当たり屋

北へ9

　１００万を朝一番に用意した。ゴンさんはヒットマンをやはり見張っている。牙はホテルでパソコンに張り付いている。だが日が暮れても連絡はなかった。牙は鞄にパソコンと１００万の入った袋を入れて赤提灯に行った。朝から雪が降っていたのか踏み出す足が深く埋もれる。岸壁の波が白く弾けている。
　ドアを開けるといつもより賑やかだ。
「漁師が出航中止で大挙飲みに来たのさ」
　マスターが顔馴染みに声をかけるように話した。それ程毎日この店に来ている。窓際の席に座ってパソコンを開く。ゴンさんが入れたウイスキーのボトルが運ばれてくる。
「どこにいる？」
「赤提灯ですよ」
「今行く」
　スマホを切って２杯目を入れているとゴンさんが雪ダルマになって入ってきた。
「連絡はなかったか？」
「ええ、それで２食分を取りに来たのです」
「飲みに来たのだろうが？彼らは消えたのや」
「消えた？」
「いや非常階段を使ってホテルを出たのだ。どこに行ったと思う？」
「・・・？」
「このターミナルの先の桟橋に車で来たのだ。分かったのや。ヒットマンも兄貴もここから出る漁船を待っていたのだ」
「ではもう？」
「今夜は出航中止や。だがヒットマンもどの船に兄貴が乗るか分かっていない」
「どうするんですか？」
「それを朝まで考えるのや」