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パンサさんとアロンソさんとウォルフ様

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貧民街の主アロンソさんと聖殿騎士ウォルフ様という最悪の組合せなのに、何故か終始和やかに進む会話。
職はどうあれ、中の人は確実に善人なので、和やかに進むのは当然なのかもしれないけれどさ。私は納得がいかない。
会話内容の大半はウォルフ様ことウォール(偽名)様が今畑でつくろうとしているブランド果物で、ブランド果物流行りのスイーツをどう活かしたいかという野望である。
不思議と盛り上がっているのは、聞き手であるアロンソさんの力量であろう。
いや、実はというか私は知っていたのだがアロンソさん、凄いのだ。
今も豊富な知識で卒なく相槌をうつ事に徹している。
アロンソさんと話す人は必ずといっていいほど同族見つけたりとお喋りになるのである。
私も王都で流行っている鍛錬方法を聞こうとして、気づいたら自分ばかり喋っていた。
いや、情報屋のニコラスさんなど例外はいるんだけれどね。
そんな中、豪商のパンサさんがモールド伯爵家別邸に訪れた。

「お嬢様。パンサ様がいらっしゃいましたが、いかがなさいますか?」

執事のロッゾが耳打ちしてくる。
パンサさんはアロンソさんと面識がある。
そのアロンソがウォルフ様とイザコザを起こしてない以上、歓談に参加しても問題は無さそうだ。

「お通しして構わないわ」

ロッゾがパンサさんを案内する。
パンサさんは何だか余裕のない、緊張した顔だった。
パンサさんはたいてい耳よりな情報を教えに来てくれるのだが、本日は何の用だろうか?
部屋に通され、アロンソさんの顔を見たパンサさんは少し驚いたように目を見開いたが、直ぐに平静を取り戻したようだ。
ひょっとしてアロンソさんに聞かれたくない話をしたかったのだろうか?

「本日は若い仲での集まりでしたか。お邪魔してしまいましたかな?」

「そんな事ありませんわ。アロンソさんはお知り合いですわよね、パンサさん。こちらは…、えっと、コンバラリア子爵家の嫡男でいらっしゃるウォール様です」

アロンソさんへの紹介では濁したけれど、商人のパンサさんへの紹介となれば、爵位も紹介した方が良いだろう。
ウォルフ様の爵位を聞いたアロンソさんの目が細められた。
まぁ、今聞いた爵位も、表向きの爵位なんですけれどね。残念アロンソさん。

「ウォールだ。モールド伯爵家には度々世話になっている。ここに来るなら会う機会もあるだろう。よろしく頼む」

「…王都で商会を営んでいるパンサという者です。ウォール様、よろしくお願いします」

侍女のユリシーズが席についたパンサさんに紅茶とクッキーをもてなそうとする。
もちろん特製でないクッキーだ。
パンサさんは悩んだ顔をしながら、覚悟を決めたようにクッキーを断った。

「本日は最近の東方地域の噂をお教えしに来ただけで、直ぐ帰りますので」

「あら。では、持ち帰れるよう包ませますわ。来客の皆様に喜んで貰わなければ我が家のシェフの頑張りが浮かばれませんもの。頼むわねユリシーズ。それでパンサさん、顔色からして良い噂ではなさそうですけれど」

そう言って、私はクッキーをユリに下げさせた。
パンサさんは、アロンソさんとウォール様をちらりと見た後に、呟くように話出した。

「マリア様は東方地域の商人の動きをご存知ですか? どうもきなくさい噂が流れているようで」

東方地域とは私の実家モールド伯爵領を含む地域の事だ。
東方地域の商人にとって物流をおさえていたロムスタ伯爵の影響は未だに大きいが、どうやら、あの噂が流れるのは抑えられなかったらしい。
私は頬に手を当てて困ったわねとアピールしてみる。

「それでいて、我がモールド伯爵家と関係がありそうな話題ですわね?」

謎解きのようにパンサさんに質問し、既に心当たりがあるように答える私。

「…既にご存知のようで。相当に急がせた話だったのですが」

モールド伯爵家の情報の早さ驚き、苦笑するパンサさん。
何事かと耳を澄ませるアロンソさんとウォルフ様。
私は執事のロッゾに目を向ける。
ロッゾは懐から手紙を取り出し読み始める。

「ロムスタ伯爵に動きあり。東部地域の貴族を紛糾し攻めてくるようだ。こちらは大丈夫。マリアは何も心配しないように。これの事ですかな?」

ロッゾの話に途端に目を見開くアロンソさんとウォルフ様。
まぁロムスタ伯爵家はウォルフ様のご実家だしね。驚いたってことは初耳かな?
モールド伯爵家はこれまでの王国の歴史に前例のない、全く新しい速達方法を手に入れていた。
まだ運べる手紙は小さく、情報の容量は小さいのだけれど。
だからパンサさんが来る随分早く前に、王都側はロムスタ伯爵の情報を手に入れていたのだ。

「…外に出して良い情報だったのですか?」

どうやらパンサさんの持ってきた情報と同じ物だったようだ。
今の東部地域の噂なんて他に大きな物はないから当たって当然なのだけれど。
二人の部外者を見て心配するパンサさん。
でも、まぁこれって、隠そうとしても、ウチ側が隠せるような話ではないんだよね。
東部地域の情報を王都でどうするかは、ロッゾとも相談済みだ。

「突かれて痛い話ではないんですもの、モールド伯爵家としては」

言外に、東部地域の商人が噂しているのは正確な情報で、かつ、モールド伯爵家としては問題ないけれど、ロムスタ伯爵家としては問題のある噂だと含ませる。
ウォルフ様の表情は…、我関せず、動かないみたいだね。

「でもパンサさん、わざわざいらして下さったのに無駄足を踏ませてしまいましたわ」

「いえいえ、お気にならさずに。たいしたお力になれず申し訳ありません。…マリア様。何かあれば商会にご連絡下さい。パンサ商会はいつでもモールド伯爵家にお味方しますので」

「それは…、ありがとう存じます」

「では目的も達せましたし、私はこれで失礼します」

私、というかモールド伯爵家の対応を見たからだろう。
流石は目端の利くパンサさんだ。
直ぐに商品として動くらしい。
ロムスタ伯爵陣営とモールド伯爵家が戦うとして、パンサさんはその結果をいったいどう予想しているのか。
世間一般にはロムスタ伯爵は負け無しの中央の雄…なハズなんだけれど。
先のモールド伯爵家とロムスタ伯爵家の戦いの話も王都では殆ど広がっていないしね。
慌てて帰ろうとするパンサさんにクッキーの包みを持たせる。
パンサさんは、アロンソさんとウォルフ様にも丁重に挨拶を済ませ、慌てで帰っていった。
アロンソさんとウォルフ様は思案気な顔だ。

「…きな臭え話みたいだな嬢ちゃん? ウチで出来る事はあるかい?」

細かい事は聞かずに助力を申し出てくるアロンソさん。
私は思案する。アロンソさんに任せられる仕事。
モールド伯爵領は戦力的に問題ないとして、東部地域の噂によって、ここ王都で何かしらの変化はあるのだろうか?
もう借りている冒険者の3人は、私のダンジョン攻略計画に外せないのよね。
トールも今は冒険者で頑張ってもらいたいし。
いざ何か起きて対応しようにも、とにかく人手が足りないのだ。

「丁度良いですわ」

もしロムスタ伯爵が王都で仕掛けてくるとしたら、その手段はいったい何だろうか?
ロムスタ伯爵のやってきそうな事を考えて、私はアロンソさんににこりと微笑んだ。

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