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人工楽園にて(5)
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立ちあがり、舞台をおりて原稿を観客たちに捧げてから礼をする。そしてなにかの儀式のようにサテュロスの陰茎に口づけしてから、輪姦された。何人もの精水で浣腸されたあと、原稿に糞をするようにと言い渡される。
すでに汚物と化している原稿の上に腰を落とし、力めば屁に似た音をさせながら精水がどろりと出た。つづいて細かな便が一つか二つ、排出されていく。ふと、これを口にしろと命令されたらどうしようかと不安になったが、その役は木口さまが挙手してくれた。
……狂宴が落ち着いてから旦那さまのもとへ行こうとしたが、宮沢さまに遮られてしまった。宮沢さまはスケッチブックを抱えている。
「入浴してからでは、ダメですか?」
「ああ、わたしの気が萎えぬうちに。性のにおいも消してはいかん」
宮沢さまは小首を傾げてひげを撫でつつ「瑞樹も欲しいな」と言った。一緒に広間を出て、階段をのぼっている途中、俺は「楽しんでいる最中では?」と一応聞いたが無駄だった。
「そのときは多めに金を出して、よく謝る」
瑞樹の部屋の前につくと、宮沢さまはドアを遠慮なく叩いた。少しして、瑞樹の客はずれた眼鏡を直しつつ――そういえばこの客の名はなんだっけ。あまり関わらないからな――迷惑そうに出てきた。
ごねる客に宮沢さまは瑞樹を借りる値段を提示して、交渉をはじめる。そんなに時間はかからないから、絶対に瑞樹に手は出さないからと繰り返し、ようやく客は渋々瑞樹を差し出した。瑞樹は全裸に華奢なミュールを引っかけただけの姿だった。
俺の部屋に移動する。宮沢さまの注文を聞いて、瑞樹はミュールを履いたままベッドにあがり、枕に頬杖をつく格好で横になった。俺はそんな瑞樹に子供が甘えるように擦り寄る。彼女の肌はほんのり汗臭かった。
「……外の世界はつまらないものばかり描かせる」
スケッチブックを開き、鉛筆を走らせる宮沢さまのいつもの口癖。約束通り時間はかからず、瑞樹の体温の心地よさにやや眠気が差してきたところでスケッチはおわってしまった。肉体的快楽もいっさい求めてこなかった。
それから寝てしまおうかと思ったが、もう瞼は重くならない。コルセットを自室に置き、朝と同じく好色な女の妖精に寄りかかって湯に浸かったあと、広間の隣の厨房を訪ねた。長い縮れ毛を一つに束ねた中年の使用人が一人、ザワークラウトを漬けている。
「戸渡さん、お酒をもらえないでしょうか」
樽の中のキャベツに塩を撒きながら、戸渡は無言で銀色の冷蔵庫を指差した。開けて、適当に選んだのはミニボトルのワイン。アルコールならなんでもいい。安物のそれを持って、旦那さまの部屋へ向かう。
ドアをできるかぎり静かに開けた。手探りで貝殻のランプを点けようとして、やめる。旦那さまの眠りを妨げてしまうかも知れない。かわりにテレビを点けた。彫刻の施された木製のテレビ台に載っている、極彩色の鳥の剥製をランプより弱い光がぼんやり照らす。揺り椅子に座り、ワインのスクリューキャップを外した。直接口をつけて風味の感じられない、渋いだけの液体を流し込む。
ベッドの縁に少女が裸で座っている。面立ちは美しくないが、腰まで伸びた黒髪はよく手入れされているのだろう。天使の輪があった。ベッドのそばに立つ男はそんな髪を自らの赤黒い性器に巻きつけている。手で、というより髪で扱き、獣のようなうなり声。はっとしてテーブルの上のリモコンを取り、音量をさげた。
ワインを一口飲み、チャンネルをかえる。若くない女がベッドの上、うつぶせた男の腹を膝に載せて、手を振りあげていた。おろされるたびパチン、と滑稽な音がかすかに響き、男の尻肉は揺れる。女の手の甲には、薔薇があった。
