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~第六章:冒険者編(後期)~

171ページ目…聖王都への旅路【2】

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『パカラッ、パカラッ…。』

 僕の操縦するゴーレム馬車が、町中をノンビリと駆けていく。
 とは言え、ノンビリなのだから、この場合、駆けていくと言うよりは歩いて行くと言った方が良いのかもしれない。

「あ、あの!ご主人様、そこの角を左です。」
「おっと、ここだったか、危うく道を間違える所だった…ありがとう、クズハ。」
「い、いえ、お礼を言われるような事は何も…。」

 僕達は『聖王都』へ向かう前に、メルトの町の肉屋へ寄る為に移動していた。
 と言うのも、食いしん坊のフェンリル狼ローラが、王都へ移動中する際の食料の一つである干し肉を全部食べてしまっていたからだった。

「まぁ、食べる事自体は問題ないんだけど…ね。」
「え?ご、ご主人様、何か言いましたか?」
「いや、ちょと独り言を…って、気にしなくて良いよ?」
「そ、そうですか…。」

 相変わらず耳が良いのか、クズハが僕の独り言を拾ってくる。
 とは言え、一人で黙々と操縦するって言うのも退屈なので、ありがたいと言えばありがたいのだが…。

「そう言えば、いつもなら真っ先に話してくるプリンは?」

 そう…本来なら、我先にと話し掛けてくるプリンが一言も喋らずに大人しくしているのだ。
 それを疑問に思った僕は、プリンと一緒に荷台にいたクズハに聞いたのだが…。

「そ、それが、その…プリン様は寝ちゃいました…。」
「はい?」
「で、ですから、寝てしまいました。」
「いや、寝たのは聞こえてるから…じゃなくて、まだ町すら出てないのに、いきなり寝ちゃったの?」
「は、はい…実は、プリン様、久しぶりの旅行だからって、一昨日から興奮気味で一睡もしてなかったんです…。」
「遠足の前日、興奮して眠れない子供か!?
 って言うか、一昨日からって、余計、質が悪いわ!」

 普通、この手の興奮して眠れないって言うのは前日である。
 間違っても前々日から寝られないと言うのは、可笑しすぎる。

「ま、まぁ…その…プリン様ですから…。」

 確かに、言われてみれば、聖王都へ行くのが決まってからと言う物、プリンがそわそわしていた気がする…だけど、今までだってプリンと旅をしていた事もある。
 何故、今回に限り、これほど可笑しな行動を取るのだろう…。

「う~ん…クズハは、プリンがこんな風になった原因って思い付かない?」
「え、えっと…間違っていたら申し訳ないのですが、その…たぶん、ご近所様の奥様方が原因かと…。」
「え、え~っと、あまり聞きたくない言葉フレーズな気がするんだけど、どう言う事かな?」

 何やら、嫌な予感がするが、流石に聞かない訳にもいかない。
 その為、クズハに聞いてみた訳…なのだが、やはり嫌な予感は的中したみたいだ。

「そ、それが…ですね、旅行した時にハメを外す人が多いらしく、旅行中の夜は旦那様が魔獣に変わるとか何とかで…その、あうぅ…恥ずかしいです~。」
「また、あいつらか!」

 そう…最近、何かと余計な事をプリンに吹き込む連中がいる。
 所謂いわゆる、噂好きのおばちゃん連中の事である。
 一部例外として、プリン同様、若い人もいたりするが、どこの世界でも同じなのか、主婦連中と言う生き物は、噂が大好きな様である。
 特に、何故か男性陣よりも女性陣の方が、下ネタ関係には妙なテンションでキャッキャッ騒いでたりする。
 その為、旅行をすると言う話を聞かれたのか、自分から言ったのかは分からないが、プリンにある事ない事、面白可笑しく言い含めている様だった。

「まったく…だけど、そんな事を聞くと、夜が心配になってくるな。
 悪いんだが、クズハもプリンの動きには注意して置いてくれ。」
「は、はい!」
「はぁ~、まったく、何だかな~。」

 まだ、町を出てすらいないってのに、妙に疲れた様な気がしてならない…。
 だが、あいにく旅はまだ始まったばかり…ってか、まだ町を出ていないのだから、始まってすらいないっぽいのだが?
 何はともあれ、疲れている場合じゃないので頑張ろうと思う。

 と、そんなやり取りをしていたら目的地の肉屋に到着したのだった…。

◆◇◆◇◆◇◆

「こんちわ~、干し肉買いに来ました~。」

 プリンが寝てしまっている為、クズハに馬車で留守番を頼み一人で肉屋で買い物だ。
 いくらプリンが強くても、女の子を一人、馬車に残して買い物を…と言うのは、騎士道精神ではないが、男としてか許せる物ではなかったからである。

「いらっしゃい!干し肉ですね?いくら必要ですか?」

 店に入ると直ぐに店主らしき人物から声を掛けられた。
 しかも、ちょっと怖めの声に、緊張が走る。
 こう言う時、クズハが居てくれたら買い物が楽なんだけどな…と思う。

「えっと…値段が分からないから、金貨1枚で買えるだけ?」
「ち、ちょっと旦那ッ!?流石に、金貨1枚分なんて在庫、こんな小さな店にある訳ないじゃないですか!」
「あ~…そうなの?」

