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魔導騎士

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・視点なし・

「人間に味方をした裏切り者め!我々が必ず貴様らを…ぐあっ!」

襲いかかってきた魔物を数匹倒しながら前に進む。
騎士達は手分けして周辺を探って目的のものを探す。

足を踏んだところの地面が抜けて、底にあったのは鋭い刃がギラついていた。
普通にしていたら、そのまま身体が串刺しになって死ぬだろう。

刃が身体に触れる前に手のひらに風を送り込んで、身体が浮いた。
針の山の地面から抜けて、先に進むとスイッチのようなものを踏んだ。
今度は網が上に上がり、身体が複雑に絡み合った。

手にしていた大剣を振り下ろして、網から脱出した。

他の騎士は引っ掛かっても、仲間に助けられて無事だった。

こんな危険な魔物がいる中で、罠を仕掛ける人間は想像出来ない。
考える者が居ても、仕掛けている最中で魔物に殺される。

そうなると、人間を捕らえるために魔物が仕掛けたのだろう。
こんなところに来る人間はろくな人間ではないのは分かっている。
それでも、魔物に襲われた人間を助けるのは魔導騎士の役目だ。

危険を減らすために、なるべく罠に引っ掛かった方がいい。

先に進む度にどんどん罠の量が増えてきて、この先になにかがあるのは明らかだ。

魔物が守る門だから、その先に魔物の巣があると思っていた。

突然罠がなくなり、この辺になにかがあると手分けして探した。

結果は何もないと騎士達の報告を受けるばかりだ。

今回は騎士団長の読みは外れていたと騎士達は落胆した。
読みが全て当たっているわけではなく、外れる事が多いのは確かだ。

仮面で顔を覆っている騎士、クレイドには分かっていた。
なにかを守るような罠があっても、フェイクだった時もある。
ここに来るまで、魔物の気配はあったが強くはならなかった。

気配はにおいと同じだ、近付くと気配が強くないと可笑しい。
しかし、ずっと同じ気配という事は目の前に魔物がいないといけない。

こちらを見る目線もなければ、自分達騎士以外の物音もしない。

考えられるのは、魔物の気配が染み付いたなにかを道にばらまいて誘き寄せたのだろう。

それでも、騎士団長が行けと言われたら行くしかない。
誰がどう見ても黒でも、騎士団長が白と言えばそれは白になる。

それが騎士団の上下関係というものだ、クレイドも別に不満はない。
過去の事から面倒事を避けていて、不満なんて言ったらどうなるか分かりきっている。
他の騎士に紛れ込んで、ただ従う方が楽でいられる。

他の事をしていたら、気を紛らわせる事が出来る。
ただ、叶わぬ願いを一時的でも忘れさせてくれる事に執着しているだけだ。

想えば想うほどに、胸を刺されたかのように痛みが襲う。
完全には忘れたくない、この痛みは悲しくも愛おしいものだ。

それでもずっと想っていると、会いたくてもう一度死にたくなる。
会えるまで何度も何度も転生して、会いに行きたくなる。

それを止めるために、他の事をする事はクレイドにとって大切な事だ。

無駄足だとは思わず、罠を処分出来たからよしとしよう。

ここにないなら、長居は無用だ…他の門を探すために離れた。

魔物と戦った場所に戻ると、足を掴んでクレイドを引き止める者がいた。

図体がでかく魔力よりも腕力に自信があるであろうオークという魔物だ。
確かに強かったがクレイドの魔導武器は大剣だ、力と魔力の差ではクレイドに勝てない。

ずっと生きていたのか、戻って来るのを待っていたようだ。

さすがに身体が硬いせいか、一撃では倒せなかった。
クレイドには、苦しまずに一撃で殺す事しか出来ない。
魔物を痛め付ける趣味などない、楽にする事を考えている。

今まで苦しみながら待っていたのだろう、申し訳ない事をした。

剣を握ると、オークは最後の声を振り絞り「ザット、お前の力を必ず我々が…手に…」とだけ言って力尽きた。
クレイドは何も言う事なく、そのまま剣を鞘に戻して歩き出した。

周りの騎士達から「団長」や「ザット様」と聞こえた。
クレイドはそれに答えず、歩きを止める事はなかった。

顔を隠しているのも、声を出さないのもクレイドだとバレないようにだ。
今までもそうしてきた、ザットの嘘にクレイドは協力している。
好きでやっているわけではない、クレイドの秘密を知っているから脅しのようにそれを使い英雄となった。

元々一種類しか魔力がないザットは、魔王を倒せる力があるわけがなくクレイドのおかげで英雄となった。
欲深いザットは、魔王を倒しただけでは満足出来ずにもっと欲した。
魔物を壊滅させたら、ザットの力に疑問を抱く少数派も黙らせる事が出来る。

秘密なんて無視をすればいいのかもしれないが、過去の事から目立つ事が嫌なクレイドはどうしても秘密にしておきたかった。
ザットはやましい事を隠すためだと思っているみたいだが、実際はそうではない。

魔物を壊滅させたらザットに付き合わなくていいから、それまでの付き合いだ。

魔力を持って生まれたばかりに騎士団に入れられて、副団長にまでなってしまった。
もうこれ以上目立ちたくない、目立っていい事なんて今までなかった。

もう二度と恋をする事はないだろうが、目立たない方がいい。

指先に感じるぴりつく空気に足を止めて振り返る。
見た目では何もない、けど明らかにこちらを見ている目がある。

さっきまではいなかったのに、長居しすぎたのか集まってきた。
明らかな殺意、いつでも襲いかかりそうな雰囲気だ。

この殺気に気付いているのは、クレイドだけだった。
他の騎士達は魔物がいないと思い込み、完全に油断している。

後ろから騎士の一人が声を掛けてきて、小さく息を吐いた。

「ザット様、これから飲みに行きませんか?」

「……」

「バカ、ザット様がお前なんかと飲みに行くわけないだろ!」

くだらない会話が続いていて、それを無視して歩き出した。
そんなに行きたいなら改めて誘えばいい、クレイドはたとえ自分が誘われても興味がなくて行かない。

目の前で視線の正体が燃えて塵になるのを振り返る事はなかった。
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