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2章 特訓

知らなかったです

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そうして私とフラン兄様はレオナルド先生に魔法を教えてもらい、徐々に魔法についての知識を身につけていったのだが、レオナルド先生は授業が終わるとすぐに帰ってしまうのだ。彼とプライベートに関する話をまだ1度もしたことがない。
そしてある日、レオナルド先生は珍しく授業が終わってから「少し話したいことがある」と私を部屋に残した。フラン兄様は私だけを残して行くのを渋ったけれど、「何かあったらすぐに呼ぶように」と私に言いつけて退出した。

レオナルド先生は私に椅子に腰をかけるように言い、私もそれに従い腰をかける。だが彼は立ったままだ。見下ろされる形になったまましばし静寂が部屋を支配する。その静寂を打ち破ったのは彼からだった。

「シノン君はさぁ…分かっててやってるの?」
「…何をでしょう?」

普段よりワントーンほど低い彼の声に反応が少し遅れる。

「何を…?そりゃ、その髪型だけど?」
「髪型…?」

私の髪型はフラン兄様と初めてあった日からずっと羊をモチーフにした髪型になっている。それがどうかしたのかと首を傾げていると、彼は私の座っている椅子の肘掛にそれぞれ手を置き、私の顔を覗き込む。彼によって椅子に閉じこめられている形になる。

「それ、羊をモチーフにしてるよね?この世界には獣人が存在しているのは分かってるのかな?人という種族のほとんどは、獣人やエルフなど他種族を見下しているか恐怖の対象にしている。決して友好的な態度ではない。それなのにそんな格好をしてどういうつもり?わざわざ自分から嫌われようとしているの?僕はどうやったって嫌われる対象から抜け出せないのに…!!」

彼は一筋の涙を流しつつ、私に激情をぶつけた。はっきり言って私は獣人がいることも人間が他種族と非友好的なことも知らなかった。

「…知りませんでした。人間が他種族に対してそんなに非友好的だなんて…。でも、私は違います。私は全ての種族と仲良くしたいと思っています。」
「嘘だ…!!そんなの嘘なんだろ?!」

私が素直な気持ちを伝えても彼は信じてくれない。それどころか魔力暴走を起こしかけている。私は今までの授業のおかげで身につけた魔力操作で、彼の魔力を彼の中へ押し戻していく。

「いいえ、先生。私寝ることが好きなんですけど、その時『羊が1匹、羊が2匹…』って数えるじゃないですか。だから羊にはすごくお世話になってますし、なによりもふもふしていて可愛いじゃないですか。」
「羊を数える…?可愛い…?」

すると先生は今までの激情が嘘のようにポカンと口を開けてこちらを凝視した。
もしかして、羊を数える文化なんてなかったかもしれないし、小さい子から見ると大きな羊は怖いのかもしれないと思い至り、慌てて訂正しようとしたら、彼が大声でお腹を抱えて笑い始めた。余りの声の大きさに部屋の前を通りかかったであろう使用人が何人か入ってきたが、笑いつつも手で制し退出させる。
しばらくして、息を整え終わったのかこちらへ微笑んできた。

「本当に君は面白いよ、まさか寝る時に羊を数えたり可愛いなんて思ってたりするなんて…プッ!!ククク…!!」

また笑いがこみあげてきたらしく肩を震わせている。まさかこんなに笑われると思ってなかったのではなはだ不本意だが、誤解が解けたみたいでホッとする。
そして話は終わったと思い立ち上がりかけたところで、彼が片手を私の座っている椅子の肘掛に。もう片手をその背もたれにバンッと置いてきた。所謂いわゆる壁ドンならぬ椅子ドンだ。そして私の顔を覗き込んできた。

「僕、君のその瞳もそうだけど、君自身も気に入っちゃったみたい。君の事もっと知りたいな。これからは覚悟してね?」

そう言って私のおでこに軽く触れるだけのキスをして離れて行った。私が再起動するまでに時間がかかったのは察して欲しい。
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