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「魔法の属性をそんなにも簡単に混ぜる。精霊種の特性かしら? …ふーん?」

ボクとフマが魔女を見上げ、絶句している中、管理役の魔女は指を顎にやり、なにやら一人で考え出した。
管理役の魔女は複数人いるのだが、この魔女はボクたちに当たりの強くない魔女だった。
魔女が流し目でちらりとこちらを見ると、ノームたちはわーっとフマの背中に集まって隠れた。
フマを見れば、魔女の顔をジッと睨むように見ている。

「なぁに? 魔女はそんなに怖い?
ウチの契約は厳しい物ではなかったハズだけれど。それよりも、何故水魔法と火魔法が反発しないのか、誰か教えてくれる?」

魔女の問いに答えは無い。
こんな精霊を騙すような仕事場の監査役の魔女に付き合っても良いことなどないし、そもそも、ボクたちは、水魔法と火魔法が反発するどころか、魔法が混ざる事だって知らなかったのだから。
しんと辺りを静寂がつつみ、魔女か一つため息をついた。

「良いこと? 普通魔法は混ざったりしないわ。こういう風にね」

魔女は腰から杖を持ち出すと、呪文を呟き、火の初級魔法を出すと、そのまま空中に維持する。
続いて水の初級魔法を唱え、火の初級魔法に当てると、二つの魔法は相殺して消えていった。

「ね? 混ざらないでしょう?」

ふふんと魔女は得意げに言った。
確かに、魔女の魔法は混ざらないみたいだ。
ただ、一つ言えることと言えば、今回は土魔法を介していないみたいだけれど。

「不思議よね? 精霊種にだけ出来る特技なのかしら。アナタたちは知っている?」

魔女がノームたちに尋ねると、ノームたちはフマの背中に隠れてながら、あわあわと両手を振った。
ノームを背中に庇い直し、フマは魔女に言う。

「ここの契約は酷くはないけれど、働かせた上に精霊を椅子に縛りつけて殺してしまう。やっている事は他と変わらない。酷い事だわ」

「…そうねぇ。ワタシもウチの方針はどうかと思うのだけれど。精霊になったばかりの小物なんて、ウルに変えてもたかが知れているもの。でも、ワタシは、その3体を椅子から剥がす事を、見逃してあげたでしょう?」

やはり、ボクたちがノームを助けたのは魔女にバレていたようだ。
まずいのではと、ボクの頭が警告でいっぱいになる。
まずいまずいまずいマズい…。

「だって本来マナ効率から言えば、働き続けて貰って成長してからの方が…。いえ、可哀想だもの。アナタたち精霊種の今の立場ってネ」

そう言うと、魔女は怪しくうふふと笑った。
ボクはこれから何が起こるのかと恐怖で萎縮する。
いつかフマに聞いたように、突然何も出来なくされて魔石にされてしまうのだろうか。

「フマ…やめようよ」

ボクはフマを止めようとした。

「もし魔法の疑問に答えるなら、あなたは、これからも私たちに協力してくれるの?」

しかし、フマは怪しく微笑む魔女に協力を求めるのだった。
魔女の目が逆三日月の形に細められた。


       ◆


ダンジョンの外に出ると、そこは小高い丘の中腹で、崩れかけた石の壁が所々に立つ、木の疎らな草原地帯だった。
遠く方にある切り立った山脈状の岩山からだろう、乾いた暖かい風が俺に吹き付けてくる。
一見して動物は見当たらないが、探せば直ぐに見つかりそうな気配ではあった。
あのハイエナのような動物は外から来たのだ、恐らくは肉食動物であろうから、ここには草食動物もいるに違いない。
俺はいったんダンジョンから少し離れて、来たほうへと振り返った。

「モモモ…」

ダンジョンは、石の壁に囲まれていて、少し離れたら見失い、帰ってこれなくなりそうな立地にあった。
廃墟か…。
石壁の多さから、かつては栄えていたと思われるここには、人の住んでいなさそうな気配しかない。
俺はもと来た方向を見失わないよう慎重に注意しながら、見晴らしの良いであろう丘の上へと登りはじめた。
周りに何があるのかを確かめるのだ。

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