上 下
175 / 421
~第六章:冒険者編(後期)~

175ページ目…聖王都への旅路【6】

しおりを挟む
「ドナドナド~ナ、ド~ナ~♪」

 『聖王都』に向かう移動中、何も問題イベントが起きない事で、暇を持て余しているのか、プリンが嬉しそうに歌ている。

「あのさ、プリン…その歌を嬉しそうに歌うのは、色んな意味で間違ってるから、流石にどうかと思うぞ?」
「そうなんですか?先日、ご主人様の子供の頃の記憶から偶然見付け、引き出してきたのですが…。」

 何をどうすれば、子供の頃の記憶を漁る事になるのか疑問だが、まぁ、歌の一つや二つ歌ったりするのは問題はない。

「そうなんです、そもそも、何でこんな歌を子供の頃、この曲を音楽の授業で歌わされたのか未だに疑問なんだから…。」

 そう、確かに生きていく上では重要な話なのだろうが、小学校で歌わされるのは本当マジで疑問だったりする。
 もっとも、そう言う時代だと言われればそれまでだし、それに文句言っても仕方がない。
 既に終わった事である。
 何より、元の世界ではなく、異世界に言っても意味がない事だったりする。
 ちなみに、僕は、この曲を『暗い感じの曲』としか覚えていない。

 そう考えると、元の世界の歌を、こっちの世界異世界で広めたとしても、何処からも苦情が来るなんて事もないんだよな…と、悪い考えが浮かぶ。
 まぁ、流石に、いくら異世界とは言え、他人の歌を自分の歌として発表するの気が引けるので、直接発表するのは止めておこうと思う。
 そもそも、こっちの世界の歌と言うのは、主に吟遊詩人が英雄譚えいゆうたんを歌ったりする事が多いのだ。

 その為、元の世界の歌が流行るとは思え…いや、普通に流行るかもしれない。
 とは言え、僕自身、ある程度、歌は覚えていても曲を弾けないので意味がないか…。

 最近の歌はあまり覚えていないが、ちょっと前の歌やアニソンならば…と思い、何故か『ル○ン三世のテーマ』を口ずさんでみる。

「あ、あの…ご主人様、何か悪い物でも食べましたか?」
「ちょッ!?それ、酷くないッ!?」
「で、ですが…普段のご主人様が絶対に言わない台詞ですから…。」

 クズハが心配するのも仕方がないと言えば仕方がないのか?
 そりゃ、『真っ赤なバラはあいつの唇』とか恥ずかしい台詞なんて言う訳がない。
 だけど、ガラじゃないかもしれないが、好きなんだから仕方がないじゃないか。

「ご主人様、大丈夫ですよ?あんな小娘には分からないでしょうけど、私にはご主人様の事なら全部分かってますから♪」

 こっちはこっちで変な誤解を…いや、プリンとは記憶を共有しているので、全部分かっていると言うのは嘘ではないんだろうが、何なんだろう?この敗北感は…。

 と言うか、またクズハが僕をバカにしたと思ったのか、プリンのダークな部分が顔を出してるな…。

「プリン、クズハは僕をバカにした訳じゃないからね?」
「はい…ですが、クズハさん!あなた貴女はご主人様の何なんですかッ!」
「え、えっと…ど、奴隷です!」
「それならば、先程の言葉は、ご主人様に対して、無礼にも程があると思わないのですか!」

 確かに、プリンの言う事は正論だと思う。
 だが、少し傷付いたとは言え、そこまで言う必要はないと思うのだが…。

「プ、プリン様、ごめんなさい!」
「私に謝ってどうするんですか!あなたが無礼を働いたのは他でもない、ご主人様に対してですよ!」

 もしかしたら、これはプリンなりの教育のつもりなのかもしれない。
 だが、僕自身、クズハを奴隷扱いしたくないのだが?

「まぁまぁ、プリンも落ち着いて?
 それに、僕はクズハを奴隷して扱うなと言ってるよね?」

 代わりに、メイドとして働いて貰ってる訳だが…。

「で、ですが、ご主人様を…。」
「とりあえず、まずは落ち着いて?そもそも、クズハは僕達との関係が切れてしまうのが怖くて、奴隷のままでいるだけで、本来なら、奴隷から解放されてる筈なんだよ?
 それでも、切れない繋がりが欲しくて、奴隷のままでいたいと言ってるんだから…。
 僕が奴隷として扱ってないんだから、プリンも奴隷として扱ったらダメだからね?」
「うぅ…ご主人様は、クズハの味方なんですね…。」
「いや、クズハだけの味方ではなく『プリンとクズハ《二人》』の味方だよ。」

