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クッキングタイム

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食堂に行く前に、お風呂に入って行こうと向かった。
心身共にさっぱり流してから料理がしたいからな。

今日は料理を作るから、ゆっくり入る時間がなくてすぐに出た。

厨房を借りて、カウンター席にクレイドがスタンバイして教えてもらう事になった。

周りを見ても、全く知らない調味料が並べられていた。
カラフルすぎて、覚えるのは楽そうだ。

料理そのものはカラフルじゃなかったのに不思議だな。

クレイドは疲労していたから、スタミナ料理がいいよな。
スタミナといえばやっぱり肉かな。
野菜とのバランスを考えて、頭の中でレシピを描く。

大きな冷蔵庫を開けて中を覗くと、明日の食材なのかぎっしりと詰まっていた。

「どれ使っていいんだ?」

「どれでも、許可はもらってるから」

「クレイドって信頼されてるんだな、騎士だから当然なのか?」

「……他人の作る食事は食べないだけだ」

王族も食べる高級食材を自由に使って良いなんて、普通の人はまず口に出来ない。

風呂も書庫も時間関係なく使えるから、てっきりそうなのかと思っていた。
騎士は一番信頼されていると思ったが、クレイドは首を横に振った。

「俺が信頼されているんじゃなくて、騎士団長が信頼されてるだけだろ」とどうでも良さそうに言っていた。
騎士団長が信頼されているからクレイドも信頼されているという事なんだろう。

うーん、そうなのかな…騎士団事情は知らないから何とも言えないけど、クレイドも信頼されてないと城に住めないだろ…いくらザット団長が居ても…

真実は俺には分からないから、適当な事は言えない。

クレイドは見たかぎり自分や他人に関心なさすぎる。
楠木の時は誰に対しても話を聞いたり、信頼されて人気者だった。

周りからはそう見えただけで、楠木はどう思っていたんだろう。

クレイドの分厚い壁の向こう側に触れられるのは、いったい誰なんだろう。

後ろを振り返ると、クレイドと目が合って微笑まれた。
顔が赤くなる気がして、すぐに背中を向けて料理を始めた。

「何を作るんだ?」

「クレイドが元気になる肉料理かな」

「……俺?」

「いつもお疲れ様って伝えたいから」

仕事仲間とか守るべき人達にはさすがに関心があるとは思う。
でも、仕事帰りに部屋に来ているならプライベートの関心はない。

クレイドが自分に関心ないなら、俺がずっと気にかけるよ。
体調管理くらいなら、俺にだってこうして料理作ったり出来る。

いつかクレイドが気にかけて欲しい相手が見つかるまで。

驚いた顔のクレイドに背を向けて、美味しい肉を聞いた。
料理初心者には、四角い肉が切りやすいし焦げにくい事を教えてもらい取り出す。

調味料は色で覚えて、肉に味つける。

野菜も一緒に焼いた方が時短になるよな。
全て見た事がない野菜で、よく分からない。

クレイドに助けを求めるように振り返ると、野菜炒めに使う野菜を教えてくれた。

なるほど、この真っ赤なほうれん草みたいなのと黄色いキャベツみたいなのが炒めるのに良いんだな。
次からは、自分で作れるように材料をいくつか取り出した。

野菜を切っている時、それは起こった。

「いっつ…」

野菜が固くて、指先を少し切ってしまった。
血が滲んで、水道で指先を洗っていた。
野菜に血は付いてないけど、念のため洗っておこう。

切っていた黄色いキャベツを掴んでいたら、クレイドが目の前にいた。
無音で来るから、まるでホラーのようで今にも叫び出しそうな声を我慢した。

指示を出すだけでいいよと言うが、険しい顔はそのままだった。
俺の手を掴んで、傷口をジッと見つめていた。

もしかして、治療しようとしてる?

心配してくれるのは嬉しいけど、そこまで心配するほど傷は深くはない。
このくらいすぐに治る傷だから大した傷じゃない。
クレイドの力がもったいないと、腕を引こうとしたがびくともしなかった。

「クレイド、大丈夫だから…治療はいらないよ」

「……」

俺の言葉を無視して、傷が付いた指先をチュッと軽く吸った。
温かな舌に撫でられて、傷口が熱くなる。

クレイドの瞳はずっと俺を見ている、恥ずかしく顔を赤らめている俺を…
目を逸らすと、それを許さないと言いたげにさっきよりも強く吸われた。
腰を引き寄せられて、距離がさっきよりも縮まる。

クレイドの息遣いが直接感じて、視線を掴まれた指先に向けた。
綺麗な指に一筋の線が見えて、手を掴んだ。

一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに俺から離れた。

「いきなりごめん、でもクレイドも傷が…」

「これは古傷だから気にしなくていい、それより気をつけて」

「う、うん…ありがとう」

クレイドはそう言って、カウンター席に戻っていった。
古傷って言ってたけど、血が滲んでるように見えた。

舐めて治された傷口をジッと見つめる。

偶然なのか?俺と同じ指先に傷があった事が。
今まであっただろうか、偶然今日見ただけ?

クレイドの指示で料理をしている時もずっとそれが引っかかっていた。

初めての料理にしては、よく出来たと自分でも思う。
やっぱりクレイドの教え方が上手かったからな。

食堂に運び、テーブルに肉の野菜炒めを盛り付けた皿を並べた。

「正直に言ってくれ、次の料理に役立つから」

クレイドは不味いと直接言わなさそうだから、俺からお願いした。
教えた通りやったが、間違っている場合もあるからどうなってるのか分からない。

自分で食べる前に、クレイドの感想が気になって手を止めて見つめる。
フォークで刺して、一口口に運ぶ。

少しの沈黙も俺にとって心臓が破裂しそうだった。

クレイドの口から出たのは「贔屓なしで美味しいよ」と言っていた。

その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろしてようやく俺も食事を取る事にした。
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