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妄想の人

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・クレイド視点・

城に戻って早々に、面倒事に巻き込まれた。

また騎士の一人が魔物へと変わったのか。

俺達騎士も生まれは違うとしても魔物とは紙一重の存在。
どう足掻いても人間には決して近付く事は出来ない。

直接魔力を使うと、身体への負担がとても大きい。
一瞬だけならそこまで負担にはならないが、使いすぎると命を蝕む毒になる。

だから魔力を使いすぎないように、魔導武器という魔導士専用の武器を使い魔物と戦う。
それでも、武器は絶対に安全というわけではない。

正しく魔力をコントロールしないと、力が暴走して理性のない獣と化す。
仲間や恋人、家族の事すら分からなくなり牙を向ける。

人間には命を奪うように殺し、同じ魔導士には違う。
魔導士の身体の中にある魔力を奪おうとして、食べる。
人の命を弄ぶように喰らう姿は、魔物そのものだ。

そうなったら元に戻す事は難しく、この手で息の根を止めるしかない。
どんなに親しい人物でもやらなくてはいけない。

それが、仲間に対しての敬意だ。

初めて見た時は、確かに抵抗があった…魔物ならまだしも同じ人の姿をした者を殺すんだ。
人の生死に抵抗がないほど、俺の心はまだ死んではいない。

今でも、嫌な感触が手のひらに染み込んで離れない。

何人もこの手で染めてきた、もう俺には戸惑いなどない。

ザット団長を探しに行くと言って、騎士は慌ただしく走っていった。
こんな時は探しても無駄だ、何処かに隠れているんだろう。
今が初めてではない、こういう時は決まっていない。

その行動は、俺に身代わりになれと言っている気がした。

俺が仮面を付けてうろついて、ザット団長と鉢合わせしたら全てが台無しになる。
似せているのは髪だけだから、バレたら二度とザット団長に変装出来る。

そうなって困るのは俺ではなくザット団長だけだ。
だから何時間も隠れるのは全く苦ではないのだろう。

そもそもザット団長が俺に身代わりになるように言ったんだから、自分で出来る事はやってもらわないと困る。

ザット団長のフリでもするか、人がいないところでは変装は無意味のように見えていつ誰が来るか分からない。
いろんな可能性を考えて、最初から変装すれば見られる心配はなくなる。

俺自身、手柄なんてどうでもいいから誰かに渡しても構わない。

俺はただ、この手を染める汚れ仕事をするだけだ。

こうしたいやあーしたいという欲は自分でも驚くほど何一つない。
俺がほしい欲は、どうやっても手に入る事はない…無駄なものだ。

人が多すぎて、変装出来る場所が城にある自室か地下牢しかない。
自室で変装して出てきたら、違和感で気付かれるかもしれない。

ずっと探していたザット団長が俺の部屋から出てきたら可笑しい。
普段出入りなんて全くしないのに、こんな時にだけ出入りしていたら怪しまれる。
俺とザット団長が話すのは部屋ではない、一応俺の部屋だから他人を入れたくなくて、それはザット団長も同じだ。

残るは地下牢だけとなり、俺が入ってザット団長が出てきても違和感はない。
先にザット団長が入っていたと言い訳はいくらでも出来る。

まだ地下牢には誰もいない筈だ、早く済ませよう。

そう思って地下牢に行き、今俺の目の前には魔物となったかつての仲間がいた。
人ではない雄叫びを上げて、地下牢に響き渡った。

誰にも見つからないように地下牢で変装しようと思っていた。

服は上着を脱げば誤魔化せるし、仮面は常に持ち歩いている。
髪は魔力で染めたら、だいたいはザット団長だと思われる。

いつも通りそうすればいい。

そう思いながら、こっそりと影から様子を伺っていた。
変装を忘れるほど、頭が真っ白になっていく。
たまにボーッとする事はあるが、こんな事初めてだった。

気付いたら、その姿のまま魔物の前に立っていた。
考えて行動していないから、気付いたら全て終わっていた。

血に染まった魔物を見つめていると、後ろから何人か騎士達が地下に入ってきた。

「クレイド様!大丈夫でしたか!?」

「このくらい平気だ」

「あっ、あの魔物!逃げ出しやがって」

騎士の一人が壊れた鉄格子を見ながらイラついていた。
魔物?この場に他に魔物がいたのか?

俺が来た時には二人しかいなかった。

魔物となった騎士と後は……

魔物化した騎士に手をかざすと、全身が燃えて灰となった。
魔物の死体は人間にとって毒ガスに変わる、処理をしておかないと血肉が腐りガスが濃くなる。

騎士達の横を通り過ぎて、地下から離れた。

まだザット団長を探している騎士達の横を歩きながら王族か避難している部屋に向かう。
報告をするためだが、歩いている最中に別の事を考えていた。

やっぱり、俺の見間違いだったのか。

まさかここに疾風がいるなんて、俺の都合のいい妄想だよな。
魔物だって言ってたし、魔物と疾風を間違えるなんて…

俺が「相田」と言っても反応しなかったのが、何よりの証拠だ。
自分の名前を言われたら、反応するのが普通だ。

でも、脳内の妄想だったとしても疾風の顔が頭から離れない。

もう一度顔を確認したい、それでハッキリする。

脱獄したんだ、そう長くはこの街にはいない筈だ。

人間に化けれる魔物だったな、知らない人に化ける事はさすがに無理だ。
もし疾風でなくても、その魔物が疾風に会った事があるという事だ。

死ぬ前に、疾風の事を全て話してもらう。
疾風になにかしたら、絶対に許さない。
一撃で殺さないかもな、時間を掛けてゆっくりと…

部屋に到着すると、何処からかザット団長がやってきた。

身だしなみを整えて、俺より先に部屋に入っていった。

そんなに手柄に執着するのか、俺には分からない。
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