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~第六章:冒険者編(後期)~

173ページ目…聖王都への旅路【4】

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 テレッテッテ、テレッテ~♪

 脳内で某有名ゲームのBGMを流しながら、僕はベッドから起き上がる。
 ここは、聖王都へ向かう途中の小さな村である。
 流石にゴーレムとは言え、馬車だけに、その移動速度が遅いのは仕方がない。
 その為、日も暮れると、盗賊やら魔物と出会う確率が増える為、偶然見付けた村に一泊する事にしたのだ。

 まぁ、ラオンさんからは盗賊とか出たら退治する様に、とは言われているが、このんで自分から遭遇する様に動く必要はないはず。
 そんな結論にいたり、結局、ゆっくりと睡眠の取れる宿を泊る事にしたのだ。

 とは言え、小さい村だけあって、特に特産品とかがないの残念ではあるが…。
 だからと言って、この宿屋の料理が不味い訳ではない。
 むしろ、下手な店より安く、それでいて格段に美味かったりする。

「おばちゃん、ご飯おかわり!それと…この山賊焼きも!」
「あいよ、ちょっと待っとくれ。」

 どう見ても宿屋の客じゃない格好をしている人が、当たり前の様に食堂でご飯を食べている。
 まぁ、宿屋の客以外が食べてはいけないルールなんてないのだが、わざわざ食べに来ると言う事は、やはり美味しいからだと思う。

「ご、ご主人様、何か賑やかな所ですね。」

 クズハが物珍しそうな顔して独り言の様に呟いた。

「うん、そうだね…だけど、嫌いではないかな。」
「そんな事より、私達もご飯にしましょう。」

 確かに、プリンの言う通り、しっかりとご飯を食べて体力付けないと、まだまだ先が長いからね。

「あぁ、そうしよう…実は、匂いに釣られて、お腹が減ってってるんだ。」

 そう、先ほどからスパイスの良い匂いが食堂に充満していて食欲を掻き立てている。
 本来ならば起きてすぐは、それほど食食がないのだが、この匂いに釣られて、いつ腹の虫が鳴いても可笑しくない状態になっていたのだ。


「とりあえず、メニューを…っと。」

 正直、メニューを見なくても頼む物は決まっている。
 先ほどからオッチャンが美味そうに喰っている山賊焼きにロックオンしているのだが、それ以外にも何かあるが気になっていたからだ。

「へ~、ステーキまであるのか…。」

 ステーキと言うと、この世界に来て初めて食べたステーキは、オークを倒した時にドロップで手に入れたオーク肉のステーキだよな…。
 アレは、かなり美味しかった…ただ、調味料が殆どなくて、ちょっと残念だったのを思い出す。

「おばちゃん、ちょっと良いかな?」
「あいよ、何食べるか決まったかい?」
「いえ、ちょっと聞きたい事が…オーク肉のステーキって出来ますか?」

 このお店なら、ちゃんとした手間を掛けた料理が出そうなので確認をする。

「あ~それはちょっと無理だね~。
 流石にオーク肉なんて、こんな田舎じゃ、まず手に入らないからね…。」
「おっと、これは失礼…言い直します、オーク肉を提供したら調理して貰えますか?」
「あんた!オーク肉なんて持ってるのかいッ!?」

 食堂におばちゃんの声が響き渡る。
 その瞬間、食堂が一瞬にして静かになる。

「えぇ…まぁ、一応、持ってますが…それで、調理して貰えますか?」

 周囲の目が集まる中、緊張しつつ、おばちゃんへと再度を確認する。

「あ、あぁ、私は構わないんだけど…。」

 と言って、おばちゃんが周囲を見渡す。
 釣られて僕も周囲を…すると、他の客からの視線に殺気が混じっているのに気が付いた。

「えっと…もしかして、この村では、オーク肉って食べたりしたらダメって決まり事があったりします?」

 元の世界でも牛肉は食べたりしたらダメとか言うのが宗教であったりしたのを思い出す。

「ん?そんな事はないよ?むしろ…オーク肉って言えば、御馳走さね。」
「だったら、何で僕は睨まれてるんですかね?」
「あ~、一人だけズルイって事だね~、ほら、昔から言うでしょ?
 食い物の恨みは怖いって…ね。」

