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敵か味方か

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地面を眺めている事しか出来なくて、見つめていたら視界が急に暗くなった。
地面に身体が当たる前に、暗闇に吸い込まれた。

『身投げするなんて、人間にしては度胸があり…愚かだな』

「えっ、だ…誰だ!?」

『何処見てる?ここだよ、ここ』

暗闇の中で、何処からか声が聞こえてきた。
その声は男か女か分からない、二重になって聞こえる。
暗闇の中で、キラキラと光る粒が見えた。

手に触れようと伸ばしてみても、何も触れる事はない。
いったい何処に声の主がいるんだろう、光る粒以外真っ暗で見えない。

もしかして、この粒が喋ってるのか?どうやって…

俺の疑問に応えるように粒の輝きがより強くなった。

いったい此処は何処なんだろう、自分の姿は目に見える。
視界に映る手のひらを動かして、自分がここにいるのを確認する。

「君は、誰?」

『僕はここにいる』

全く答えになっていない事を言われて、答える気がないのだろう。

粒の光はやがて人の形に変わり、今度はその人の形が俺の頬に触れた。
顔はないその姿は恐ろしくもあり、神秘的でもあった。

ジッと見つめていたら、その人の形は一瞬で消えた。
触れた感触はないのに、温もりが残っているみたいだ。

目の前に浮かび上がるそれを見ていたら、粒が小さなカタチとなった。
何の形だろう、数秒でいろいろ変わるから分からない。

その瞬間、暗闇の視界が一気に晴れていく。

草花が揺れ、俺はその真ん中で座っていた。
目の前の光景は、街ではなく見覚えがある森の中だ。

ここは確か、騎士と魔物が戦っていた場所だ。

死体は誰かが運んだのか、綺麗になくなっていた。
それでも戦った跡は消える事なく、そこに刻まれていた。

この場所にはいい思い出が当然ない、ほとんどの場所が殺されそうになった場所だからだ。

そう考えると、クレイドといたあの時間がほんの少しの時間でも安らぎだった。
あの部屋も殺されそうになった部屋に変わってしまったけど。

俺が招いた結果だ、クレイドには悪い事してしまった。

地面に触れると、渇いた土がさらさらと指にくっつく。
軽く払って土を落として、周りを見渡しても特に変わった事はない。

俺はさっきまで真っ暗な空間にいた筈なのに、眠っていたわけではなく座っている。

俺の頭を撫でるように、優しいそよ風が通り抜けていく。

なんでこんなところにいるんだろう、これは夢?

「なにがどうなっているんだ?夢か…」

『助けてあげたのに、夢オチにされるとはねぇ』

その声は、暗闇の中で聞いたあの謎の声だった。

まだ俺は暗闇から戻って来ていないという事なのか?

周りを見渡しても、俺以外人一人としていない。
ここは明るいから、光の粒が見えないだけかもしれない。

いるとしたら、目の前にある切り株に留まっている真っ白な鳥だけだ。

首を傾げていて、可愛らしい普通の小鳥にしか見えない。

まさか鳥が喋るなんてそんな事あるわけない。
でも魔物もいるから、この鳥も魔物かもしれない。

俺にとって魔物は人間を食べる生き物というのが頭に刻み込まれている。
警戒して、魔物から距離を取って木の影に隠れる。
身を守る武器のようなものはないのかと周りを見渡す。

砂しかなくて、投げれば目眩ましにはなるかと手に握る。

ジッと鳥を見てみても、何にも可笑しなところはない鳥だ。
俺を攻撃するような素振りはないし、のんびりしている。

直接喋ったところを見たわけではないから、勘違いだったのかもしれない。
警戒を解くのは早いからそっと近付いて、付かず離れずの距離でしゃがむ。

手を振って「こんにちは」と挨拶しても無反応だ。
俺に興味がないのか、切り株をぐるぐると回っていた。

急に恥ずかしくなって、そんなわけないかと笑って誤魔化した。

俺、疲れてるのかな…ちょっと安全な場所で寝た方がいいかもしれない。

今は誰もいなくても、戦いがあった場所で寝るほど能天気ではない。
とはいえ、ここは魔物の住む場所が近いと思うから離れよう。

立ち上がって鳥に背を向けて、前に一歩踏み出した。

『笑ったり怯えたり、忙しい人間だ』

その言葉が聞こえてきて、慌てて鳥の方に振り返った。

鳥は首を傾げていて、喋ってないよと言いたげだった。
なんだろう、このバカにされているような感覚は…

絶対に喋っているところを見てやると、ジッと見つめる。
鳥も逃げる事なく俺を見つめていて、動かず静かな火花を散らしていた。

最初に口を開いたのは鳥で呆れたように『…何?』と聞こえた。
くちばしをパクパクと動かしていて、やっぱり鳥が喋っていた。

「鳥が人間の言葉を喋ってる!?」

『正確には直接脳内で喋ってるだけだけどね』

鳥はそう言って、羽根を広げて飛び去った。
くちばしを動かしていても、実際は声を出していないみたいだ。

俺の頭の中まで覗かれているみたいでなんか嫌だな。
そのまま俺の頭に留まっていて、頭が爪に当たって痛い。
せめて肩とかにしてほしくて、触れようとしたら飛んで避けられた。

再び鳥が俺の頭の上に乗っかり、何度やっても同じ事の繰り返しだった。

そんなに頭が気に入ったのか、話しにくいけど諦めた。

脳内で喋れるなら、普通の鳥ではないのは分かる。
でも、魔物ならどうして俺を助けてくれたんだろう。
いやありがたいけど、骸骨達に命令されて助けてくれたのかどうかが知りたい。

もしそうなら、俺にとっての味方ではない。
助けてくれても、それは決して善意ではない。
俺を利用するだけして殺そうとしている事は変わらない。

今の俺だって、魔物と同じく利用させてもらった。
一時的に魔物の仲間になっただけだけど、本当に仲間になったわけではない。

全てはクレイドが悪人にならないためのものだ。

よくよく考えたら、これは利用って言えるのかな。
魔物は原因に大きく関わっているから、文句は言えないよな。

「君はいったい何なんだ?」

『僕?僕には名前はないよ、君と一緒に食べられそうになった鳥だよ』

「どういう事?」

『君が大釜で煮込まれそうになった時、僕もいたんだよ』

鳥の話によると、俺がこの世界に来たばかりの頃に大釜の上で吊るされていた。
その時、俺以外に一羽の鳥が同じ状況だった。

俺は自分のピンチで鳥がいた事に気付かなかった。
俺が解放されたのと同時に、鳥も解放されたそうだ。

俺を助けてくれたのは、恩返しだったみたいだ。

でも、俺は何もしていないから恩返しというのも変な話だ。
恩返しなら、鳥を解放してくれた魔物にではないのか?

俺が疑問に思っていると、俺の頭から飛んで切り株に戻った。

「俺は何もしてないよ、感謝されるような事は何も…」

『そう?でも助かったね』

「……それは、そう…だけど」

『じゃあ僕に感謝してるよね』

鳥の言葉に、逆に俺に恩を売ったんだとやっと気付いた。
俺の恩返しという話はいったいなんだったんだ。

鳥は表情が当然変わっていないのに、笑っているように感じた。
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