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狼と鷹
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十八歳の少年狼は、まだ慣れない人間の姿に変化しては森の中を散歩していた。その日の朝、彼は叔父に鷹の一族の娘と婚姻を結ぶように言われていた。自分が人間狼たちの族長に正式に即位するまでは、叔父が亡くなった父の変わりに彼を指示していた。少年の名は、ナヴァール。
彼は、夜の森を吹きぬける冷たい風を肌で感じ、小さくくしゃみをした。
(あったこともない女と結婚なんて、絶対にしたくない。)
いくら鷹の一族を負かしたからとて、やつらから嫁をもらうつもりなどないのに。
ナヴァールは少し不機嫌そうに両手を腰のあたりのポケットに乱暴に突っ込んだ。
それにしても、未だに納得がいかない……。何故兄が死に、自分が父の跡取りにならねばならかったのだろう。
<ナヴァール、お前なら一族を繁栄させることができる……俺は間違ってた。お前と最初から争うべきなどではなかったんだ>
兄の最期の言葉が、ずっと頭に響いている。
父が他界し、兄もがその後を追ってからナヴァールは落ち着きのない日々ばかりをすごしている。
なかなか独りになれなくて、困っていたが……独りになれればなったで、孤独感に襲われてどうにかなりそうだ。
ナヴァールはうつむきながら、重くため息をついた。
こんな人生に、何の意味があるんだろう……?
そのとき。ナヴァールの左方から木の葉が潰れる音がした。
子供の声も、したかもしれない。
ナヴァールは雑念を振り払って、その音がした方へ走った。
駆けつけた彼が見たのは、大型の狼が小さな人型の女の子に噛み付こうとしてる場面だった。少女は狼のすばやい動きに追いつけず、立ちすくんでいたようだった。
「待て!」
ナヴァールがすかさず叫んだ。
狼はナヴァールの声に反応した。
「次期族長ナヴァールさま!?しかし、この娘は、人間の姿こそはしていても獣です!身元が不確かなのですよ!」
大型の狼は動きを止めながらもナヴァールに抗議した。
「まぁ待て、子供が怖がってる……」
高身長のナヴァールは少女を見下ろしながら言った。
まだ十にも満たない歳なんだろう、本当に小さな子供だ。
大きな黄色い瞳と無造作にまとめられた縦ロールの赤い髪が印象的だ。「お前……どこから来たんだ?」
少女は何も言わず、ナヴァールと目を合わせた。
「名前は?」
小さなピンク色の唇が、わずかに動いたが、やはり何も言わなかった。
愛想の悪い子供に、ナヴァールはため息をついた。今日は、厄日なのかもしれない。何故こんな夜に子守をしなければならないんだ。
「夜中になんでガキが独りで歩き回ってるのかは知らんが……一応この森で見つけたからには送って帰ってやるよ」
ナヴァールが、少女の手を引こうとした。
しかし少女は、その小さな右手に力を込めて、ナヴァールを引き止めようとした。
「何だ……?」
何つもりなのか、とナヴァールは少女を凝視した。少女が、首を横に振った。
否定。帰ることを望んでいないというのか。
ナヴァールは、苛立ちを隠せずにもう一匹の狼に命令を一つ下した。
「ここでこいつを見たことは、とりあえず伏せておいてくれないか。それができるならもう帰っていい」
狼は、一度吠えてから去っていった。
(さてと……。こいつをどうするかな。)
ナヴァールは頭をかきながらしゃがんで、少女と目線を合わせた。
「お前、獣……だよな。なんの獣なんだ?」
少女は答えなかった。
「どうしてここにいるんだ?」
やはり答えなかった。というより、瞬きさえしない。ナヴァールは、少しずつまた腹を立て始めた。
「なんだよ!なんとか言えよ!俺はこんなことしていたいわけじゃないのに……」
言いながら、思った。自分は、何をしていたいんだろう?
