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咎の園 外伝・番外
戸渡さんの美容教室
しおりを挟む入浴を済ませ、休もうと自室へ向かう途中で声をかけられた。
「影次さん」
「わっ、なんですか戸渡さん……」
振り向きざま、戸渡さんが壁に片手をついて俺に迫る。
限界まで寄せられた精悍な顔を見ながら、客から苦情でも入れられてしまったかと焦る。
しばらくすると身を離し、戸渡さんは無表情で言った。
「肌が荒れています。これを飲んでください」
「はい?」
戸渡さんがもう片手を差し出す。その手には、白濁した液体が注がれたグラスが載った盆があった。
戸惑いつつもグラスを手に取り、抵抗はなく口をつける。変なものなら普段飲食し慣れている。
人工的ではない優しい甘さと、とろっとした喉ごし。甘さの中、しぼってあるのかレモンの爽やかさも感じた。
「……甘酒ですか?」
「はい。甘酒は豊富なビタミンがあり、血行と代謝も上げてくれる、とても肌に良い飲み物です」
「はあ。甘酒なんて子供の頃以来だから、懐かしいです」
天使の家の児童たちと行った縁日を思い出す。
「寝る前と寝起きに飲んでください。ただし、糖分が強いので飲み過ぎは禁物です」
「わかりました」
「ああ、あと……」
空にしたグラスを俺が盆の上に置くと、戸渡さんはなにも持ってない手を伸ばす。
タオルを肩にかけただけの裸身を無遠慮に撫で回されて、くすぐったさにわずかに震える。
「綺麗な体の線を保つためにも、やり過ぎない程度に筋力トレーニングをしたほうがいいです。コルセットをしていると腹筋使いませんからね」
「は、はあ」
「そうだ、プロテインも用意しましょう。乳(ホエイ)ではなく、痩身に効果的な大豆(ソイ)のものを。人間はほとんどタンパク質でできているので、プロテインは肌や髪にもいいのですよ」
「そ、そうなんですか……」
「外出時、安い加工食品はできる限り避けてください。日本はトランス脂肪酸が規制されていないので……」
「……」
突然はじまった美容教室は長いことつづいた。
戸渡さんのあれはエデン、旦那さまに対する忠誠心ゆえなのか、それともただの趣味か。
「でさ、こんなキモい客がいてさ……ちょっと聞いてんの?」
「あ、あ……悪い、い、ま余裕ない」
それからしばらくして、伊織の愚痴を聞き流しつつ自室のベッドの上、腕立て伏せの姿勢のまま上下せず静止するプランクを一分近くつづけていた。二の腕が震え、腹筋は痛む。
戸渡さんの助言通りにしていると太らないし、肌の艶も増した。ベッドの下、枕を抱いて不貞腐れているのであろう伊織に言う。
「お前もさ、下半身気になるならスクワットとかしたらいいよ。……ああ、でもそれがセックスアピールか」
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