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【30:秋月祐也はごろごろする】

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 翌日の土曜日からゴールデンウィークが始まった。

 我が家では昨晩、父が単身赴任先の大阪から帰省してきて、久しぶりに家族三人で団欒を囲んだ。

 そしてこの前母と話していたように、今日は朝から両親二人で出かけた。

 祐也も一緒にどうだと父にも言われたけれども、俺は一日好きに過ごしたいからと言って断った。

 昼も夜も食事は俺が自分でできるから、心置きなくゆっくりしてこいと言うと、母は、こんな時に料理ができる息子を持つと楽だわねー、なんて笑いながら出かけて行った。

 ──という訳で、俺は今日一日の自由を満喫することとなった。


 午前中はスマホでゲーム三昧。昼飯を食って午後からは、前から見たいと思っていたアニメを動画配信で、ワンクール12話をぶっ通しで見た。

 リビングのソファに深く腰掛けて、テレビでずっとアニメを見ていたが、ふと気がつけばもう夕方の6時だ。

 さすがにちょっと疲れた。
 立ち上がって、「うーん」と伸びをする。
 
「そろそろ晩飯にするか」

 誰もいない空間に向かって、思わず独り言が出た。

 ここ最近の土曜日は毎週料理教室の講師をしていたから、こうやってのんびりする土曜の夕方は久しぶりだ。

 そう言えば──

 日向は家族と旅行に行くと言っていた。旅行先までは聞いていなかったけど、どこに行っているのだろうか。

 ──楽しんでいるのかな。

 そんなことを考えていたら、ふと日向のキラキラとした笑顔が頭の中に浮かんだ。

「あ、いや。別にどうだっていいんだけど……」

 誰もいない自宅のリビングで、いったい誰に対して言い訳しているのかわからないけれど、ついそんな言葉が口から飛び出した。

 休みの日に同級生の女子のことを思い浮かべるなんて今までなかったから、自分でもちょっと戸惑う。

 そしてほんの少し──

 そう、あくまでほんの少しだけど、日向の顔を見たいような気がした。

 ある辞書によると。
 恋とは、『人を好きになって、会いたい、いつまでもそばにいたいと思う、満たされない気持ち』

 雅彦の言葉が頭に蘇る。

 いや、今のはちょっと日向が気になっただけで、会いたいと思った訳じゃない。
 それに、好きとかそばにいたいとか全然思っていないから大丈夫だ──

 何が大丈夫なのか自分でもよくわからないけれども、ついつい自分にそう言い聞かせていることに気づく。

 ──ちょっと落ち着こう。

 うん、そうだ。
 俺は日向に恋なんかしていない。それは確かだ。

 落ち着いて考えたら、それだけは間違いないと自分で確信を持てた。そして少しホッとする。

「さあ、晩飯の準備をしよう!」

 そう声に出して、俺はキッチンに向かった。


◆◇◆◇◆
 
 ゴールデンウィーク中は一度は両親と一緒に出かけたりもしたし、家の手伝いも少しはしたけれど、概ねそんな感じでだらだらとした毎日だった。

 雅彦は亜麻ちゃんと何度か出かけると言ってたし、他に親しい友達のいない俺は、誰かと会うなんてこともなく、連休を過ごしたのだった。



 そして連休明けの初日。

 ほぼ一週間ぶりに登校して、教室に入ってすぐに日向の姿を目で探す。
 彼女は相変わらず女友達の中心に座り、変わらぬ笑顔を振りまいていた。

 またいつもと変わらぬ日常だが、日向の元気そうな姿を目にして、なんだかホッとした気分になる。

 ──え? あっ、いや……

 彼女はいつもどおりそこにいるだけなのに、なぜホッとしたのか、自分でもよくわからない。

「おおっ、おはよー、祐也!」
「ああ、おはよう」

 雅彦が満面の笑みで、肩を叩いてきた。コイツも変わらず元気なようだ。
 けれども雅彦の姿を見ても、日向に感じたようなホッとした気持ちはない。

 もちろん一週間ぶりに見る友達の顔に、少し楽しい気分が湧くのだけれども、ホッとするような感覚ではなかった。

 ──うーむ……

 日向の顔を見た時に感じたあの感覚はなんなのか、よくわからない。
 なんだか少しもやっとしたけれど、雅彦と雑談しているうちに忘れてしまった。

 それからはいつもと変わらない日常があるのみ、という感じで一日が過ぎた。
 次の日もそんな感じで過ぎて、二日登校しただけでまた土曜日……つまり日向が料理教室にやって来る日を迎えた。
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