父と兄の遺志を継ぐのか?どうやって?自分に、何ができる?十八歳の無力な少年狼に、一族の長として森の生物の管理などできようか。
ナヴァールが、両手で頭を抱えたそのとき。少女が、彼の袖をそっと引っ張った。
顔を上げたナヴァールは、少女の両手の平の中に小さな鳥を見た。
鳥は、動いていない。それよりも不自然な姿勢で横たわっていた。血もついていた。その上、わずかに悪臭を放っていたその鳥はきっと死んでいるのだろうと、ナヴァールは即座に悟った。
「こいつが……どうしたって?」
少女の顔を見たとき、ナヴァールは思わず息を呑んだ。少女の頬を、ふた筋の涙がつたっていた。
なんとなくだが、今まで無表情だった少女の心境がわかったような気がした。ただ純粋な、悲しみと哀れみを感じた。
「そいつはもう死んでるんだよ……もう動かないから。埋めてやろうな……」
ふと、ナヴァールは自分の兄の死を思い出した。もう動かないから、埋めてやろう。彼もそんな行動をとったはずだった。
それでも、悲しみも哀れみも消えるはずがなくて。
自分の手で葬ってやっただけに、悲しみが余計に鮮明だった。ナヴァールはただ今までの自分の感情を制御できなくて困っていたのだが、今は違うことに気づいた。自分は族長になるのだから兄の死を悔やんではいけないと、思っていた。
だが、小さな少女だって小鳥の死を悲しむのだ。誰かの終わりを悲しむのは、間違ってることじゃない。今は、それでもいいのだ。
少女と二人で小鳥を土に埋めてやったあと、ナヴァールはなんだかすっきりした気分だった。
「じゃ、そろそろおうちに帰ろうな」
ズボンについた埃を払いながら、ナヴァールが立ち上がろうとした。
すると彼の足首を何か強い力が引きずった。
「ぅわっ!」
木の葉の海に顔を突っ込んでしまって、ナヴァールは少し咳き込んだ。
「今度は、何だ……?」
上半身を起こしながら少女を見た。少女の表情には、拒否があふれていた。
「言葉で言ってくれなきゃ、わからないぞ……」
少女が頭をひたすら横に振った。
ナヴァールがあることに気が付いた。
「もしかしてお前、まだしゃべれないのか?」
獣が人間に変化を遂げても人間の声帯を育てるには少し時間が要る。この歳ではまだしゃべれなくても普通だ。
少女は、悲しみとは違う感情を表しながら涙を流し始めた。
「どうした?」
ナヴァールが少女の涙を上着でぬぐってやる。
とりあえず帰りたくないようだが……。連れ帰るにも何かと無理な気がする。
だが夜は更けていくばかりで、そろそろもっとヤバイ獣も出てくるはずだ。
「オイ、」
何か言いかけて、ナヴァールは言葉を切らした。森の肉食長、鷹が鳴いている。
鷹の獣たちは狼の獣に一度ひれ伏しているが、それはあくまで狼の全精力の前でだ。
少年一人と得体の知れない少女一人では、鷹も容赦はしないかもしれない。
「走るぞ!」
ナヴァールはとっさに少女を脇の下に抱え上げて、全速力で逃げ始めた。
しかし彼は人間の二本足での移動に、なれていなかった。
目に留まらないような枝につまずき、二人して転んだ。
最初から翼ある鷹から逃げ切れるはずもなかった。
すぐに、囲まれた!
「ギエエエーーーッ!」
一羽が威勢良く鳴いて、彼らに向かって空中のダイブをした。
「危ない!」
少女を背中でかばって、ナヴァールは仁王立ちになった。
鷹の爪が、彼の腕をかすった。
「つっ……」
痛みに声を上げたナヴァールのうしろで、少女が動いた。
何かを叫び、鷹の群れに向かって走った。
「オイ!?」
肩の傷を押さえながら、ナヴァールが心配で少女に呼びかけた。
少女が足を止め、振り返って笑った。
「アリ……が とウ」
確かにそう言っていた。
そして、鷹たちともども森の夜闇に消えた。
(なんだったんだ?)
