夢の橋

決心10

　不正融資の調査を続けるが途中で残った会社からストップが入った。5日間集めた情報が水の泡だ。こういう仕事が最近には多いのだ。出先で室長からストップの連絡が入りそのまま帰ってよいと言われた。私はその足であの内容証明の弁護士に時間を予約した。それなりに調査をしたが立ち退きを免れるのはあり得ないという感じだ。
　蒲田の駅前のビルに入る。
「あなたは？」
　弁護士が席を勧めて私の名刺を見て首を傾げる。
「娘の婚約相手です」
「で立ち退きされるのですか？」
「調べたらあのビルの持ち主は競売か売買かと言うところにあるようですね？」
「詳しいですね？」
「私の調査では競売になると４２００万くらいではないかと？」
「よく調べていますね？だが売主は５０００万以上でないと債権の整理ができません」
　これは銀行と話をするしかなさそうだ。もちろん資金もないが。
　ビルを出ると駅の地下道を潜って暖簾の前に立つ。まだ５時だ。鞄の中にはエプロンが入っている。
「早いね？」
　おばさんがビールの空き箱を並べて入口に台をこしらえている。私は中に入ると常連を見ながらカウンターを潜りエプロンをかける。総司は吃驚したしたように見ている。常連客は慣れた景色のように見ている。総司に代わって大根の皮を剥く。それを決められた大きさに切って鍋でゆでる。おばさんの作業をずっと見て来たから分かる。客の声がかかるとビールを開ける。
「最近夢の中で鼠を見ないよ」
「向こうの総司は斎藤一にべったりだ」
　６時を過ぎると無駄口を叩いていられない。８時までは額に汗をかいている。その間に総司がウインナーを出してくれ、ビールをコップに入れてくれる。８時には総司と私は後ろでおでんを食べる。総司は時々私のビールのコップを飲む。
　おばさんは代わりにカウンターに立ちにこにこしている。
「ね、今日も泊まったら？」