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冒険者になろう!(冒険者にしよう)

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「でね、チェルシー様にヒロインちゃんとアルビン殿下が別行動になるような部活にしろって怒られちゃったの。今さらどうしろっていうのかしら?  理不尽だと思わないユリ?」

チェルシー様に説教された私は王都の別邸に帰ると、侍女のユリシーズに愚痴った。
アルビン殿下たちがダンジョンダイエット部にお助けに来てくれるのは、もう決まっていたことなのに、覆すなんて田舎伯爵令嬢には無理難題なのだ。

「その女性とアルビン殿下が近づかないよう、前々から頼まれていたのですよね?  …チェルシー様のお怒りはごもっともかと」

「えぇ、味方してくれないのユリ?」

「マリアが…、マリア様が無体を言う時はお諌めしろと奥様から承っていますので」

私は頬を膨らませてぶーぶーユリシーズに抗議する。

「一緒にスラムの親玉の家に乗り込む無茶はしたのに」

「あれは…無体や無茶ではなく、マリア様の実力からすれば、お使いにもならない簡単な事だったかと」

「力で解決しない事なんて…。不得意分野がまた増えたわ」

「…それで、今回の件は、いったいどうなさるおつもりですか?」

「むむむ」

アルビン殿下の申し出は、ダンジョンに入るのに、貴族の女性だけでは危ないという配慮から発生した物だ。
だからアルビン殿下の申し出を断るなんてそもそも不敬な事だけれど、少なくもら男性のお手伝いを入れて断るべきなんだろう。
私は脳の検索ページから頼れそうな男性をざっと引き出した。

「アルビン殿下から見ても、頼れそうな男性でなければならない、というのが今回のネックよね。」

「プロを雇いますか?」

ユリシーズの問いに私は首を振った。

「参加させるのは身内よ。でないと、おもいっきりダンジョンを楽しめないじゃない?」

私のパーティーには、ヒロインちゃんも参加する。
もし私が王都で力を隠すつもりなら、誰を参加させようが変わらない。
結局、私は先頭に立って魔物を倒せないのだから。
だけれど、ダンジョンに夢中の私はそんな事も忘れ、身内の男性から、ダンジョン探索についてこれそうな人をピックアップした。

「ユリ。冒険者ってギルドに縛られるような規則はあったかしら?」

「余程の事情がない限りは、強制参加の緊急クエストがあったハズです」

「ウチの領の人材を冒険者にするのはどうかしら…」

「冒険者ギルドと強いコネクションを手にいれるとするなら、ありだと思います。適材が居れば、ですが」

「正統な騎士であるデニムとヴァイスは、私の一存では冒険者に動かせないわね。従者のレオナールだと戦闘に耐えないわ。私がレオナールを訓練しても良いのだけれど今回は時間が足りない」

「となると、騎士見習いと兼任になりますが…」

「そうね。今回の件は良い機会なのかもしれない。呼んでちょうだい」


⭐  ⭐  ⭐  ⭐


「お呼びと伺い参上しました」

ユリシーズの見ている中、王都で知り合った豪商のパンサさんとの交流に、お手紙を書いていると、ノックと共に待ち人がやってきた。
ユリシーズが扉を開けると、男性4人が、私の使用している執務室にゾロゾロと入ってくる。
その内の一人は、緑髪でおかっぱ頭の我が領の騎士見習い。
そして、民族衣装を身にまとったアロンソさんから紹介された冒険者の3人だ。
寡黙なストーンさん、長身なウッドさん、陽気なグラスさん。
3人は秘薬の試練を越えたので、トールに主導させた調練を実施中だった。

「トール。三人の訓練は順調かしら?」

「今は三人に訓練に耐えうるための基礎体力をつけています。モールド伯爵式トレーニングに入るには、…後1ヶ月は欲しいです」

トールは自信なさ気に言う。

「ストーンさん、モールド伯爵領のトレーニングはどうかしら?  ついて行けてまして?」

「こんなに厳しい訓練が世の中にあるのかと思い知りながら、なんとかついて行っている」

「…そう。それは、とても良かったですわ」

ストーンさんは静かに私に返答した。
ストーンさんの両脇をかためる、ウッドさんとグラスさんは、ストーンさんを見ながら頬をひくつかせている。
私は視線を鋭くして、3人の状態の把握に務めた。

「トール。私は後進に物を教える事は、とても大事な機会だと思うの。それは、決してモールド伯爵領をより強くするからじゃないわ。基礎を一から学び直して、あなた自分自身がより高みに登るために、必要な取り組みだからよ」

私のただならぬ雰囲気を察したのか、ごくり、とトールの喉がなる。

「それに、きっとあなたに足らない自信もつくわ。それを私はとても良い機会だと思っているの、今、あなたは新しい大きな壁に突き当たっているから」

「…そのような機会を与えていただき、ありがとうございます」

トールは何を思っているのか、つっかえつっかえ、返事をした。

「そのね。あなたを見ていて、最近、私思ったの」

私は頬に手を当てて困ったわと呟いた。

「マリアさまは、ボクを見て…何を思ったのでしょうか?」

どうしてかしら?
今のトールは怯える子犬のように縮こまっている。

「どこまでも抜けきれない甘さを見つけたに、決まってるでしょ」

ユリシーズがぼそっと呟く。
ストーンさんたちは、それを聞いて白目になっている。

「トール、私が見るに、あなたの中には、とても恐ろしい鬼が眠っているの。そして、あなたはその鬼を恐れている。だから実力は問題ないのに、ユリに甘いだなんて言われるんだわ」

私はほっとため息をついた。

「…鬼」

「そう。でもね、眠れる鬼はきっと才能なの。あなたが真の自信を持ち、恐がらなければね。私、後進の教育よりも良い事を思い付きました。3人の訓練はデニムと私が引き継ぎます。その間にトールは冒険者として、頂点に登り詰めるつもりで活動しなさい。あなたが本当の自信を手にいれるために」

「冒険者ですか?!  騎士見習いの仕事はどうすれば良いでしょうか?」

泣きそうになりながらトールが反論してくる。

「トールの籍は残しておくから大丈夫です。きっと冒険者の経験があなたを高みに導いてくれるわ」

「騎士から…冒険者」

よよよと、崩れ落ちたトールは、肩を落として執務室を出ていく。
白目のまま、教官役だったトールを見る冒険者三人組。

「頑張るのよー、方針はロッゾに聞きなさい」

「出来るだけ早くゴールドランクになりなさいよー」

私とユリシーズはにこやかにトールを見送った。

「「これで良し」」

私とユリシーズはハイタッチをする。
残された冒険者3人組は、トールの扱いに目を丸くした。

「さて、中庭に出ましょう。あなたたの実力を見なきゃ。モールド伯爵式トレーニングはあなた達を確実に『高み』に連れて行ってくれるわ。たとえ、準備不足で到底ついて来れないとわかっていても」

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