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【26:姉の恋愛指南】

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 下の居間に下りていくと、ロングソファにふんぞり返ってテレビを見てた姉が私の方を向いた。

「お、着替えたね」
「うん」
「まあ座りなよ」

 姉がソファの隣をぱんぱんと手のひらで叩くから、素直にそこに座る。

「で、天心君ってどんな子?」

 お姉ちゃん。興味ないとか言いながら、完全に興味津々なんですけどー?

「どんな子って……」
「今までほとんど男の子に興味を持たなかったさくらのハートを射止めるなんて、どんな子かなぁって思ってね。あんた、男の子からはめちゃくちゃ人気あるのに」
「いや、あの、だから……私が好きなわけじゃなくて……」

 またお姉ちゃんはにやにやしてる。ああ、もう腹立つ!

「わかった、わかった。じゃあいいよ。相手がさくらのことを好きなんだったら、男の子の心をガッチリつかむ秘訣なんて必要ないもんね~」
「あ……」


 またやっちゃった。本音は喉から手が出るくらい、その話を聞きたいのにー!

「いや、まあ。一般論なら聞きたい……かな?」
「一般論? 何それ?」

 お姉ちゃんはぽかんとしてる。
 わざとらしかったかな?

「一般論は、一般論よ」
「ああ、一般論ね。その『て、ん、し、ん君』の話じゃなくてね」
「そ、そうよ」

 名前を強調するなー!
 余計に恥ずかしいじゃないの。

 お姉ちゃんは相変わらずにやにやしてるけど、教えてくれるのかな?
 あー、お願い! 四の五の言わないで教えろ! いや、教えてください!

 口に出してお姉ちゃんにお願いはしたくないけど。

「わかった。かわいい妹のためだ。一般論を教えてしんぜよう」
「よっしゃ!」
「アンタ、なに小さくガッツポーズしてんの?」
「え? いや、あの……お姉ちゃんの気のせいよ~ おほほほほ」

 無意識のうちにガッツポーズが出てたわ。危ない危ない。

「まあいいや。じゃあ一般論で教えるから、耳の穴をかっぽじってよく聞きなさいよ」

 あ、耳の穴をかっぽじってなんて表現。リアルで使う人がいるんだー!

 いやいや、今はそんなことはどうでもいいのよ。
 さあ姉よ。私にその秘訣を教えたまえ。

 私はソファで横に座る姉のほうに上半身を向けて、『ひと言も聞き漏らさないわよ姿勢』を取る。

「まずは前提条件として、絶対にこっちから告白なんかしちゃだめよ」
「え? なんで?」

 恥ずかしくって告白なんかできないとは思うけど、しちゃいけないってどういうこと?

「男なんて浮気性なんだから、女が自分に惚れてるって思ったら、安心したり、偉そうに思って、後々浮気するリスクが高くなる」

 そ、そうなの?
 もしかしてお姉ちゃん、それで浮気されて泣いた経験があるとか?

「だから例え自分が好きな男の子だとしても、必ず相手から告白させるのだよ、さくら君!」

 いや『ワトスン君』みたいに言われても。シャーロックホームズか、あんたは?

「で、どうやって相手から告白させるか? どうやって相手の心をガッチリつかむかって話だけど……」
「う、うん」

 あー緊張する。どんな話なんだろ?
 思わず唾をごくりと飲み込んだ。

「続きはWEBで! はい!」

 ってお姉ちゃんのスマホを手渡された。
 おーいっ! 自分で調べろってか!?

