式神

包囲網7

　徳川家康が信玄に敗れたという噂が京に渦巻いていた。鬼女は朱雀の報告を受けて早々に出仕前の関白を朱雀を連れて訪ねる。半刻も歩くと関白の屋敷の門の前に来る。蝦蟇がいち早く見つけて出てくる。
「関白様はおられる？」
「はい。今着替えをされています」
　部屋の中に案内されると光栄が茶を運んでくる。光栄は今は関白のお供をしているとのことだ。しばらくして正装をした関白が現れる。
「織田は大丈夫なのか？」
「ここが勝負どころかと。本願寺も限界に来ているようです」
「一条兼良が本願寺からの和解の条件を出して来てきておる。到底飲める内容じゃない。まだ駆け引きの段階じゃ。だが今のうちに互いに根回しをしておくのも必要だ」
　光栄は忙しく出仕の支度をしている。まるで賀茂家の主人は鬼女のように見える。
「それと兼良が帝に信玄入洛の詔を願い出ておる」
「それでは織田は朝敵になるのでは？」
「そうだ。それは私がなお早いと預かったが。いつまでも押えられない。信玄との戦況を誰よりも早く探ってもらいたい。それによって打つ手が変わる」
　関白としても織田だけに頼るわけにな行かない。兼良より先手を打つ必要がある。賀茂家も同じ立場だ。信玄が入洛するなら先に詔を取る必要がある。
「はい。すぐにこの朱雀を秀吉様の元に送ります」
　関白邸を辞すると朱雀は地獄谷から帰ってきている礫を連れに屋敷に戻る。礫の戦闘能力を高く勝っている。それから小猿を本願寺に送る。のっぺらぼうは式神の子供達を地獄谷のかやの元に届けている。朱雀は礫を連れて夜通し走り続ける。さすがの礫ももうこの辺りで息が上がってしまっている。
「少しは上達したか？」
　礫には手裏剣を教えているのだ。
「石のように真っ直ぐ飛ばないので」
「次は２枚投げを教える」
　２枚投げは朱雀の得意技だ。