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手仕舞い
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思い切って周平は7年ぶりに大学の友人にして松七五三聖子の恋のライバルだった彼の電話番号をプッシュしてみた。これは数か月前から考えてきたことだった。団長、いや松七五三聖子と結ばれることを報告できる唯一の人間だ。そしてこのノートの最後の1冊を手渡しする。これであの日の夢の種の住民になりきれるかもしれないと思う。だがその携帯番号はすでに使われなくなっていた。それでやも得ずノートの配送先に手紙を書いておいた。
「珍しく手紙何か書いて」
今夜は『アンの青春2』の初舞台だ。周平も何とかセリフを覚えて初舞台を踏む。
「いや彼に会おうと思ってね」
「吃驚するんじゃない?」
「いや、あのノートを読んでいたらそうも驚くことはない。団長も一緒に会うかい?」
「いえ、やめとくわ。松七五三聖子は消えてなくなったのだから」
淡い青春の思い出として彼の中に残るか。そう思いながら周平は松七五三聖子に会うためにその夢の中に飛び込んでいったのは自分なのだと思う。
ホワイトドームの扉があいてフランケン達が入ってくる。隣地の取り壊しと劇場の建設が始まっていて、フランケン達が日雇いで雇われている事業主は藤尾の会社だ。藤尾は古い文化住宅の柱を残して劇場を建て増しとして登記するようだ。藤尾は最近はバブルで崩れそうな会社の物件を主に扱うようになっている。藤尾が後ろからヘルメットを被って入ってくる。
「まるで現場監督やな」
「現場監督や。ビール抜いてくれよマスター」
一列に並んで止まり木にとまっている。
「新橋のビルは?」
「今日解体にかかっているわ」
「書類は?」
「すでにこちらの文化の空き部屋には込んだよ。やはりあの場所はいつまでも安全ではなくなっている。何もかも一度すっかり手仕舞いやな」
「なかったことにするのか」
「珍しく手紙何か書いて」
今夜は『アンの青春2』の初舞台だ。周平も何とかセリフを覚えて初舞台を踏む。
「いや彼に会おうと思ってね」
「吃驚するんじゃない?」
「いや、あのノートを読んでいたらそうも驚くことはない。団長も一緒に会うかい?」
「いえ、やめとくわ。松七五三聖子は消えてなくなったのだから」
淡い青春の思い出として彼の中に残るか。そう思いながら周平は松七五三聖子に会うためにその夢の中に飛び込んでいったのは自分なのだと思う。
ホワイトドームの扉があいてフランケン達が入ってくる。隣地の取り壊しと劇場の建設が始まっていて、フランケン達が日雇いで雇われている事業主は藤尾の会社だ。藤尾は古い文化住宅の柱を残して劇場を建て増しとして登記するようだ。藤尾は最近はバブルで崩れそうな会社の物件を主に扱うようになっている。藤尾が後ろからヘルメットを被って入ってくる。
「まるで現場監督やな」
「現場監督や。ビール抜いてくれよマスター」
一列に並んで止まり木にとまっている。
「新橋のビルは?」
「今日解体にかかっているわ」
「書類は?」
「すでにこちらの文化の空き部屋には込んだよ。やはりあの場所はいつまでも安全ではなくなっている。何もかも一度すっかり手仕舞いやな」
「なかったことにするのか」
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