不思議に思いながらも、ナヴァールは己の宿に向かった。
翌朝、ナヴァールは自分の婚約者となるべく女性に会わせられることとなっていた。
「おはようございます、時期族長様。これがアナタの嫁となる、族長の娘であるイレンです」
鷹の獣が、ナヴァールに一礼して彼の背後に隠れていた少女を紹介した。
イレンを見て、ナヴァールは灰色の両目を大きく見開いた。
「お前、昨夜の!?」
イレンは無表情にうなずいた。赤い縦ロールが、今日はきちんとカチューシャにそろえられている。
鷹の獣と、その場に居合わせたナヴァールの叔父が驚いた。
「ナヴァール、彼女を知ってるのかぃ?」
ナヴァールはうなずいた。
叔父が顔をほころばせた。
「じゃあ、結婚に賛成してくださいますね」
「……ああ……」
イレンから目を離さず、ナヴァールがどうでもよさそうに答えた。
あの鷹の群れは、彼女の迎えだったのか。
「いやー、めでたいですな」
鷹の獣とナヴァールの叔父は席を外した。
二人は残された。
「お前、どうして帰りたくなかったんだ?」
イレンはナヴァールの叔父たちの去った方向を指差した。
「結婚がいやだったのか?」
どうしてか、彼女の意図がわかるナヴァールだった。
イレンはうなずき、ナヴァールの肩の傷を指差した。
心配そうな表情だった。
「ああ、気にするな。これくらい平気」
ナヴァールが手の平を軽く振る。
その言葉を聞いて、イレンは微笑んだ。
(こうしてみると、可愛いな……)
イレンがナヴァールの手をとって、また笑った。
「アリガトウ」
言ってから、イレンはナヴァールの首からぶら下がっていた巨大な「歯」をゆび指した。
「ああ、これは……うちの家宝なんだ。父さんの形見でもあるんだ」
<お前は、まだまだ強くなれる……護りたいものさえ見つかればな>
父の言葉を、思い出した。
ナヴァールは口元に笑みを浮かべた。
数日後叔父と鷹の一族に結婚の話に承諾するかと再度訊かれ、ナヴァールは「全身全霊で幸せにして見せますよ」などといってしまったそうな。
彼は、夜の森を吹きぬける冷たい風を肌で感じ、小さくくしゃみをした。
(あったこともない女と結婚なんて、絶対にしたくない。)
いくら鷹の一族を負かしたからとて、やつらから嫁をもらうつもりなどないのに。
ナヴァールは少し不機嫌そうに両手を腰のあたりのポケットに乱暴に突っ込んだ。
それにしても、未だに納得がいかない……。何故兄が死に、自分が父の跡取りにならねばならかったのだろう。
<ナヴァール、お前なら一族を繁栄させることができる……俺は間違ってた。お前と最初から争うべきなどではなかったんだ>
兄の最期の言葉が、ずっと頭に響いている。
父が他界し、兄もがその後を追ってからナヴァールは落ち着きのない日々ばかりをすごしている。
なかなか独りになれなくて、困っていたが……独りになれればなったで、孤独感に襲われてどうにかなりそうだ。
ナヴァールはうつむきながら、重くため息をついた。
こんな人生に、何の意味があるんだろう……?
