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~第七章:魔神復活編~

285ページ目…聖剣の鍛冶師【1】

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『カンッ!カンッ!カンッ!ジュッ!』

「何か、思っていた以上に凄い熱気と音だな…。
 クズハ、キツイなら外で待ってても良いんだぞ?」
「い、いえ…だ、大丈夫…です。」

 そうは言っても、明らかに顔色が悪い。
 まぁ、狐の獣人であるクズハにとっては、かなり耐え難い匂いなのかも知れない。
 もっとも、狐とは言ったがクズハは狐族では無く妖狐族と言う、ちょっぴり変わった種族らしいが…。
 まぁ、そんなクズハも今は僕の嫁の一人なのだから、例えどんな種族であろうとクズハはクズハだと思っているので、まったくもって気にならない訳なのだが、クズハは少し気にしている様である…。

 まぁ、何はともあれ、そこらかしこから凄く臭い匂いや鎚の音が響いてくる。
 そう…僕達が今いるこの場所は、ムスビ山脈でお世話になったバルムンクさんが一生に一度は言った方が良いと言っていたドワーフの国『ブラスミックス』である。

 ちなみに、先程からクズハが苦しんでいる匂いの原因と言えば、まず最初に上げられるのは、ここが踏鞴(鑪)場たたらばの所為であろう。
 しかも、殆どが踏鞴場を併設しているであろう鍛冶屋だからか、そこらかしこから色々な金属が熱せられ叩かれたりする為、凄い匂いを醸し出している。
 もっとも、ここまで鍛冶場がデカイと鍛冶屋と言うよりは工房と言った方が良いのかも知れない。

 まぁ、ドワーフの国と言うだけあって当然ながらドワーフが大量にいる。
 それに、ドワーフの武防具と言うのは、色々な国が目を付ける程に性能が良い武防具なので、それを目当てに買い付けに来る武防具屋も来ていたりするので、色々な人種が混ざっている。
 ただ、正直言って、背の小さいむさ苦しいオッサンがそこら彼処かしこにいるのは若干、気持ちの悪い物がある。

 ちなみに、男性のドワーフは基本的に髭面の頑固親父みたいな感じだが、女性のドワーフも当然背が小さいのだが、外見はふっくら体型の宿屋の女将さんみたい、気楽に話せそうな雰囲気のある人が多い。
 あッ、雑談ではあるが、まだ成人していないであろう若いドワーフ達にも立派な髭がビッシリと生えているのにはビックリだった。

 そして、僕達はそんなドワーフの国に住んでるバルムンクさんの妹でもある『アルテイシア』さんがやっている工房へ向かっていたりする。
 その訳は…。

「そ、それよりも、アルテイシアさんでしたっけ?
 ほ、本当に、その方が聖剣を討つ事が出来るんでしょうか?」
「さぁ、どうだろ?少なくともバルムンクさんは打てると言っていたが、あくまでも『打てるはずだ』…だったからね?」

 そうなのである…事の発端は、僕が護衛の依頼を受けた冒険者であるアイアンさんの結婚式の後、結婚式に参加していた貴族が、酒に酔った勢いで剣を抜いて暴れ出した事にある。
 その時は、Cランク冒険者であるアイアンさんがいとも容易く取り押さえる事が出来た。
 ただ、その際に、貴族の振り回していた剣を防ぐ際に、持っていた剣を折ってしまったのだ。

 酒に酔った貴族が祝いの席で剣を抜き、その剣を折られた。
 その話だけを聞けば『ザマァ!メシウマw』な話なのだが、その後が悪い。
 これがアイアンさんではなく僕であれば、Aランクの冒険者…国にもよるが、貴族扱いが原則みたいな暗黙のルールがあったりする。
 しかし、アイアンさんは、現在、平民でありCランクの冒険者でもあり、幾ら伯爵の娘を嫁にしたとは言え、アイアンさんは貴族席に身を置く事を拒み、逆に貴族の娘さんが平民として嫁いだのだ。
 その為、平民が貴族を相手に不遜を働いた事となってしまった。
 そこそこ権力のある貴族…と、平民では全然、立場が違うのである。

 そして、アイアンさんが折った剣と言うのが、嘘か真か、ドワーフが作ったとされる聖剣で、家宝の1つだと言う。
 果たして、ドワーフが打ったとされる聖剣が…悪く言えばアイアンさん程度の実力で簡単に折れる物だろうか?
 そもそも、アイアンさんが使っていたのは鉄製の剣である。
 なお、基本的に、聖剣の素材として使われる金属素材は、魔法銀ミスリル以上の物が多い。
 それ故、鉄製の剣で聖剣を折る事自体、まず無理だと言う事。
 しかし、その手の疑問は置いとくとしても、恥を掻かされた貴族が腹癒はらいせに、なんと、アイアンさんに対して損害賠償を求めた。
 それが…新しい剣、ドワーフが打った聖剣…と言う事である。

 当然ながら、アイアンさんにはドワーフに知り合いなんていない。
 誰かの紹介も無しに、聖剣を打てる程の鍛冶師が相手をするはずがない。
 そこで白羽の矢が立ったのが、偶然、結婚式に出席していたAランクの冒険者で、知り合いにドワーフがいる僕達だったのだ…。

 そんなこんなで、僕達は再び、バルムンクさんのもとを訪ねる事となった。
 で、そこでバルムンクさんが言った台詞が『ん?聖剣を打てるヤツを紹介しろだと?いや、流石に俺の知り合いにはいない…いや、待てよ?神童と呼ばれた妹ならば、もう聖剣を打てるはず・・・・・・・・だ。』だったのだ。
 だが、その言葉は、あくまでも『はず』…であり、確実ではない。
 それでも、聖剣を打てる可能性はゼロではない。
 ならば、ダメ元で、一度尋ねてみようと言う事になり、今に至る。

 まぁ、ダメ元と言う事もあるが、神童と呼ばれていたのなら、『アルテイシアさん』ならば、本当に聖剣を打てる人と知り合いかもしれない。
 もし、仮に知り合いがいるのなら、紹介を…と言う、打算的な考えで、ここまで来てしまったのだ。
 ちなみに、余談ではあるが、バルムンクさんから妹のアルテイシアさんへの紹介状は、酒樽1本で書いて貰っている。

「で、人伝にアルテイシアさんの工房を聞いてきたのは良いのだが…。」
「…ほ、本当にこちらで宜しいのですか?」
「…ど、どうだろ?僕としては、誰かいる様には見えないんだけど…。」

 そう、僕達二人の前にある工房…と呼んで良いかわからない程、寂れた小屋が1つ、ポツンと佇んでいたのだった…。
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