cognition-コグニション-

山本ハイジ

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 脳内の写真のフォルダを開く。
 並ぶ写真の左上を表示させる。栗色の柔らかそうな髪の犬が写っていた。
 青空の下、円盤をくわえ誇らしげに振り返っている姿。
 餌皿に盛られた褒美の特別なおやつを尻尾を立てて頬張る姿。
 傷や痣の目立つ体を浴場で洗われて気持ちよさそうにしている姿。
 そんな色々な場面をスライドしていくと段々痩せ細っていく姿。
 ……それでも幸せそうに笑っている姿。

 荒々しく寝室のドアを開くと、ドムはベッドへ大股で向かった。
 裸になって俯せで寝ているサブの柔らかい髪を引っ掴む。
「なぜ畜生が主人のベッドで寝ているんだっ……!」
「あッ……!?」
 頭皮を強く引っ張られ、悲鳴を上げるサブをドムは床に放った。尻餅をついた格好でサブは目を丸くしてドムを見上げる。
「ドムさん、急にどうしっ……!?」
「ご、主、人、様、だっ!」
 すかさずドムはサブを蹴り倒す。サブは蹴られた肩を押さえ呻きつつ――垂れた耳をぴこっと立てた。
「……はい、ご主人様」
「good boy! ほら、犬らしく四つん這いになれ!」
 サブは目頭が熱くなるのを感じながら、四つ足になる。尻尾もふわっと立った。
 ドムはサブの後ろで膝をつき、ズボンの前を開くと取り出したペニスを軽く扱いてからきゅっと締まったアヌスに宛てがう。
「いっ、……!」
 勃起して形の良いペニスが慣らしていない穴を薄い皮膚を裂きながら押し拡げる。痛みにくねる細い腰をしっかりと掴み、ドムは容赦なく挿入していった。
「いっ、痛ッ……あっ」
「痛い? 気持ちいいの間違いだろう?」
 苦鳴を上げつつサブは尻尾をぶんぶん振っていた。そんなサブをドムは嘲笑いながら、血を潤滑油にしてペニスを根本まで収める。
「ぁあッ、あうっ、……ぅっ!」

 パンパンパンッ――音が立つほど激しく腰を打ちつけていると、ドムの目に映るサブの白い肌に赤黒かったり青黒かったりする痣が浮かんだ。
 茶色の髪が赤みがかり、栗色になる。見下ろしている背中が背骨を浮き出させるほど痩せる。
「ご主人様、好きっ……大好きですっ……」
「ああ、私も大好きだよ……good boy!」
 ふっと犯していたサブが消える。
 赤紫の花の下、墓石が立っていた。

「はぁっ、ぁっ、気持ちいっ、気持ちいいッ……!」
 前立腺を掻いていたペニスが締めつけられて、ドムは我に返る。サブは会陰に血を垂らし激痛に襲われる中、ペニスを勃てて全身をぶるぶると震わせて吐精せず達していた。
「っ……good boy.あとで特別なおやつをやろう。私の排泄物をドッグフードのように加工した……」
 収縮する肉にたまらずドムはサブの中に注ぎながら言葉を切り、雫を落とした。背中が濡れる感触にサブは呼吸を荒げつつ気づく。
「ごめんなさいっ……本当ならご主人様の要求に応じるべきだったのに」
「いい、私が間違っていた。非デザイン人間の犬とはそういう生き物だった。享受してなさい」
 ――私はサブを愛していたのではなく、前飼っていた犬を愛していたのでもなく、自分を……
 主人はそんなの、許されない。
「ありがとう……ございます……」
 涙声のサブの後頭部を撫でてやってから、ドムは手の甲で自らの目元を拭った。
「good boy」

 デザイン人間と非デザイン人間の間には絶望的なまでのカーストがある――が、そんな設定はどうでもいいのだ。
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