 しまった…流石に適当に言ったとはいえ、多過ぎた様だ。
 考えてみたら、この世界では金貨1枚って言うと、日本円で約100万円程の価値だったはず。
 最近、色々なクエストをして収入が多々あった為、お金の感覚が狂ってたみたいだ。

「そうですよ、旦那…うちにある在庫、全部集めても銀貨20枚って所ですよ。」

 銀貨20枚…つまり約20万円分と言う事か。
 そう考えると、高い…と、思ってしまうが、元々、金貨1枚分買おうとしていたのだから、十分、予算以内である。

「えっと…じゃあ、それを全部ってのは可能ですか?」

 ぶっちゃけ、どれだけの量になるか分からないけど無限庫インベントリがあるから問題ない。
 その為、店主に提案したのだが…。

「干し肉をいっぱい買うと言う事は旅ですかね?
 正直、こちらとしては、出来れば売ってしまいたいのですが、その半分の銀貨10枚分までにして貰いたいってのが本音ですかね…。」
「ん?確かに旅ですが、半分とはどう言う事ですか?」
「いえね、私どもは客商売な訳ですよ。
 ですが、旦那に全部お売りした場合、干し肉を欲しいと買いに来たお客様に対し商品がない…なんて事になったら、せっかく来てくれたお客様がガッカリしてしまうじゃないですか。
 私共としましては出来るだけ、全てのお客様に満足して貰いたいってのが信条でして…。」
「あッ!そうですよね…すいません、そこまで深く考えていませんでした。
 そう言う事なら、了解です、ですので、こちらも言い直します。
 ご主人、貴方が僕にお売り出来る分だけ僕に売ってください。」

 その言葉に、肉屋の店主が一瞬、驚きの顔を見せる。
 だが、次の瞬間には笑顔になり…。

「畏まりました、喜んでお売りさせていただきます!」

 店主はそう言うと、急いで店の奥に入っていく。
 すると、中から声が響いてきた。

「野郎ども、急いで倉庫から干し肉持ってこい!
 この馬鹿野郎!そんな古い物持ってくるんじゃねー!
 あんな良い人に、粗品掴ましたとあっちゃー肉屋の恥だ!
 死んでも死にきれねー!さっさと倉庫から在庫全部持ってきやがれー!」

 あ、あの…僕、干し肉買いに来ただけなんですけど…戦場か何かですか?
 何で、そこまで気合いが入ってるんですかね?
 もしかして…来る店間違えたかな?などと考えていたら、店主が戻ってきた。

「いや~、お待たせしてすみませんでした。
 ちょっと、うちの若い者がノロマでして…ですが、ご安心してください。
 商品に関しては、私が良い物をしっかりと選ばせていただきました。」

 そう言うと、店主がカウンターの上に大量の干し肉を並べ始めた。

「え~、さっそく説明させてもらいますね。
 ここからあそこまでが高級品となっています。
 そして、ここからこっちまでが…まぁ、普通の…と言いますか一般的な物ですね。
 一応、ご要望通り、私が売っても良いと思える量をご用意させていただきました。」
「えっと…それで、いくらになりますか?」

 そう…ぶっちゃけ、思っていた以上に大量に並べられているのだ。

「はい、先ほども言いました様に、銀貨10枚分ご用意させていただきました。」

 いや、どう見ても銀貨10枚で買える量じゃないだろ?と思ってしまう。

「本当に銀貨10枚なんですか?」
「えぇ、二束三文の儲けにしかなりませんが、気に入ったお客様から儲けようとは考えていませんので。」
「いや、でも…流石に、それでは赤字になるのでは?」
「その点はご心配なく…これでも商売人ですから、赤字で売る程、商売人として腐っちゃいませんので。」
「分かりました…では、ありがたく頂きます。」

 僕はそう言うと銀貨15・・枚を店主に渡す。
 これは、〖神眼〗で見た、この店での干し肉の価値よりも、僅かにプラスされた金額である。

「旦那、これは…。」
「もちろん、干し肉の代金ですよ?当然、お釣りはいりません。」
「そ、そうですか…でしたら、少々お待ちいただけないでしょうか?」
「え?えぇ、構いませんが…。」

 買う物も買ったし、さっさと旅に出ようと思っていたのだが、どう言う訳か待ってくれと言われてしまったので、大人しく待つ事にした。
 まぁ、多少は急ぐ旅ではあるが、少し町を出るのが遅れるだけである。
 それに、確かに王都へ向かう旅は冒険者ギルドからの依頼であっても、あくまでも美味い物ツアーである為、かなり自由に出来る所がある。

「では、少しだけお時間頂きます。」

 店主はそれだけ言うと、再び店の奥に入っていき…そして、直ぐに戻ってきた。

「旦那、お心遣いありがとうございます。
 ですので、こちらからもお土産おまけとしてお受け取り下さい。」

 そう言うと、店主は小さめの包みを差し出してくる。

「あの…これは?」
「ですので、お土産ですよ?道中、お楽しみ頂けたら幸いです。」

 そう言うと、店主は深々と頭を下げる。
 どうやら、貴重な品の様である。
 それにしても、わざわざこんな物を用意してくるあたり、かなりのプライドを持って仕事している様だ。

「そうですか…それでは、ありがたく頂いていきます。」

 断るのは失礼に当たると思い、僕はそれだけ言うと、軽く会釈をして店を出たのだった…。
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