「いや、あの、お姉ちゃん?」
「あははーっ、冗談よ。そんなに悲壮な顔をしないの! さくらってホントにからかい甲斐があるねぇ。うんうん、かわいい妹よ」
「へっ?」

 またバカにされたーっ!
 もう、お願いしますよお姉さま。いたいけな妹をこれ以上からかわないでください。

「はい、じゃあスマホは返してね。じゃあ続きだけど……」

 私の手からスマホを取り上げて、お姉ちゃんはまた話し始めた。

「自分に気がない女の子にぐいぐい来る男子は、高校生くらいなら少数派だから、やっぱり気があるってことをちゃんと男の子に気づかせないといけないわけね」

 うん、まあそれはわかる。

「それに人は自分に好意を持つ相手に、好意を持ちやすくなるっていう心理法則があるんだ。心理学で『好意の返報性の法則』と言うんだけど、特に男子はそういう傾向が強いのよ」

 おおっ、大学で心理学を学んでるってお姉ちゃんは言ってたけど、さすが!
 尊敬の眼差しだわ。

「だけどさっき言ったみたいに、あからさまに『あなたが好きです』って伝えちゃダメなの。さりげなく伝えるっていうか、伝わるようにするべきなんだよ」
「じゃあどうしたらいいの? それって難しくない?」
「まあそんなのは、いくらだって方法があるよ。それともう一つ大事なのは、やっぱり自分の魅力を男の子に伝えることね」

 あ、その『あからさまじゃなく、好意を伝える方法』を聞きたいんですけどー

「相手に好きになってもらうために、自分の魅力を存分にアピールするわけだけど……さくらがやったエロい格好は、ここぞという時に使わなきゃだめだよ。一回目のデートで使うなんて失敗」
「ええーっ? エロいとか、そんなの考えてないし」
「何言ってんの? エロいでしょ」
「そっかなぁ」

 まあ確かに、天心君をドキドキさせてやろうという気持ちはあったけど。
 それよりも、可愛いって思ってほしいっていう期待が大きかったんだよね。

「まずは男の子に愛情を持ってもらわないといけないのに、いきなり欲情を持たせてどうすんの?」
「愛情と欲情?」
「そう。男の子は欲情を持った相手を好きだと感じることはあるけど、そんなので付き合ったら身体に飽きたらポイ、だよ」

 こ、これも……もしかしてお姉ちゃんの体験談かな?
 もしやもしや、わが姉は結構男に泣かされてるとか?

 いや、そうじゃないって信じよう。
 こんなに自信満々に、恋愛指南を語ってるんだから。あはは。

「でも欲情させるのも大切だから、これはポイントポイントで、小出しにした方がいいわけ」
「そ、そうなの? 例えば?」
「例えば、急に少しだけ無防備な姿を晒すとか、足を見せるんでも普通丈のスカートからチラ見せするとか、たまたま屈《かが》んだふりをして胸の谷間をチラ見せするとか」
「いや、あの……お姉ちゃん?」
「なにかな、妹よ?」
「女子高生にそこまでさせる?」
「何を言ってるんだね、さくら君。長《た》けてる子はやってるって!」

 確かに。そんな子も、いるにはいる。
 だけど普通の女子高生は、そこまで狙ってやらないよね?

 呆然としてる私を見て、お姉ちゃんはあははと笑った。

「まあいきなりそこまでしなくていいけどさ。とにかく初デートで天心君を欲情させる作戦はだめだってことよ」

 なるほど、そうだったのねー!
 私ったら、あほだわ。

 ──って、欲情させる作戦なんかじゃないっつーの!

「で、天心君は、さくらの姿に欲情したの?」
「え?」

 それは……どうなんだろ?
 彼は自分のことをスケベだって認めてたけど。

 その時、お姉ちゃんが私の肩をポンと叩いた。

「大丈夫だよ。さくらは可愛いんだから、さっきみたいなカッコを見て、きっと天心君だってぐっと惹きつけられたに決まってる」

 あ……お姉ちゃんは、にこりと笑ってる。なんだかお姉ちゃんが凄く優しい。ありがとう、お姉ちゃん。

「そ、そうかな?」
「うん、間違いない。健康な男子なら、そういうことも必要だしね」

 あれ? なんかさっき言ってることと、ちょっと違うようにも思うけど……

「うん。ありがとうお姉ちゃん。良かった。ちょっとホッとした」

 姉が急に、にやりと笑った。なに?

「ほらーっ! やっぱりさくらは、天心君のハートをわしづかみにしようとしてたんじゃーん!」

 あ、やられた。
 この、くそ姉貴め。
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