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【18:春野日向は噂される】
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隣のグループの男子達が、春野の料理の腕前についての会話を続けるものだから、そちらが気になって仕方がない。
「春野さんって、きっと料理なんかも上手なんだろうなぁ!」
「そりゃ、そうだろ! あれだけなんでもできるんだぜ。料理も抜群に上手いに決まってる!」
「だよなぁ。ああ、春野さんの手料理、食べてみたい!」
「春野さんの手料理を食べられるなんて、そんな幸せな男子は誰なんだよー!?」
「お前じゃないことは確定な!」
「ああ、わかってる。だけどお前もワンチャンも無しな!」
「そりゃそうだ。春野さんみたいなスーパーアイドルに弁当を作ってもらえるなんて、よっぽどモテる男じゃないと無理だろ! あはは」
春野の話をしている男子二人は、お互いにそんなことを言い合って苦笑いを浮かべている。
勝手な想像で春野の料理が上手いということになってしまっているけど、実は極めて下手くそだと知っている俺は、少しおかしくて笑いそうになった。
──春野はめちゃくちゃ料理が上手い。
うーん……そのイメージはわかる。
春野も大変だ。イメージが一人歩きして、それに合わせた行動をしないといけない。
──いや、しないといけないと、彼女は思い込んでるのかもしれない。
だからきっと、料理教室に通うことを学校では内緒にして欲しいと望んだのだろう。
別にそんなイメージに合わせる必要なんてないと俺は思うけど……
本物のアイドルになるとしたら、デビュー前とは言え、イメージ戦略というのも必要なのかもしれない。
それとも苦手なものを苦手だと言いたくないのは、春野の性格によるものだろうか。
「春野さんの手料理を食べられる資格がありそうな男子なんて、誰もいないよな……」
「まあ、そうだな……」
二人ともかわいそうに、苦笑いして意気消沈してしまった。
なあ、二人とも。春野の美味しい手料理を食べられる男子なんて、いや女子ですら、今のところ誰もいないんだぞ。違う意味で。
そう言って二人を励ましてやりたくなるくらいだ。
そんなことをぼんやり考えていたら、向かい側から声が聞こえた。
「なあ祐也」
雅彦が食べ終わった弁当箱を片しながら、話しかけてきた。俺も自分の弁当箱を片付けながら返事をした。
「……ん? なに?」
「やっぱ彼女にするなら、料理上手な女の子がいいよなぁ」
「はっ? 急になんの話?」
「いや、隣のヤツらが、春野さんは料理上手だって話してるだろ」
あ、雅彦のやつ、何気ないふりして、隣の二人の会話をきいていたのか。
いやそれにしても、春野が料理上手だなんて、単なる彼らの想像なんだけど……
事実はまったく違うが、自分以外は誰も真実を知らないのだからそれは仕方がない。
だけどその話と、料理上手な女の子を彼女にしたいって話は、どう繋がるんだ?
「そうだな。で?」
「春野さんは確かになんでもできる凄い女の子なんだろうけどな。アマンだって料理が上手くてさぁ」
「へえ、そうなんだ」
「何度かデートの時に弁当を作ってきてくれたんだけど、めっちゃ美味かった! やっぱりアマンはサイコーの女の子だって思うわけ。祐也もそう思うだろ?」
「そう思うって……亜麻ちゃんが最高だってこと?」
「イェース!」
何がイェースだよ。にやにやしやがって。
雅彦は単に彼女を自慢したかっただけか。真剣に聞いて損した。
「まあ亜麻ちゃんが最高だってことは否定はしないよ。だけど俺は、彼女にするなら料理上手がいい、とは思わないな」
「ええっ? そうなのか? 祐也、おかしくないか?」
「別に。料理上手だろうが下手だろうが、俺は気にしない。雅彦こそ、えらく古風だな。女性は料理上手であるべきなんて」
雅彦はなぜかウィンクしながら、立てた人差し指を横に揺らして「チッチッチ」なんて声を出している。
「違うぞ祐也。俺は古風な常識に囚われてるわけじゃない。単に可愛い彼女が作る美味しい食べ物を味わえたら、そりゃもうサイコー! ってことだ」
「まあ勝手に言っとけ。可愛い彼女が作るもんなら、なんだって美味いんじゃないの?」
「それは違うぞ祐也。いくら好きな彼女でも、不味いもんは不味い。想像でものを言うな。だからお前も早く彼女を作れってんだ」
「はいはい。またその話か。考えときまーす」
そんなことを言われて、簡単に彼女ができるのなら、誰だって苦労しない。
俺だって彼女を作りたくないわけではない。お湯を入れて三分で彼女が出来あがるなら、きっと作ってるだろう。
──だけどそんなわけにはいかない。
じゃあ彼女を作るために、ちゃんと努力をするかっていうと、本気でそこまで思えないというのが正直なところだ。
そこまでして彼女を作りたいという強い欲求がわかない、と言った方がいいかもしれない。
「そう言えば祐也。お前のおふくろさん、料理教室を経営してるんだったな」
「えっ……そ、そうだけど。それが何か?」
雅彦の言葉にギクリとする。
雅彦のやつ。春野がウチの料理教室に来てることを、何か知ってるのか?
