上 下
294 / 421
~第七章:魔神復活編~

294ページ目…アフターサービス【1】

しおりを挟む
「大変お世話になりました!それと、この聖剣…大事に使わせて頂きます。」

 僕はそう言うと、右手を差し出す。
 こちらの世界でも握手と言う行為はある。
 しかも、利き手である右手で握手すると言うのは、信頼と敬意を表す行動の一つでもある。

「いえ、こちらの方こそ…グスッ…美味しいご飯をいっぱい…。
 貴方達のこれからに、幸多からん事を…グスッ…。」

 そう言ったアルテイシアさんの目には大粒の涙だが…どうやら涙脆い人だった様だ。

「大丈夫ですよ、生きていれば、きっとまた会えますから…。
 それに、すぐにそんな事を考えられない程、忙しくなると思いますよ?」
「え?それはどう言う意味ですか?」
「それは…秘密です♪」

 どこぞの謎の獣神官プリースト宜しく、軽い感じで答える僕。
 元ネタを知らないクズハとアルテイシアさんは二人揃って『秘密なんですか?』と言った様な疑問を顔に浮かべていた。
 融合により知識を共有しているプリンがいたら、ちゃんとツッコミを入れてくれたのだろうな…と寂しく思う。

「では、僕達はこれで…あッ!そうそう…迷惑かも知れませんが、また何かあったら、アルテイシアさんに依頼に来ますね?
 では、改めて、失礼します。
 どうか、アルテイシアさんも、お元気で!」

 そう言って頭を下げる僕と、つられて頭を下げるクズハ…。
 こうして、僕達の『ドワーフが作った聖剣』を手に入れる旅は、帰るだけとなった…。

◇◆◇◆◇◆◇

ご主人様あなた…本当にアレで良かったんですか?」
「ん?あぁ…アレの事か?うん、アレで良かったんだよ。
 そもそも、半分騙した様な形で契約したからね。
 それに、彼女は、これだけの聖剣を打ってくれたんだ。
 当然、それに見合っただけの報酬を手に入れなきゃ、可哀想じゃないか。
 でも、だからと言って面と向かって渡そうとしても、あの手の職人はガンとして受け取らないはずだ。
 だったら、事後報告と言うか既成事実と言うか…受け取り拒否な状況を作ってあげれば、素直に受け取ってくれるんじゃないかな?」
「そ、そうですよね…ですが、アルテイシアさん、すぐに気が付くと思いますか?」
「う~ん…どうだろ?やっぱり、微妙…かな?」

 短期間とは言え、一緒に居た事で彼女…アルテイシアさんの事を少しだけ知る事が出来た。
 彼女は、自分の事となると、かなり鈍い所があるからな…。

「で、ですよね~それはそうと、この道って帰り道じゃないですよね?」
「あ…バレた?ちょっとばかし、寄り道をしようと思ってね。」
「え、えぇ…と言う事は、やはりアフターサービスと言う事ですね?」
「そう言う事、流石に、ちょっとやりぎた様だからね…。」
「あ、あらあら…ご主人様あなたの怒りを買うなんて、相手の方は、とんだ不幸ですね。
 で、でもまぁ、自業自得ですから…仕方がありませんね。」
「それは言い過ぎじゃないかな?
 なぁ~に、ちょっと・・・・『死んだ方がマシ』と思わせるだけだよ。」

 あまり他人には見せられない邪悪な笑みを浮かべる僕…それに対しクズハは…。

「も、もう…ご主人様あなたったら…。」

 何故か内股でモジモジとする…そう言えば、クズハって…『ド』が付くほどのMだった様な…。
 僕は〖無限庫インベントリ〗から小さな布きれを取り出し、クズハへと渡す。

「とりあえず、これを渡しておくね?」
「は、はい…。」

 クズハは、うっとりした目で『それ』を受け取るのだった…。

◇◆◇◆◇◆◇

 それから暫くして、僕達はとある場所へと辿り着く。

「こ、ここが例の場所なんですね?」
「あぁ、僕の物に手を出した事を後悔させてやる!」
ご主人様あなた…ポッ♪」

 僕は〖無限庫〗から、こう言う時の為に用意した、黒く禍々しい形をした鎧を取り出し装備する。
 とは言え、あくまで見た目が禍々しいと言うだけで、特殊な金属を使っているなどの『特別製』ではなく、普通の鎧だったりする。