 もっとも、二人だけじゃなくアリスにローラの味方でもあるけど、今は良いだろう。

「だから、二人には仲良くして欲しいんだよ。」
「うぅ…分かりました、ご主人様に従います…。」
「うん、ありがとう。」

 僕はそう言うと、プリンの頭を優しく撫でるのであった。

◆◇◆◇◆◇◆

「クズハ、疲れただろう?そろそろ代わろう。」

 暫くの間、荷台側でプリンと一緒に休んでいた僕はそう言うと、荷台側から御者側へと移動する。
 その後、クズハの隣に座ると手綱を渡す様に言う。

「ご、ご主人様、もうお体の具合は良いのですか?」
「うん、流石に、あれだけ休んでいたからね…。」

 そう、あの村を出てから既に4時間は経過している。
 その為、お腹の張りも少しマシになり、何とか動ける位には回復している。

「それに、ちょっとペースを上げないと、予定よりもかなり遅れてしまってるからね…。」

 正直な話、先程の村では食料は大量に手に入った。
 だけど、その分、予想以上に時間が掛かってしまっている。
 そもそも、宿屋で泊まった方がゆっくり眠れるからと言う事で泊まったのに、朝から無茶な量の食事を食べるハメになったのは予想外だった。
 いやまぁ、大食いして動けなくなうのが予想通りだったら、逆に、普段から何考えてたんだ、お前?って話になるんだけどね?

 とは言え、流石に安全運転は重要なのだが、クズハの操縦では遅すぎる。
 一応、それでも普通の馬車並の速度は出ているとは思うんだが、このペースだと次の村まで辿り着くのが遅くなってしまう。

「は、はい…では、ご主人様、よろしくお願いします。」

 そう言うと、クズハは僕に手綱を渡してくれた。
 その際、クズハの手に触れたのだが、何故か俯かれてしまった。

「あ、あの…な、中に…ご主人さまの邪魔になるといけないので中に入っておきますです、はい。」
「あぁ、クズハも慣れない操縦で疲れただろうから、ゆっくり休んでおくと良い。」

 僕はそう言うと、クズハを荷台の方へと戻らせる。
 しかし、クズハのヤツ、声が裏返ってたが、何かあったんだろうか?
 まぁ、いっか…それよりも、ちょっと腹ごなしに飛ばして行きますか…ね。

 ちなみに、余談ではあるが魔力を使うと、それを回復するのに栄養を使うのかお腹が空く。
 その為、その所為かどうか微妙だが、魔法使いの人は痩せてる人が多かったりする。
 故に、ゴーレム馬車の操縦に魔力を使う

「っと、加速するから、気を付けて乗っておけよ!」

 荷台の二人に、そう声を掛けると、僕は手綱に魔力を送りゴーレム馬車を加速させて行くのであった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩に抱かれたくて尿道開発している僕の話

聖性ヤドン
BL
主人公の広夢は同じ学生寮に住む先輩・日向に恋をしている。 同性同士だとわかっていながら思い余って告白した広夢に、日向は「付き合えないが抱けはする」と返事。 しかしモテる日向は普通のセックスには飽きていて、広夢に尿道でイクことを要求する。 童貞の広夢に尿道はハードルが高かった。 そんな中、広夢と同室の五十嵐が広夢に好意を抱いていることがわかる。 日向に広夢を取られたくない五十嵐は、下心全開で広夢の尿道開発を手伝おうとするのだが……。 そんな三つ巴の恋とエロで物語は展開します。 ※基本的に全シーン濡れ場、という縛りで書いています。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

【R18】白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ姫君は甘い夜を過ごしたい~

瀬月 ゆな
恋愛
初恋の王子様の元に政略で嫁いで来た王女様。 けれど結婚式を挙げ、いざ初めての甘い夜……という段階になって、これは一年限りの白い結婚だなどと言われてしまう。 「白い結婚だなどといきなり仰っても、そんなの納得いきません。先っぽだけでもいいから入れて下さい!」 「あ、あなたは、ご自身が何を仰っているのか分かっておられるのですか!」 「もちろん分かっておりますとも!」 初恋の王子様とラブラブな夫婦生活を送りたくて、非常に偏った性の知識を頼りに一生懸命頑張る王女様の話。 「ムーンライトノベルズ」様でも公開しています。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

廃校カニバリズム

FUMUFUMU
ホラー
カニバリズム×廃校のホラー小説です。 読んでいただけたら幸せです。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...