「春野さんって、きっと料理なんかも上手なんだろうなぁ!」
「そりゃ、そうだろ! あれだけなんでもできるんだぜ。料理も抜群に上手いに決まってる!」
「だよなぁ。ああ、春野さんの手料理、食べてみたい!」
「春野さんの手料理を食べられるなんて、そんな幸せな男子は誰なんだよー!?」
「お前じゃないことは確定な!」
「ああ、わかってる。だけどお前もワンチャンも無しな!」
「そりゃそうだ。春野さんみたいなスーパーアイドルに弁当を作ってもらえるなんて、よっぽどモテる男じゃないと無理だろ! あはは」
春野の話をしている男子二人は、お互いにそんなことを言い合って苦笑いを浮かべている。
勝手な想像で春野の料理が上手いということになってしまっているけど、実は極めて下手くそだと知っている俺は、少しおかしくて笑いそうになった。
──春野はめちゃくちゃ料理が上手い。
うーん……そのイメージはわかる。
春野も大変だ。イメージが一人歩きして、それに合わせた行動をしないといけない。
──いや、しないといけないと、彼女は思い込んでるのかもしれない。
だからきっと、料理教室に通うことを学校では内緒にして欲しいと望んだのだろう。
別にそんなイメージに合わせる必要なんてないと俺は思うけど……
本物のアイドルになるとしたら、デビュー前とは言え、イメージ戦略というのも必要なのかもしれない。
それとも苦手なものを苦手だと言いたくないのは、春野の性格によるものだろうか。
「春野さんの手料理を食べられる資格がありそうな男子なんて、誰もいないよな……」
「まあ、そうだな……」
二人ともかわいそうに、苦笑いして意気消沈してしまった。
なあ、二人とも。春野の美味しい手料理を食べられる男子なんて、いや女子ですら、今のところ誰もいないんだぞ。違う意味で。
そう言って二人を励ましてやりたくなるくらいだ。
そんなことをぼんやり考えていたら、向かい側から声が聞こえた。
「なあ祐也」
雅彦が食べ終わった弁当箱を片しながら、話しかけてきた。俺も自分の弁当箱を片付けながら返事をした。
「……ん? なに?」
「やっぱ彼女にするなら、料理上手な女の子がいいよなぁ」
「はっ? 急になんの話?」
「いや、隣のヤツらが、春野さんは料理上手だって話してるだろ」
あ、雅彦のやつ、何気ないふりして、隣の二人の会話をきいていたのか。
いやそれにしても、春野が料理上手だなんて、単なる彼らの想像なんだけど……
事実はまったく違うが、自分以外は誰も真実を知らないのだからそれは仕方がない。
だけどその話と、料理上手な女の子を彼女にしたいって話は、どう繋がるんだ?
「そうだな。で?」
「春野さんは確かになんでもできる凄い女の子なんだろうけどな。アマンだって料理が上手くてさぁ」
「へえ、そうなんだ」
「何度かデートの時に弁当を作ってきてくれたんだけど、めっちゃ美味かった! やっぱりアマンはサイコーの女の子だって思うわけ。祐也もそう思うだろ?」
「そう思うって……亜麻ちゃんが最高だってこと?」
「イェース!」
何がイェースだよ。にやにやしやがって。
雅彦は単に彼女を自慢したかっただけか。真剣に聞いて損した。
「まあ亜麻ちゃんが最高だってことは否定はしないよ。だけど俺は、彼女にするなら料理上手がいい、とは思わないな」
「ええっ? そうなのか? 祐也、おかしくないか?」
「別に。料理上手だろうが下手だろうが、俺は気にしない。雅彦こそ、えらく古風だな。女性は料理上手であるべきなんて」
雅彦はなぜかウィンクしながら、立てた人差し指を横に揺らして「チッチッチ」なんて声を出している。
「違うぞ祐也。俺は古風な常識に囚われてるわけじゃない。単に可愛い彼女が作る美味しい食べ物を味わえたら、そりゃもうサイコー! ってことだ」
「まあ勝手に言っとけ。可愛い彼女が作るもんなら、なんだって美味いんじゃないの?」
「それは違うぞ祐也。いくら好きな彼女でも、不味いもんは不味い。想像でものを言うな。だからお前も早く彼女を作れってんだ」
「はいはい。またその話か。考えときまーす」
そんなことを言われて、簡単に彼女ができるのなら、誰だって苦労しない。
俺だって彼女を作りたくないわけではない。お湯を入れて三分で彼女が出来あがるなら、きっと作ってるだろう。
──だけどそんなわけにはいかない。
じゃあ彼女を作るために、ちゃんと努力をするかっていうと、本気でそこまで思えないというのが正直なところだ。
そこまでして彼女を作りたいという強い欲求がわかない、と言った方がいいかもしれない。
「そう言えば祐也。お前のおふくろさん、料理教室を経営してるんだったな」
「えっ……そ、そうだけど。それが何か?」
雅彦の言葉にギクリとする。
雅彦のやつ。春野がウチの料理教室に来てることを、何か知ってるのか?
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