「さて、準備を始めますか。」

 次の瞬間、今まで大人しかったクズハにも変化が現れる。
 禍々しいオーラを纏い、一本、また一本と隠していた尻尾が現れ…そして、最大である八本まで増えた時、クズハは僕に笑いかける。

「ご主人様、お待たせしました。」

 ダーククズハ…今の彼女の状態を僕はそう呼んでいる。
 いつもの、どこかオドオドする態度は成りを潜め、思いのまま行動する姿が現れる。
 僕はダークサイドと呼んでいるが、クズハの攻撃的な感情が表に出てきた証拠である。
 事の始まりは、クズハが一定レベルまでレベルアップした時からだ。

 尻尾の数が増え、今まで押し付けられていた感情が爆発した。
 後でクズハに聞いた話だが、妖狐族と呼ばれる者の特徴だと言う事だった。

 ただ、普通であれば、その感情に身を任せて周囲の物を破壊する。
 だが、そこには僕やプリンがいた。
 そして、プリンは素早く僕と〖融合〗し、『魔王化』と呼んでいる状態に…。
 ドラゴンすらも葬りさるその力の前には、クズハの暴走を苦もなく止める事に成功…しただけでなく、僕の『魔王化』した姿は暴走状態の『ダーククズハ』の心さえも鷲掴みした。

 それ故、クズハは僕の…ダーククズハは『魔王化』した僕の奴隷となり、命令を聞く事となったのだ。
 ただし、ダーククズハもクズハであるのは変わらない。
 故に、クズハは、ちゃんと僕の事は認識出来るらしく、僕を好きと言う感情が残っていた。
 その為、『魔王化』に似せる為に、禍々しい感じの鎧を着ると、何と言うか…クズハを含む嫁~ズが喜ぶのである。
 個人的には、ちょっと痛い《・・》かな?とは思う物の、好きな子が喜ぶなら…と、今回みたいに悪巧みをする際には着用する様にしているのだ。

 ただまぁ…こんな鎧だと大した事は出来ないが、一つだけ利点がある。
 それは、正体が分からない…と言う点だ。
 この鎧は全身鎧フルアーマーである為、中の人が分からない。
 当然、全身鎧である為、兜も付いており、顔が見られない様に仮面まで付いてたりする。

 『正体不明の誰かが、悪い事をした者に、天罰を下す。』

 メルトの町から、周囲の村や町…さらには大きな街まで、真しやかに広がる噂の誕生だった。
 まぁ、流石に、こんな遠くまで噂は流れてこないだろうが、噂を知っているものがいれば…話を聞いた者は気が付くだろう。
 襲われた者は、全て悪人・・・・だった言う事を…。

「さぁ、始めよう…イッツ・ショータイムッ!!」

 まだ昼間だと言うのに、周囲に響き渡る『ショータイム』の声。
 それは、とある貴族に告げる、死刑宣告にも似た宣言だった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

異世界でのんきに冒険始めました!

おむす微
ファンタジー
色々とこじらせた、平凡な三十路を過ぎたオッサンの主人公が(専門知識とか無いです)異世界のお転婆?女神様に拉致されてしまい……勘違いしたあげく何とか頼み込んで異世界に…?。  基本お気楽で、欲望全快?でお届けする。異世界でお気楽ライフ始めるコメディー風のお話しを書いてみます(あくまで、"風"なので期待しないで気軽に読んでネ!)一応15R にしときます。誤字多々ありますが初めてで、学も無いためご勘弁下さい。  ただその場の勢いで妄想を書き込めるだけ詰め込みますので完全にご都合主義でつじつまがとか気にしたら敗けです。チートはあるけど、主人公は一般人になりすましている(つもり)なので、人前で殆んど無双とかしません!思慮が足りないと言うか色々と垂れ流して、バレバレですが気にしません。徐々にハーレムを増やしつつお気楽な冒険を楽しんで行くゆる~い話です。それでも宜しければ暇潰しにどうぞ。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...