ワインを一口飲み、チャンネルをかえる。痩せた男が女を正常位で抱いている。映像だと男の後ろ姿と女の開いた脚しか見えず、女の容貌はわからない。チャンネルをかえようと思ったが、ふと妙なことに気づく。女の反応、薄すぎないか。力なく脚を開いているだけでつやっぽい声一つ漏らさず、身じろぎもしない。やがて達した男は女から離れる。女は目を閉じていた。……男は疑似死体性愛か、睡眠愛好者なのかも知れない。
ワインを一口飲み、チャンネルをかえる。老婦と老夫が交わっていた。ベッドのそばには少年が立っていて、じっと様子を傍観している。そんな少年の肩に薔薇を目視できた。少年に同情の念を寄せつつ、チャンネルをかえる。
熊のような男が、同じく熊のような男を犯している。チャンネルをかえる。
まるい紙皿に盛ったクリームが勢いよく、ショートヘアの女の手によって男の顔へ叩きつけられた。唐突すぎて思わず吹き出す。女は無邪気に笑っている。男も顔面が白いまま笑っている。男の裸の胸に垂れたクリームに、女はエロチックな所作で口づけた。
ワインを傾け、次々とチャンネルをかえた。少女の細い腕が男の肛門に飲み込まれている。美しい女を正座させて、男は股間を勃起させながらその女の容姿を罵っている。肥えた女の胸に垂れる二つの脂肪の塊を、法悦の表情で男は揉んでいる。瑞樹と客はおとなしく寝ていた。なんとなくチャンネルを戻していく。今度は少年と老婦が性交して、老夫は傍観している。……。
残り少ないワインを一息に飲み干した。いい感じに酔いが廻っている。外が白んできたのか、カーテンがうっすら透けて見えた。旦那さまの隣にこっそり潜り込んで寝るつもりだったが、これでは早起きできそうにない。テレビを消し、ワインボトルを持って部屋を出る。
自分の部屋へ戻る途中、踊り場のポールに手錠で後ろ手にボンデージされて座っている少女を見つけた。つやつやの髪はおかっぱに整えて、両手で掴んだら指先同士が引っつきそうな腰には幼く甘い顔にそぐわぬエナメルのアンダーバストコルセット。アルコールのせいなのか魔が差した。しゃがんで少女の平らな胸に唇を寄せると、少女は怖いのか震えた。そばにボトルを置いて、髪を撫でながらもう片手で体を弄(まさぐ)る。少女の首筋にあった薔薇に舌を這わせ、手を股間に遣った。ショーツに小さなふくらみを感じる。少女ではなく、少年だった。
すでに汚物と化している原稿の上に腰を落とし、力めば屁に似た音をさせながら精水がどろりと出た。つづいて細かな便が一つか二つ、排出されていく。ふと、これを口にしろと命令されたらどうしようかと不安になったが、その役は木口さまが挙手してくれた。
……狂宴が落ち着いてから旦那さまのもとへ行こうとしたが、宮沢さまに遮られてしまった。宮沢さまはスケッチブックを抱えている。
「入浴してからでは、ダメですか?」
「ああ、わたしの気が萎えぬうちに。性のにおいも消してはいかん」
宮沢さまは小首を傾げてひげを撫でつつ「瑞樹も欲しいな」と言った。一緒に広間を出て、階段をのぼっている途中、俺は「楽しんでいる最中では?」と一応聞いたが無駄だった。
「そのときは多めに金を出して、よく謝る」
瑞樹の部屋の前につくと、宮沢さまはドアを遠慮なく叩いた。少しして、瑞樹の客はずれた眼鏡を直しつつ――そういえばこの客の名はなんだっけ。あまり関わらないからな――迷惑そうに出てきた。
ごねる客に宮沢さまは瑞樹を借りる値段を提示して、交渉をはじめる。そんなに時間はかからないから、絶対に瑞樹に手は出さないからと繰り返し、ようやく客は渋々瑞樹を差し出した。瑞樹は全裸に華奢なミュールを引っかけただけの姿だった。
俺の部屋に移動する。宮沢さまの注文を聞いて、瑞樹はミュールを履いたままベッドにあがり、枕に頬杖をつく格好で横になった。俺はそんな瑞樹に子供が甘えるように擦り寄る。彼女の肌はほんのり汗臭かった。
「……外の世界はつまらないものばかり描かせる」
スケッチブックを開き、鉛筆を走らせる宮沢さまのいつもの口癖。約束通り時間はかからず、瑞樹の体温の心地よさにやや眠気が差してきたところでスケッチはおわってしまった。肉体的快楽もいっさい求めてこなかった。
