上 下
296 / 421
~第七章:魔神復活編~

296ページ目…アフターサービス【3】

しおりを挟む
 僕達が貴族の屋敷で一暴れしていた頃、今回の依頼の鍵を握っていたアルテイシアさんはと言うと…。

◇◆◇◆◇◆◇

「あ~ぁ、もっと泊まっていけば良かったのに…でも、あの人も依頼で来てたんだし、依頼達成の為に帰るのは仕方がないよね…。
 でも、ムゲンさん、また会えるって言ってたし、もっともっと腕を磨いて、今度来た時に…ポッ♪
 あ、そうだッ!ムゲンさん達が使っていた部屋を掃除しなきゃ!
 それに、忘れ物があったら届けなきゃだし…。」

 私は誰に言うでもなく、そう呟くとムゲンさん達が使っていた部屋へと足を踏み入れた。
 そこは、来客した人が泊まれる部屋…客室として使っている部屋だ。
 その為、ベッドが2つ用意されている。
 そんな中、私は…。

「クンクン…うぇ~、なんか獣臭~い!
 これは窓を開けて換気をしなきゃダメかな…。
 でも、こっちが獣臭いと言う事は、クズハさんがこっちを使っていたのかな?」

 クズハさんには申し訳ないが、獣人特有の獣臭さがベッドから臭ってくる。
 つまり、必然的にムゲンさんはもう一つのベッドを使った事に…。

「ダ、ダメよ、そんなはしたない事しちゃ…で、でも…ダメ、落ち着くのよ私!
 あぁ、でも…クンクン…。」

 何故か、少し獣臭い匂いがするが、そこには紛れもなく男の匂いが残っている。
 それに…クンクン…あぁ、やっぱりだ…この匂い、何だか落ち着く…。

 ドクンッドクンッと心臓は大きく、そして早く鼓動を刻む。
 だが、それとは裏腹に気分はこれ以上無いほど落ち着いてくる。
 今なら、普段よりも良い物が打てそうな錯覚さえ思えてくる。

 気が付くと私はそのベッドの上で寝てしまっていた…。

「んん~!」

 大きく背伸びをしながら身体を起こす。
 気が付くと、もう日は高く昇りすでにお昼を回っていた。

「ありゃ~、寝ちゃってたか…でも、良い匂いだったな…。」

 私は、そう言ってムゲンさんの使っていた枕をパンパンと叩く。
 すると…。

『カチャッ』

「あれ?何か、枕の下から音がした様な…。」

 私は気になって枕を退ける…そこには、ずっしりと重い革袋と1通の手紙があった。

「こ、これはッ!?」

 私は慌てて、その手紙を読む。
 そこには、こう書いてあった。

『親愛なるアルテイシアさんへ
 貴方がこの手紙を読む頃には、僕達は既に旅立っていると思います。
 この手紙と一緒に置いてあった革袋は、聖剣のお礼ですので、どうぞお納め下さい。
 あと、冷蔵庫に少しですが料理を残していますので、食べて下さいね?
 ps.追伸アルテイシアさんのお店に嫌がらせは、もうありませんのでご安心下さい。』

「そっか、この袋はお礼なんだ…でも、やけに重い様な…。
 それに嫌がらせの事、気付いてたんだ…。
 でも、嫌がらせが無くなるって…ムゲンさん、いったい何をしたんだろ?」

 疑問に思いながらも、私は革袋の封を開け、ベッドの上に中身を出す。

『チャリチャリチャリンッ!』

 袋から出てきたのは、大量の金貨…その数、何と250枚…。
 は、はい?確かに、ドワーフの作る聖剣は高い物とされている。
 でも、それは腕の良い超一流のドワーフの話である。
 私が打てる聖剣なんて、せいぜい材料費込みで金貨50枚になれば良い方である。

 しかも、材料については依頼主であるムゲンさんが出している…つまり、このお金の殆どが技術料と言う事になる。

「こ、これは絶対に貰い過ぎだよ…。」

 うん…これはムゲンさんに返そう。
 そう思い、革袋の口を広げる…すると、更に袋の中に紙切れを見付けた。

「え~っと、何々…『アルテイシアさんへ、貴女なら、これを返そうとするでしょう。
 ですが、これは貴女のこれからに必要なお金です。
 もし、受け取るのを心苦しいと思うなら、このお金で腕を磨いて下さい。
 そうすれば、次に依頼する時には、もっと良い物を手に入れる事が出来るのですから…。
 これはその時の為の投資だと思って下さい、夢幻より。』…。

 ははは…あの人、私の事、理解し過ぎだよ。
 これじゃ、返せないじゃん…でも、それならそれで、今度来た時、ビックリするほど物凄い物を打てる様にならなきゃね。
 それに、親愛なる・・・・》だなんて…ポッ♪」

 もちろん、その言葉は手紙の常套句である、それは十分に分かっている。
 だけど、それでも期待は広がるのは仕方が無い事だ。
 優しく、料理も出来、そして、何より私を理解し、期待までしてくれる…。
 ムゲンさんは結婚している人ではあるが、私の初恋の相手と言っても良いだろう…まして、私に期待して投資までしてくれる。

 これに応えない様ではドワーフの名折れ!どうか見ていて下さい。
 必ずや、ドワーフ一番の鍛冶屋になって見せます!
 その日から、私はムゲンさんの事を思い鎚を振るう。

 どう言う訳か、その日を境にメキメキとその腕を上げ…私は僅か3年で、この国で3本の指に入るほどの鍛冶屋になるのは、また別の話である。

◇◆◇◆◇◆◇

「おい、聞いたか?例の話…。」
「例の話?隣町の領主の話か?」
「そうそう、その話だ。
 何でも天罰が当たったらしいぞ!」
「天罰?俺は魔王に殺されたって聞いたが?」
「何言ってんだい、あんた達!
 悪徳領主の悪行を見かねた勇者が、あのバカ貴族に死にたくても死ねない呪いを掛け、拷問してるって話だろ?」

 どう言う訳か、あれほど来ていた嫌がらせがパッタリとやみ、真しやかに噂される貴族の事。
 確かに、ムゲンさんの手紙に書いてあった様に、アレから嫌がらせパタリは止んだ。

「でもな~、天罰はともかく、魔王だとか勇者だとかは、流石に無いんじゃないかな~。」

 何はともあれ、ムゲンさんの言った様に(手紙に書かれてたが)、嫌がらせは止まった。
 そのお陰で、今日も鍛冶に専念出来る。
 それに、今、鍛冶以外に料理も勉強中である。
 もちろん、いつ会えるか分からないが、いつの日か、あの人に食べて貰う為である。

「ムゲンさん、今日も、どこかで冒険をして居るのかな~?」

 私は、ムゲンさんの事を思い、そう呟くのだった…。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...