そのとき。ナヴァールの左方から木の葉が潰れる音がした。
子供の声も、したかもしれない。
ナヴァールは雑念を振り払って、その音がした方へ走った。
駆けつけた彼が見たのは、大型の狼が小さな人型の女の子に噛み付こうとしてる場面だった。少女は狼のすばやい動きに追いつけず、立ちすくんでいたようだった。
「待て!」
ナヴァールがすかさず叫んだ。
狼はナヴァールの声に反応した。
「次期族長ナヴァールさま!?しかし、この娘は、人間の姿こそはしていても獣です!身元が不確かなのですよ!」
大型の狼は動きを止めながらもナヴァールに抗議した。
「まぁ待て、子供が怖がってる……」
高身長のナヴァールは少女を見下ろしながら言った。
まだ十にも満たない歳なんだろう、本当に小さな子供だ。
大きな黄色い瞳と無造作にまとめられた縦ロールの赤い髪が印象的だ。「お前……どこから来たんだ?」
少女は何も言わず、ナヴァールと目を合わせた。
「名前は?」
小さなピンク色の唇が、わずかに動いたが、やはり何も言わなかった。
愛想の悪い子供に、ナヴァールはため息をついた。今日は、厄日なのかもしれない。何故こんな夜に子守をしなければならないんだ。
「夜中になんでガキが独りで歩き回ってるのかは知らんが……一応この森で見つけたからには送って帰ってやるよ」
ナヴァールが、少女の手を引こうとした。
しかし少女は、その小さな右手に力を込めて、ナヴァールを引き止めようとした。
「何だ……?」
何つもりなのか、とナヴァールは少女を凝視した。少女が、首を横に振った。
否定。帰ることを望んでいないというのか。
ナヴァールは、苛立ちを隠せずにもう一匹の狼に命令を一つ下した。
「ここでこいつを見たことは、とりあえず伏せておいてくれないか。それができるならもう帰っていい」
狼は、一度吠えてから去っていった。
(さてと……。こいつをどうするかな。)
ナヴァールは頭をかきながらしゃがんで、少女と目線を合わせた。
「お前、獣……だよな。なんの獣なんだ?」
少女は答えなかった。
「どうしてここにいるんだ?」
やはり答えなかった。というより、瞬きさえしない。ナヴァールは、少しずつまた腹を立て始めた。
「なんだよ!なんとか言えよ!俺はこんなことしていたいわけじゃないのに……」
言いながら、思った。自分は、何をしていたいんだろう?
父と兄の遺志を継ぐのか?どうやって?自分に、何ができる?十八歳の無力な少年狼に、一族の長として森の生物の管理などできようか。
ナヴァールが、両手で頭を抱えたそのとき。少女が、彼の袖をそっと引っ張った。
顔を上げたナヴァールは、少女の両手の平の中に小さな鳥を見た。
鳥は、動いていない。それよりも不自然な姿勢で横たわっていた。血もついていた。その上、わずかに悪臭を放っていたその鳥はきっと死んでいるのだろうと、ナヴァールは即座に悟った。
「こいつが……どうしたって?」
少女の顔を見たとき、ナヴァールは思わず息を呑んだ。少女の頬を、ふた筋の涙がつたっていた。
なんとなくだが、今まで無表情だった少女の心境がわかったような気がした。ただ純粋な、悲しみと哀れみを感じた。
「そいつはもう死んでるんだよ……もう動かないから。埋めてやろうな……」
ふと、ナヴァールは自分の兄の死を思い出した。もう動かないから、埋めてやろう。彼もそんな行動をとったはずだった。
それでも、悲しみも哀れみも消えるはずがなくて。
自分の手で葬ってやっただけに、悲しみが余計に鮮明だった。ナヴァールはただ今までの自分の感情を制御できなくて困っていたのだが、今は違うことに気づいた。自分は族長になるのだから兄の死を悔やんではいけないと、思っていた。
だが、小さな少女だって小鳥の死を悲しむのだ。誰かの終わりを悲しむのは、間違ってることじゃない。今は、それでもいいのだ。
少女と二人で小鳥を土に埋めてやったあと、ナヴァールはなんだかすっきりした気分だった。
「じゃ、そろそろおうちに帰ろうな」
ズボンについた埃を払いながら、ナヴァールが立ち上がろうとした。
すると彼の足首を何か強い力が引きずった。
「ぅわっ!」
木の葉の海に顔を突っ込んでしまって、ナヴァールは少し咳き込んだ。
「今度は、何だ……?」
上半身を起こしながら少女を見た。少女の表情には、拒否があふれていた。
「言葉で言ってくれなきゃ、わからないぞ……」
少女が頭をひたすら横に振った。
ナヴァールがあることに気が付いた。
「もしかしてお前、まだしゃべれないのか?」
獣が人間に変化を遂げても人間の声帯を育てるには少し時間が要る。この歳ではまだしゃべれなくても普通だ。
少女は、悲しみとは違う感情を表しながら涙を流し始めた。
「どうした?」
ナヴァールが少女の涙を上着でぬぐってやる。
とりあえず帰りたくないようだが……。連れ帰るにも何かと無理な気がする。
だが夜は更けていくばかりで、そろそろもっとヤバイ獣も出てくるはずだ。
「オイ、」
何か言いかけて、ナヴァールは言葉を切らした。森の肉食長、鷹が鳴いている。
鷹の獣たちは狼の獣に一度ひれ伏しているが、それはあくまで狼の全精力の前でだ。
少年一人と得体の知れない少女一人では、鷹も容赦はしないかもしれない。
「走るぞ!」
ナヴァールはとっさに少女を脇の下に抱え上げて、全速力で逃げ始めた。
しかし彼は人間の二本足での移動に、なれていなかった。
目に留まらないような枝につまずき、二人して転んだ。
最初から翼ある鷹から逃げ切れるはずもなかった。
すぐに、囲まれた!
