上 下
15 / 47
日常

記憶

しおりを挟む
「そろそろ本格的に心美の記憶を戻そうと思う」
「わー」
「パチパチー」

 委員長に心美の存在を知られた次の日の放課後。俺の部屋には将と委員長、お昼寝中の心美、俺を含めた四人がいた。

「はいっ」
「どうぞ、将」
「どうやって失った記憶を取り戻すのでしょうか」
「うむ…これから考える。次!」
「はいっ」
「どうぞ、委員長」
「記憶を戻す事はそんなに重要な事なのでしょうか」
「?…いや、だって、可哀想だろ。ずっと何も覚えてないまま…家族の事とか、友達の事とか忘れっぱなしなんて」
「そうかな…元の記憶が良い物だったのかは分からないし、もしかしたら凄いトラウマのせいで記憶を失った…としたら?」
「う~ん…」

 確かに、もし委員長の言う通り何かしらの強いショックで記憶を失ったのだとしたら、それを思い出した時に心美はどうなるだろう。

「しかし、このままずっと俺が預かるのもな…」
「わ、私はずっと心美ちゃんがここにいるならそれでも良ー」
「発情委員長は黙っててくださーい」

 俺の言葉に委員長はショボンと俯いてしまった。いつも真面目で冷静沈着な学級委員長が、どうして幼女を前にするとこうなってしまうのだろう。

ドンッッッ

「うわっ!?なんだ今の音!?アパート揺れたし!」
「あぁ、心美の寝返りだよ。よくあるよくある」
「幼女の寝返りで地震!?」

 皆で心美の方を見る。心美が寝返って拳が当たったであろう場所の畳が少し凹んでいた。

「え、凹んでね?寝返りだよな?」
「よくあるよくある」
「パワー系ロリ…悪くないっ」

 気を取り直して会議続行。

「そういえば心美ちゃんの捜索願いとか出てないの?小さな女の子が行方不明とか、ニュースになってもおかしくないのに」
「それが全くそれらしい物が無いんだよ」

 俺はスマホのニュースアプリを開く。そこに掲載されているトップ記事一覧の内容を適当に読み上げる。

「明日の天気…○○県銀行強盗…有名人の薬物乱用…数人のバラバラ遺体の発見…とまぁ、こんな感じで"誘拐"とか"行方不明"って記事は無いんだ」
「手がかり無しか…」
「名前で検索してみたら?」
「あぁ、色々出てきたよ。と言っても名前しか分からないからな。検索に引っかかったのは別人ばっかりだった」

 どん詰まり。最終手段は警察に引き渡して調べてもらうのが手っ取り早いが、そうすれば今の生活は幕を閉じ、俺は誘拐やら監禁の容疑をかけられるだろう。それだけはごめんだ。

「どうしようもない事考えてても疲れるだけよね。ちょっと息抜きしましょうか。ちょうど良い物持ってるのよね私」

 そう言って委員長はカバンの中を漁り始めた。また心美を着せ替え人形にして遊ぶつもりなのかと思ったが、委員長が出したのは細長い紙きれ。

「じゃーん!某有名な遊園地のチケット!この前うちの親が福引で当てたのよ!」
「この歳になって遊園地か~」
「何よ!この歳って、私達なんてまだまだお子様じゃない。ね、佐神くんは行きたいわよね?」
「んー…心美も喜びそうだし、良いかもな」
「でしょー?」
「遊園地かー、なんか餓鬼のイメージ強いんだよなー」
「不満なら別に笹橋くんは来なくても良いわよ?チケット三枚しか無いからね~」
「おいおい行かないとは言ってないだろ?俺だけ仲間外れはよしてくれよー」
『あははははははは』
『はは…は…』

 …。

《三枚しか無い…!?》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

今日から、契約家族はじめます

浅名ゆうな
キャラ文芸
旧題:あの、連れ子4人って聞いてませんでしたけど。 大好きだった母が死に、天涯孤独になった有賀ひなこ。 悲しみに暮れていた時出会ったイケメン社長に口説かれ、なぜか契約結婚することに! しかも男には子供が四人いた。 長男はひなこと同じ学校に通い、学校一のイケメンと騒がれる楓。長女は宝塚ばりに正統派王子様な譲葉など、ひとくせある者ばかり。 ひなこの新婚(?)生活は一体どうなる!?

処理中です...