 つまり、自分達も食べたい…って事か。
 それを考えると、確かに悪い事を…とは思うが、ぶっちゃけ『だからどうした』だ。

 とは言え、これだけ殺気だった場所でご飯を喰うと言うのは、あまり宜しくない。
 あまり使いたくなかったが、奥の手を使う事にしよう。

「おばちゃん、これでステーキを頼みたいんだけど…。」

 僕はそう言うと、鞄経由で無限庫インベントリからオーク肉の塊を取り出し目の前で斬り分けて、おばちゃんに渡す。
 そして、事態を収拾するべく、一言付け加える…。

「おばちゃん、こっちの方の肉は、みんなに振る舞ってあげて欲しいんだけど良いかな?」

 僕達が食う為に切り分けた残りは、サイズ的にはそれ程大きくなく、みんなに振る舞ってしまえば、一口、二口しか口に入らないであろう。
 だが、それでも食べられるとなると、殺気混じりの視線を向けていた者達も、現金な物で…。

「お~ッ!!坊主、よく言った!それでこそ男だ!」
「偉いぞ、にぃちゃん!」
「あんた最高だよ、お兄さん!」

 僕の言葉を聞いて、今までの殺気が嘘の様に霧散し、各々おのおの、口裏を合わせたかの如く褒め称えてくる。

「あんた、良いのかい?これだけの量のオーク肉だと、かなりの金額になるんじゃないのかい?」

 まぁ、確かに、肉の塊で考えれば、それなりの金額になる。
 そう言う意味では、かなりの大損になる。

「まぁ、そうなるでしょうね…とは言え、ここの店の料理は美味しいそうですからね。
 この肉を振る舞えば、逆に他の人からも料理を振る舞われるかもしれないじゃないですか?
 まぁ、アルコールを出されても飲めませんので、その場合は遠慮したいですが…。」
「あらあら、しっかりしたお客さんだ事…あんた達、ちゃんと聞こえたかい?
 オーク肉を食べたきゃ、こっちのお客様に1品付けてあげな!」

 そして、おばちゃんの一言で何が食べたいか聞いてくる他のお客達…。
 その中には、目をハートににした女性客までいたので、若干引いてしまったのは内緒だ。

〔ご主人様、この五月蠅うるさい者達は、消してしまって良いですよね?〕

 流石に、この騒動にシビレを切らしたプリンが〖念話〗で物騒な事を言ってくる。

〔いや、ダメに決まってるでしょ…悪いけど我慢してくれ。〕

 とは言え、問答無用で消そうとしないだけ、プリンの堪忍袋の緒は丈夫になった物だと感心する。
 ただ、何か一つ、ハプニングがあったらとんでもない事になっていただろうと思う。

〔うぅ…消してしまいたい。〕

 プリンさん、本当に自重してくださいね?
 そう思いつつ、クズハの方を見ると、女性客が僕に近付くのを体を張って止めようとしているのが見えた。
 あれ?僕が可笑しいのかな?確かに、高価な肉ではあるが、たかが肉一つで、死亡フラグが立ちそうなんだけど…と、僕は可笑しな感覚に困惑していたのだった…。

◆◇◆◇◆◇◆

 10分後、僕達のテーブルには、これでもかと言うほどの大量の料理が並んでいた。

「これ、本当に食べきれるんだろうか?」
「が、がんばります!」
「大丈夫ですよ?私の中に入れておけば良いですから。」

 プリンの私の中…と言う言葉を聞いて、僕はスライム固有の能力を思いだす。
 それは、種としての固有能力なので、ステータスにも表示されないが、スライムは取り込んだ物を亜空間とも呼べる場所に保管する事が出来たはずだ。
 おそらくは、そこに保管しておくと言うのだろうが、現在のプリンは人型…つまり、その姿で取り込むには口から体内に取り込む事が条件になるので、それを取り出して食べると言うのは、あまり想像したくなかった。

「ま、まぁ、何はともあれ食べるとしよう…いただきます。」

 僕はそう言うと、料理に手を伸ば…そうとした瞬間、周囲から大きな声が響き渡った。

「「「う・ま・い・ぞ美味いぞーーーッ!!」」」

 その声を聞いて、僕はいい加減、静かにご飯を食べさせてくれ…と、残念そうに溜息を付くのだった…。
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