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秘策があるらしい

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事情通のアロンソさんから、Bランク冒険者でも通じると、お墨付きを得た冒険者ストーンさんと、グラスさんと、ウッドさん。
ことろが残念ながら、私は冒険者について詳しくない。
よって、私はBランク冒険者の世間的な評価も、一般的に知られる強さもわからなかった。
Sランクは除くとして、冒険者の中では実質上から2番目のランクなので、弱いという事はないのだろうけれど。
冒険者ギルドはダンジョンに入る冒険者をDランクからとしている。
だから、私としては何とも物足りないのだけれど、どうもアロンソさんか紹介された冒険者3人組は、ダンジョンダイエット部の護衛として目標とする強さには達したらしい。

「良く頑張ってここまで付いてきた。今日は、お前達に重要な話がある」

王都の市民街別邸の鍛錬用の庭で、動きやすい服に着替えた私とロッゾが見守る中、髭面のモールド伯爵家騎士デニムが、威厳を保って3人に話しかけた。

「これから話すのはモールド伯爵家最大の秘密が多分に含まれている事だ。…まぁ人に知られた所で、たいした事にはならない。大っぴらに宣伝するような物じゃないというだけの話だが、周りには話さないように」

デニムはチラッチラッと私を見ながら説明する。

「特にお前達が、将来、モールド伯爵家の騎士になりたいという選択を残すのならば、絶対に周りには漏らすな」

「「「はい!」」」

ストーンさん、ウッドさん、グラスさんは緊張しながらも頷き答えた。
貴族のお抱えの騎士になる事は、冒険者が目的とする立身出世のストーリーの一つだ。
モールド伯爵家としては、魔の森の攻略で予算は大きく増えたが、特に伝もないので新たに騎士を増やすのは大きな課題になっていた。
なので、人の集まる王都で有用な人材を探したいのだ。
特製ポーションを乗り越えたこの3人を騎士として候補にいれるのは特に問題はない。
3人がモールド騎士団に入りたいかは別として。

「お前達には、マリアお嬢様と、そのお友達とダンジョンに行って貰う予定だ。が…、お前達の仕事は、ダンジョンで御令嬢を護衛する事などではない!」

ここで、冒険者3人組は顔を傾げた。
貴族令嬢と共にダンジョンに行って、彼女らの護衛をしなければ、いったい何をしろというのだろうか。
冒険者3人はそう考えているに違いない。
いや、私はともかく、サクラコさんは守って欲しいのだけれど?
デニム…、後でお説教ね。
何故かぶるりと震え、顔を青ざめたデニムは続ける。

「何故、護衛しないで良いのかという顔だな? 直ぐに解るだろう。お前達の仕事は、とにかくマリアお嬢様についていき死なない事、それだけだ。ダンジョンに入る前の取り敢えずの仕上げとして、お前達の今日の訓練は、お師匠さ…いや、マリアお嬢様にしてもらう」

私は数歩前に進む。

「皆様、本日はよろしくお願いします。紹介はもう良ろしいわよね?」

冒険者3人組とは既に顔見知りである。
呆気にとられるストーンさん。
何かを察するウッドさんとグラスさん。

「では本日のトレーニングを説明します…本日のトレーニングの目的は…」

さて、物足りないとはいえ、モールド伯爵家騎士団の、騎士見習いに付いてこれる程度には基礎体力の付いてきた3人。
今、彼らに一番足らない物は何だろうか?
私はマシンガントークで説明する。
私が思うに、彼らに必要不可欠で足らない物とは、実戦における恐怖耐性、死の克服である。
仕上げとなる今日の特訓では、臨死体験によって、最低限度の恐怖耐性を身に着けてもらおう。
実績あるモールド伯爵騎士団の新型トレーニング『A R A G Y O U』の一部にはそういう訓練も入っている。
効果についてのデータも揃っている、見習いの人がやった事はないけれど。
あっ、そうだ。
訓練のまだ未熟な人材だと、臨死体験の効果はどう出るのだろうか?
新たなトレーニングの可能性の匂いを感じ、私はニヤァと微笑んだ。
冒険者3人組は空気に飲まれて困惑した。
ゾッドとデニムは私の微笑みを見て、白目を剥いた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「前にロムスタ伯爵軍と戦った時からすると、あなたたちが抜けているけれど、モールド伯爵領は本当に大丈夫なのかしら?」

気絶した冒険者3人組とデニムの身体を積み重ねて、手をはたきながら私はロッゾに聞いてみる。
千を越えるであろうロムスタ伯爵と貴族連合軍に対して、モールド伯爵家には騎士の数は100人足らずしかいない。
農民を徴兵しても大きな戦力にはならないだろう。
その、ただでさえ少ないモールド騎士団から、見習い騎士とはいえ、強さとしては上位のトール。
執事とはいえ、強さとしては上位のロッゾ。
そして、正騎士ではデニムとヴァイスが王都に来ている。
何よりも、回復魔法を使える切り札である私がモールド伯爵領には居ない。

「正面から戦えば勝てるでしょうが、いかに我らが居たとしても人死は免れないかもしれません。しかし、旦那様によると、アーロン騎士団長と必ず上手くいく秘策を考えたそうです」

必ず上手くいく。
詐欺師の常套句である。
私は敬愛するお父様と、普段は頼りがいのあるアーロン騎士団長の、脳筋二人組が、高笑いしながら握手をする姿を思い浮かべて眉をしかめた。

「危なそうね」

「…現状動かせる戦力がおりません。信じて待つ他ありませんかと。それよりお嬢様、秘策の内容にご興味はありませんか?」

ロッゾは慇懃に頭を下げる。

「そうね。まずはその秘策、聞かせて貰えるかしら?」


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