上 下
104 / 421
~第四章:冒険者編(中期)~

104ページ目…回想シーン【2】

しおりを挟む
「じぃじ、これ~。」

 ん?これは…夢?いや、思い出…なのか?

 小さい頃の僕がいる。
 そして、じぃちゃんだけじゃなく、ばぁちゃんも…って、ばぁちゃん、若いなッ!?

「おや、夢幻むげん…またじぃじの部屋から本を持ってきたのかい?」
「うん、これ、よんで~。」

 そりゃそうだ…いくら何でも3歳位の僕に本を読む事は出来ないだろう。
 何せ、その年代くらいだと文字を知らないんだ。
 当然、誰かに読んで貰わないと本なんて読めるはずがない。

「どれどれ…今度は何を持ってきたのかな~?」

 じぃちゃんはそう言うと僕を膝の上に乗せて、僕から本を受け取る。
 そして、その本を見たじぃちゃんは、動きを止めた…。

「ま、まさか…バカな、この本は、あの時無くなったはずじゃ…。」

 無くなった?何の事だろう…それに、あの本、どっかで見たことがあるような…。

「じぃじ?」

 僕は今までに見た事のない、じぃちゃんの顔に驚きながら首を傾げた。

「あ、あぁ…本だったね…。」

 そう言うと、じぃちゃんは慌てて本のページを捲めくる。
 だけど、そこには何も書いていない。
 だけど、偶然、僕の手が本に触れた、次の瞬間、本が一瞬だけ光、直ぐに消えた。

 すると、再びじぃちゃんが慌てて本を調べる。

 何も書かれていなかった最初のページ…1ページ目に、何やら文字が顕あらわれている。
 それを見たじぃちゃんが、表拍子を念入りに調べる…。

「よかった、まだ指輪は無いようだな…。」
「じぃじ、ほん~」
「あ、あぁ…これはな『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と書いてある。」
「へぇ~。」

 僕は意味も分からずに、適当な返事をした。

「あらあら、夢幻ちゃんは本当に正義まさよしさんがお気に入りですね。
 ばぁばに甘えてくれなくて、ばぁばは寂しいですよ~。」

 あ、ばぁちゃんだ…相変わらず綺麗で若いな…もっとも、僕が小さい時の記憶?なんだから、今よりも若いのは当然と言えば当然か。
 とは言え、近所の婆さんたちに比べたら、かなり綺麗…と言うより、ぶっちゃけ可愛い。
 もっともっと若ければ、お姫様と言われたら信じてしまいそうになる程だ。

「ははは…アリアさん、夢幻は私よりもアリアさんの方が大好きなんです、な~夢幻?」
「うん、ぼく、ばぁば、だ~いすき~♪」

 そりゃそうだ…じぃちゃんと違い、ばぁちゃんに抱き締められると、お日様の匂いとでも言うのかな?
 何故か良い匂いがして、幸せな気分になるのだ。

「あらあらあら、私も正義さんよりも夢幻ちゃんの方が大好きですよ~♪」
「わ~い、じぃじにかった~♪」
「えッ!?ちょっとアリアさん、私よりも夢幻の方が好きなんですかッ!?」

 ばぁちゃんの返事に慌てるじぃちゃん…ってか、と競ってどうするよ?

「はい…その代わり、あなたを愛してますから♪」

 その言葉で我を取り戻すじいちゃん…心なしか、じぃちゃんの頬が赤い気がする。

「なるほど…それなら、私もアリアさんを愛しています。」

 あぁ、そう言えば…ばぁちゃん、よくこうやってじぃちゃんを、からかっていたな…。
 なんとも懐かしい光景だ。

「正義さん、そろそろお昼の支度をしますので、ちゃんと夢幻ちゃんのお相手お願いしますね?」
「任せろておきなさい、夢幻、じぃじとお庭で遊ぼうか?とっておきの手品を見せてあげようね。」

 そう言うと、じぃちゃんは僕を庭へと誘い出す。
 もっとも、じぃちゃんは、直ぐに出てこず、ばぁちゃんと何やら話してから庭に出てきたのだが…。

「おまたせ!さてと…夢幻、約束通り手品を見せよう。
 あそこに、柿の木があるだろ?」

 そう言うと、じぃちゃんは庭にある大きな柿の木を指さす。

「ある~!」

 釣られて声を上げる僕…夢?とは言え、何やらちょっと恥ずかしい。
 
「よ~く見ててごらん、えいッ!」

 じぃちゃんの掛け声と共に、じぃちゃんの手から小さな水の塊が飛んで行き、柿の木に当たる。
 そして、水の塊は、霧へと変わった…すると、そこに太陽の光が当たり…小さな虹が出来る。

 あぁ…夏場、ホースで水道の水を撒く時に出来る現象だな…と改めて思う。
 が、当時の僕にはそんな事分かるはずもない訳で…。
 って、ちょっと待てッ!今、何処から水の塊を出した!?

 当然、夢?の中のじぃちゃんはホースなんて持っていない。
 いったい、何処から水の塊を…って、夢?なんだから何でもありなのか?

「じぃじ、すご~い!」

 だが、そんな事もお構いなしに、夢?の中の僕は、素直に驚いている。

「えっへん、すごいだろ~!」
「あらあら、正義さんったら、いつまでも子供なんですから…でも、もうあの時とは違うのですから、あまり無理しちゃダメですよ?」

 そう言って、ばぁばは笑っていた。

 そう言えば、何で僕はこんな事すら忘れていたのだろう…。
 目が覚めてしまえば、また忘れるであろう…そんな事を考えながら、今暫くの間、この世界を楽しもうと僕は心に決めたのだった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩に抱かれたくて尿道開発している僕の話

聖性ヤドン
BL
主人公の広夢は同じ学生寮に住む先輩・日向に恋をしている。 同性同士だとわかっていながら思い余って告白した広夢に、日向は「付き合えないが抱けはする」と返事。 しかしモテる日向は普通のセックスには飽きていて、広夢に尿道でイクことを要求する。 童貞の広夢に尿道はハードルが高かった。 そんな中、広夢と同室の五十嵐が広夢に好意を抱いていることがわかる。 日向に広夢を取られたくない五十嵐は、下心全開で広夢の尿道開発を手伝おうとするのだが……。 そんな三つ巴の恋とエロで物語は展開します。 ※基本的に全シーン濡れ場、という縛りで書いています。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

【R18】白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ姫君は甘い夜を過ごしたい~

瀬月 ゆな
恋愛
初恋の王子様の元に政略で嫁いで来た王女様。 けれど結婚式を挙げ、いざ初めての甘い夜……という段階になって、これは一年限りの白い結婚だなどと言われてしまう。 「白い結婚だなどといきなり仰っても、そんなの納得いきません。先っぽだけでもいいから入れて下さい!」 「あ、あなたは、ご自身が何を仰っているのか分かっておられるのですか!」 「もちろん分かっておりますとも!」 初恋の王子様とラブラブな夫婦生活を送りたくて、非常に偏った性の知識を頼りに一生懸命頑張る王女様の話。 「ムーンライトノベルズ」様でも公開しています。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

廃校カニバリズム

FUMUFUMU
ホラー
カニバリズム×廃校のホラー小説です。 読んでいただけたら幸せです。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...