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迷路①

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 旅をはじめて三日目、ルヴァンとイーライは平常運転に切りかわり、ノーランやラッシャーと足なみをそろえてのんびり歩いていた。
 建物が消え、目の前には森が広がっていた。

「落ちつかねえな」

森に入ってしばらくして、ノーランがぼそっと言った。 森の中は木々に空からの光がさえぎられているため、今までいた場所よりもうす暗かった。
森の中は影が多いのでときどき、偽物の影を見失い そうになる。
 やがて、前方に小道があらわれた。小道は地面を掘って作ったようなもので、くだり坂になっていた。坂を下ればれば下るほど、下に進むので両脇の土の壁が高くなる。
 偽物の影はそこへ案内して行った。

「おい、こんなところに行って大丈夫なのか?」

ノーランがたんたん高くなっていく両脇の壁をなが めた。

「大丈夫だよ。多分」

「多分、て……大体お前、〈知られざる手〉を探してるんだろ? なんでそんな偽物の影なんかについて行ってるんだ?」 

とノーラン。

「だって、〈知られざる手〉を探がすって言ったって、どこを探がしたらいいか分かってるわけじゃないし。だったら この影についていけば、何が見つかるかもしれないと思わない?」

ルヴァンが目を光輝かせながら後ろを歩いているノーランを振り返った。

「さぁな」

やがて道が分かれた。影はそのうちの一つを選んで進 んで行った。進めばすすむほど、分かれ道が増えてきた。

「おいおい、大丈夫かよ。出ようたって壁が高すぎてこの通路から出られないんだ。それなのに分かれ道がどんどん増えてきてもうどこを曲がったかも分からないときた。出られなくなったらどうするんだ」

ノーランが不機嫌に言った。

「手遅れにならないうちに引き返した方がいい」

 とラッシャーがつけ加える。
 
「大丈夫だよ。僕は偽物の影を信じる よ」

ルヴァンが立ち止まってノーランとラッシャーに向き直った。

 「名前からして信じられそうにないな」

とノーラン。

 「オレが名付けてやったんだぞ、信られないわけがない」 

イーライが空に向かって 叫んだ。

「それにもう手遅れだよ。どこを曲がったかも覚えてないんだから」

とルヴァン。

「そうだ。もう手遅れだよな。ところで偽物の影はどこに行きやがったんだ?」

イーライの言葉に、その他三頭ははっとして前方に視線を戻した。 偽物の影は消えていた。
言わんこっちゃねえという顔をしてノーランがルヴァンを見る。

「どこに行ったんだろう。探そう」

ショックから立ち直るとルヴァンが言った。

「〈知られざる手〉探しの旅ではなく、信用できない偽物の影探しの旅に改名した方が良さそうだな」

ノーランが皮肉る。

「影が進んだあとが残るわけないか」

ラッシャーが地面のにおいをかぐ。 ついに彼らは新たな分岐点にさしかかり、選択を迫まられていた。
分かれ道は二つあった。

 「おーい偽物!どこへ行った?」

イーライが大声で吠えた。 迷路の中にイーライの声が反響する そのとたん、ルヴァンが大きな耳をぴくりと動かした。

「どっちに行ったらいいか分かるかもしれない」

 ルヴァンは分かれ道の片方の前に立った。

「向こうに向かって吠えてみて」

イーライは何が何だか分からないまま、ルヴァンの横に立った。

「おーい!!」

イーライの声が通路の向こうまで響いた。

「こっちも」

ルヴァンがもう一方の通路を示した。 言われるがまま、イーライが移動する

「偽物!!」

今回も通路にイーライの声が響いた。
ルヴァンはその響き方の微妙な変化を聞きとった。

「こっちにしょう」

ルヴァンはイーライが偽物と叫んだ方の通路を選ん だ。

「なんでこっちなんだ?」

イーライが不思議そうに首をかしげる。

「響き方が違ったんだ。行き止まりの方はちょっとくぐもってたけど、こっちはそうじゃなかった」


「ははん。なるほどな。理にかなってる」 

イーライがうんうんうなずく。

「お前、ルヴァンが言ってることの原理が本当に分かってんのか?」 

ノーランが横からイーライの顔をのぞきこんだ

「オレ様の声が正解を探がしあてたってことだろ」 

「...…まあ確かにそんなところだな」
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