当たり屋

仕上げ8

　牙と余は名札を貰って局の関係者としてスタジオに入る。余がスタジオ番号を見て廊下の窓から中を見る。ちょうどＹＯＵの撮影中だ。これはテレビドラマの最終の場面のようだ。ＹＯＵのセーラー服姿を見たのは初めてだ。ＹＯＵは学校を出ていないのだ。最近は通信教育で高校の勉強をしている。
　花束を持った女性がＹＯＵに渡している。終わったようだ。
「隣のスタジオに母親が来ている」
　余が聞きだしてきたらしくさらに奥の廊下に向かう。これはプロダクションと局のやらせのようだ。ＹＯＵが入ってきて母親を見つけて睨んでいる。ここはドアが開いていて関係者が立って見ている。その中に余と牙が入っていく。ＹＯＵが口を真一文字につぐんでいる。
「優子」
と母親に呼ばれても一言も口を利かない。アナウンサーが母親に一方的に質問をしている。僅か１０分の会見だ。終わると牙の横にいたリーゼントの男が出て行こうとするＹＯＵに何か封筒を渡した。これが白黒の母親の相手だろう。
「この男を追う」
と余は残して消えた。ＹＯＵは楽屋に消えた。牙はそのまま下に降りてタクシーを捕まえて裏口で待つ。
「裏口で待つ」
とメールを打ったが１時間も経っても降りてこない。ようやくサングラスを掛けたＹＯＵが顔を出した。牙が手を上げるとＹＯＵが走ってくる。垣根に隠れていたのかカメラマンがフラッシュを焚いてリポーターが追いかけてくる。
「大丈夫か？」
「うん」
「何を渡された？」
　黙って握りしめた封筒を渡した。やはり牙の予想したものだった。全裸のＹＯＵのアナルに兄貴のものが刺さっている。これはあのＡＶのシーンだ」
「誰かに見せた？」
「いえ、でももう辞める」
「少し待て。何とかする」
　これは切り札だから週刊誌に流すことはしないだろう。タクシーを新宿に走らせる。