上 下
23 / 44

【第23話:イライラするっ! ~sideララティ】

しおりを挟む
「ああ、くそっ、イライラするっ!」

 あたしはフウマとマリンを置いて、一人先に家に帰ってきた。
 玄関扉を開けて家に入り、イラつきながら後ろ手に扉を閉める。

 ──バンっ!

 扉が閉まる音が思いのほか大きくてびっくりした。

「びっくりしたぁ。どうしたのお姉ちゃん?」

 家の中にいたフウマの妹、カナちゃんが目を丸くしている。
 ちょっと怯えた表情。
 しまった。悪いことをした。

「あ、ごめんごめん。手が滑っただけだ」
「そっかぁ。おかえり!」

 ニンマリと笑顔を浮かべる幼いカナちゃん。可愛い。
 つかみようのないイラつきに覆われていた気分がスゥっと引く。

「うん、ただいま」
「ねえお姉ちゃん。晩ご飯作ってるんだけど、うまくいかないの。手伝ってくれる?」
「お、おう。いいよ」

 いつも晩ご飯を作ってくれるフウマが、今日は帰りが夕飯の直前になる。だから代わりにカナちゃんが晩ご飯を作るのか。
 あたしは料理はあんまり得意じゃないけど、幼いカナちゃんだけに任せるのは酷だ。

 まああたしなんて微力だけどね。
 やらないよりはマシだと思った。

「やった! じゃあねお姉ちゃん。ここはカナがやるから、これをお姉ちゃんが……」

 こうやって可愛い姿を見ながら、料理でもやった方が気が晴れていい。

***

 ひと通り夕食の準備を終えて、ちょっとひと休みすることになった。
 カナちゃんは疲れたのか、ソファにごろりと寝転んだ。
 するとすぐにスゥスゥと可愛い寝息を立て始めた。

 ──ムフ。

 幼さの残る寝顔が可愛いな。
 ようやくちょっと冷静に考えられるようになった頭で、今日のことを思い返した。

 あたしは、なぜ、フウマを追いかけて二人の逢瀬を覗いたのか。
 自分でもそんなことをすべきじゃないと思いながらも、どうしても我慢できなかったんだよね。

 それは──フウマがどんな顔をしてマリンと会ってるのか、気になって仕方がなかったのだ。
 フウマがマリンと会ってると思うと、胸が痛んで苦しかったのだ。

 ムムム……これはいったいなんなのだ?
 もしかしてあたしは彼に恋……いやいやいや!
 そんなはずはない。

 あたしは魔族だ。魔王の娘だ。
 人間に恋をするなんておかしい。許されない。

 たとしたら、やはり眷属の呪いの副作用か?
 こんな副作用があるなんて聞いたことはない。
 だけど眷属の呪いは古代魔法だ。知られていない作用があったとしてもなんら不思議ではない。

 うん、不思議じゃないぞ!

 それはそうとして、もっと重要なことがある。
 それは──眷属の呪いを早く解除しないと、あたしの自我が無くなるまであと15日しかないということだ。

 えっと……すっごくマズいんですけど?
 いよいよ本格的に対応しなきゃいけないですけど?

 眷属の呪いを解除するには、二つの選択肢しかない。
 一つはフウマの魔力を極限まで高めて、解除術式が有効になるようにする。
 もしくは……彼を殺すか。

 今のあたしには、フウマを殺すという選択はない。
 彼がいなくなると妹のカナちゃんがかわいそうだからな。
 ……うん、決して彼が愛おしいとかではなくて。

 だから毎晩のようにフウマに魔力注入を行い、ヤツの魔力が極限まで高まるのを待っているのだ。
 この方法で、フウマの解除魔法が有効に発動するかどうかはわからない。いわば賭けだ。

 でも、フウマの解除魔法が効くかどうか、そろそろ試してみてもいい頃かもしれないな。
 もしも解除魔法が効かないなら、その時は彼を殺すことも考えないといけない。

 だがしかし。
 本当にあたしに、フウマを殺すなんてことができるのだろうか……?


 その時玄関扉が開く音が聞こえた。

「ただいま~」

 フウマが帰ってきたようだ。
 今日の昼間はマリンと仲良さそうにしているのも、あたしを置き去りにして逃げられたのも腹が立った。

 だけどいつまでもそれを引きずるのは良くない。
 だからあたしは笑顔で迎えるんだ。

「おう、お帰りフウマ」
「うん、ただいまっ!」

 部屋の中に入ってきたフウマの顔を見ると、目尻が下がって鼻の下が伸びている。
 しかもなんだ、そのウキウキした口調は?
 そんなウキウキした話し方なんて、あたしには見せたことないだろう。

 ふぅ~ん……よっぽどあの女とのデートが楽しかったようだな。
 なんか胸の奥がチクチクとする。

 くそっ……穏やかな気分でフウマを迎えようと思ってたけど、こんな姿をの当たりにしたらやっぱムカつく。

「なあララティ」
「ん? なんだ?」
「なにをそんなにブスっとしてるんだよ」
「は? 悪かったな、ブスで」
「いや、そうじゃなくて……もうちょっと朗らかに笑った方がいいぞ。ほら、マリンみたいに」
「……は?」

 なんだと? あの女を見習えと?
 それは、あたしに一番言っちゃいけない言葉であるぞ。

 くっそイライラするっ!
 さっきあたしは、あたしにフウマを殺すなんてことができるのだろうか──なんて思ったけど。
 殺してやりたいほどムカつくっっっ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

とりあえず結婚してみますか?

初瀬 叶
恋愛
「す、すみません! 俺…私と結婚していただけませんか?」 私、レベッカ・コッカスは街で突然声を掛けられた。 彼は第1王子殿下の専属護衛である、レオナルド・ランバード。 彼が結婚したいのには、理由があって… それに、私にとってもこの話は悪い話ではなさそう! それならとりあえず結婚してみますか? 何番煎じかわかりませんが、偽装?結婚的な物を書いてみたくなりました。 初めての作品なので、お手柔らかにお願いします。設定はゆるゆるなので、言葉遣い等おかしな部分もあるかと思いますが、そんなもんか~と思って読んで下さい。R15は保険です。 【不定期更新】 ※ 国名に誤りがありました。2022.10.27に訂正しております。申し訳ありません。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...