちらかといえば夏の暑さ対策用です。お湯を引き込む所の近くには弁があって、その弁を切り変えることによって川と温泉、どちらから水(或はお湯)を引き込むか選べるようにしてあります。これで暑くなれば床下と壁の中を川の冷たい水が流れて室温を下げる事ができます。
「これが精霊様のお知恵、そして御力なのですね……」
浦さんの説明を聞いた母上が呆然としながらそんな事を呟いています。そんな母上の横で兄上と私は、こっくりこっくりと船を漕ぎはじめていました。
うん、そろそろ眠気の…限界が………。
その後、私と兄上が寝ている間に、母上と橡は運ばれた荷物を整理したり、浦さんや金さんから渡された糸で布を織る下準備をしたりしたようでした。
その後、暗くなる前にもう一度お風呂に入り、晩御飯を食べ……。
桃さんの作ってくれた「発光」の霊石で、夜でも明るい部屋に母上たちが吃驚してちょっとした騒ぎになったりもしましたが、どうにか無事に今日一日が終わりました。
あぁ……疲れた…………。
今日は疲れすぎたから、もう何も考えたくないし何もしたくない。
<なぁ、俺様いつまで隠れてりゃぁ良いんだよ!
金と浦ばかり出てずりぃだろっ!!>
そんな桃さんの愚痴が聞こえてきても、返事が出来ない程に疲れきっていた私でした。
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