それから寝てしまおうかと思ったが、もう瞼は重くならない。コルセットを自室に置き、朝と同じく好色な女の妖精に寄りかかって湯に浸かったあと、広間の隣の厨房を訪ねた。長い縮れ毛を一つに束ねた中年の使用人が一人、ザワークラウトを漬けている。
「戸渡さん、お酒をもらえないでしょうか」
樽の中のキャベツに塩を撒きながら、戸渡は無言で銀色の冷蔵庫を指差した。開けて、適当に選んだのはミニボトルのワイン。アルコールならなんでもいい。安物のそれを持って、旦那さまの部屋へ向かう。
ドアをできるかぎり静かに開けた。手探りで貝殻のランプを点けようとして、やめる。旦那さまの眠りを妨げてしまうかも知れない。かわりにテレビを点けた。彫刻の施された木製のテレビ台に載っている、極彩色の鳥の剥製をランプより弱い光がぼんやり照らす。揺り椅子に座り、ワインのスクリューキャップを外した。直接口をつけて風味の感じられない、渋いだけの液体を流し込む。
ベッドの縁に少女が裸で座っている。面立ちは美しくないが、腰まで伸びた黒髪はよく手入れされているのだろう。天使の輪があった。ベッドのそばに立つ男はそんな髪を自らの赤黒い性器に巻きつけている。手で、というより髪で扱き、獣のようなうなり声。はっとしてテーブルの上のリモコンを取り、音量をさげた。
ワインを一口飲み、チャンネルをかえる。若くない女がベッドの上、うつぶせた男の腹を膝に載せて、手を振りあげていた。おろされるたびパチン、と滑稽な音がかすかに響き、男の尻肉は揺れる。女の手の甲には、薔薇があった。
ワインを一口飲み、チャンネルをかえる。痩せた男が女を正常位で抱いている。映像だと男の後ろ姿と女の開いた脚しか見えず、女の容貌はわからない。チャンネルをかえようと思ったが、ふと妙なことに気づく。女の反応、薄すぎないか。力なく脚を開いているだけでつやっぽい声一つ漏らさず、身じろぎもしない。やがて達した男は女から離れる。女は目を閉じていた。……男は疑似死体性愛か、睡眠愛好者なのかも知れない。
ワインを一口飲み、チャンネルをかえる。老婦と老夫が交わっていた。ベッドのそばには少年が立っていて、じっと様子を傍観している。そんな少年の肩に薔薇を目視できた。少年に同情の念を寄せつつ、チャンネルをかえる。
熊のような男が、同じく熊のような男を犯している。チャンネルをかえる。
まるい紙皿に盛ったクリームが勢いよく、ショートヘアの女の手によって男の顔へ叩きつけられた。唐突すぎて思わず吹き出す。女は無邪気に笑っている。男も顔面が白いまま笑っている。男の裸の胸に垂れたクリームに、女はエロチックな所作で口づけた。
ワインを傾け、次々とチャンネルをかえた。少女の細い腕が男の肛門に飲み込まれている。美しい女を正座させて、男は股間を勃起させながらその女の容姿を罵っている。肥えた女の胸に垂れる二つの脂肪の塊を、法悦の表情で男は揉んでいる。瑞樹と客はおとなしく寝ていた。なんとなくチャンネルを戻していく。今度は少年と老婦が性交して、老夫は傍観している。……。
残り少ないワインを一息に飲み干した。いい感じに酔いが廻っている。外が白んできたのか、カーテンがうっすら透けて見えた。旦那さまの隣にこっそり潜り込んで寝るつもりだったが、これでは早起きできそうにない。テレビを消し、ワインボトルを持って部屋を出る。
自分の部屋へ戻る途中、踊り場のポールに手錠で後ろ手にボンデージされて座っている少女を見つけた。つやつやの髪はおかっぱに整えて、両手で掴んだら指先同士が引っつきそうな腰には幼く甘い顔にそぐわぬエナメルのアンダーバストコルセット。アルコールのせいなのか魔が差した。しゃがんで少女の平らな胸に唇を寄せると、少女は怖いのか震えた。そばにボトルを置いて、髪を撫でながらもう片手で体を弄(まさぐ)る。少女の首筋にあった薔薇に舌を這わせ、手を股間に遣った。ショーツに小さなふくらみを感じる。少女ではなく、少年だった。
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