「ギエエエーーーッ!」
一羽が威勢良く鳴いて、彼らに向かって空中のダイブをした。
「危ない!」
少女を背中でかばって、ナヴァールは仁王立ちになった。
鷹の爪が、彼の腕をかすった。
「つっ……」
痛みに声を上げたナヴァールのうしろで、少女が動いた。
何かを叫び、鷹の群れに向かって走った。
「オイ!?」
肩の傷を押さえながら、ナヴァールが心配で少女に呼びかけた。
少女が足を止め、振り返って笑った。
「アリ……が とウ」
確かにそう言っていた。
そして、鷹たちともども森の夜闇に消えた。
(なんだったんだ?)
不思議に思いながらも、ナヴァールは己の宿に向かった。
翌朝、ナヴァールは自分の婚約者となるべく女性に会わせられることとなっていた。
「おはようございます、時期族長様。これがアナタの嫁となる、族長の娘であるイレンです」
鷹の獣が、ナヴァールに一礼して彼の背後に隠れていた少女を紹介した。
イレンを見て、ナヴァールは灰色の両目を大きく見開いた。
「お前、昨夜の!?」
イレンは無表情にうなずいた。赤い縦ロールが、今日はきちんとカチューシャにそろえられている。
鷹の獣と、その場に居合わせたナヴァールの叔父が驚いた。
「ナヴァール、彼女を知ってるのかぃ?」
ナヴァールはうなずいた。
叔父が顔をほころばせた。
「じゃあ、結婚に賛成してくださいますね」
「……ああ……」
イレンから目を離さず、ナヴァールがどうでもよさそうに答えた。
あの鷹の群れは、彼女の迎えだったのか。
「いやー、めでたいですな」
鷹の獣とナヴァールの叔父は席を外した。
二人は残された。
「お前、どうして帰りたくなかったんだ?」
イレンはナヴァールの叔父たちの去った方向を指差した。
「結婚がいやだったのか?」
どうしてか、彼女の意図がわかるナヴァールだった。
イレンはうなずき、ナヴァールの肩の傷を指差した。
心配そうな表情だった。
「ああ、気にするな。これくらい平気」
ナヴァールが手の平を軽く振る。
その言葉を聞いて、イレンは微笑んだ。
(こうしてみると、可愛いな……)
イレンがナヴァールの手をとって、また笑った。
「アリガトウ」
言ってから、イレンはナヴァールの首からぶら下がっていた巨大な「歯」をゆび指した。
「ああ、これは……うちの家宝なんだ。父さんの形見でもあるんだ」
<お前は、まだまだ強くなれる……護りたいものさえ見つかればな>
父の言葉を、思い出した。
ナヴァールは口元に笑みを浮かべた。
数日後叔父と鷹の一族に結婚の話に承諾するかと再度訊かれ、ナヴァールは「全身全霊で幸せにして見せますよ」などといってしまったそうな。
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