当たり屋

夢人

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踏み出す11

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 先ほどからパソコンを睨んでいる。ここに踏み込むともう戻れない。自己破産に加え今度は犯罪者だ。だが流れが自然とここに向かった。美貴のパソコンに入って裏口座のパスワードを押す。17億を牙の持っているYOUの口座に振り込む。裏口座だから美貴は訴えられないだろう。
 前もって開いていたネット証券で花田の会社の株を買っていく。反落しているので10億を買うのに大した時間がかからない。だが株価が元値まで回復した。
「花田社長から100万出すと連絡があったが?」
「ではこれから送る裏口座の写真を渡せ。金は貰えばいい。だが貰ったら報告を入れろ」
 顧問にそう伝えてマンションを出る。ここから萩之茶屋の飯屋まで20分ほどかかる。花田も専務も美貴も牙の影を全く知らないでいる。この状態を上手く続けていくのに顧問を使うことにした。これは復讐なのか。
 暖簾を潜ると珍しく師匠が一人座っている。
「今日はどうしたのですか?」
「いや、葬式に行ってきたのや。昔当たり屋のライバルだった男や。今年で67歳になってたんやな。車に飛び込んで転んだ先にまた轢かれてしもた」
 師匠の話ではこの辺りには当たり屋が一時10人はいたと言う。
 スマホを覗くと花田の部屋に顧問が座っている。
「100万は上げるけどもっと欲しくない?」
「どうすれば?」
「美貴の入院しているベットに夜潜んで通帳とカードを盗ってきてほしいの。後100万出すわ」
 馬鹿な奴だ。裏口座を美貴が持ち歩いているわけがない。
「牙は娘がいるって言ってたな?」
「ええ、今年で18歳になります」
 YOUは今でも18歳と押し通している。
「気を付けんとなあかんぞ。娘もその頃に男と出て行きよったのや」













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