転生少女は過去の英雄に恋をする

大天使ミコエル

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233 帰ろう(3)

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 森を抜け、学園が見えて来た。
 学園は、確かにへしゃげていた。
 斜めになってぐらついた木に、メンテが出したらしい蔓が、木を支えるようにぐるぐると巻きついていた。
 大切な学園が歪んでいることにシエロ、ヴァル、エマの3人が辛い表情を見せると、学園長が「ふぉっふぉ」と笑った。
「これ……大丈夫なんですか?」
 エマが学園長に困った顔を向けた。
「そうじゃなぁ」
 学園長がゆっくりと言葉を発する。
「大丈夫じゃ。これでも、生きている木じゃからの」

 確かに、学園は生きている。

「自分で……直せるんですか」
「手伝った方が早いがのぅ」
 そう言いながら、学園長は学園を見上げた。

 大きな木だ。

 どうやら、時間はかかるけれど、木は自分で修繕できるらしかった。
 ただし、窓枠一つに20日程の時間がかかる。
 木を準備するなど、手伝う事も可能だという話だ。
 
 暫くは、へしゃげた学園にメンテの蔦で覆いをしてなんとか過ごすしかないようだった。

 門の前で馬車を降りると、ぐっ……、と学園の門が開いた。

「エマ!!」

「チュチュ!!」

 二人、駆け寄って、抱きつく。
 チュチュが走って来た勢いで、二人して草の上に転げた。
「エマぁ~~~~~」
 半分、泣きそうな声だ。
「ただいま」
「おかえりぃ~~~~~~」
「チュチュ。大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。エマも……無事でよかった」
 二人、顔を見合わせ、自然と笑みをこぼして、そしてまた抱きしめ合う。
 そこへ、双子が、まるで子供の頃みたいに、二人へダイブして行った。
「みんな無事でよかった」
 メンテが、静かだけれど、泣きそうな声を出すと、リナリも嬉しそうな声で、
「会いたかった~~~~」
 と、抱きついて来る。

 シエロが明るい声で、
「僕もいるよ~」
 と声をかけると、チュチュと双子の三人は、シエロに向かってダイブしていった。
 笑い声が、こだまする。

 まだ転がったままのエマを、ヴァルが助け起こした。
「…………」
 チュチュがそれを、ぱちくりとした目で見る。
 双子も、それにつられて目をやると、やはりぱちぱちと瞬きをした。
「何あのヴァルの顔……あの二人怪し……」

 それから全員で、大広間に円になって座った。
 目の前に広げられたのは、キリアン達が買ってきた食事だ。さっき食堂で買っていた串焼きも並んでいる。
 その円の中心には、まるで鳥籠のように、学園長が作った翼竜の籠がぶら下がっている。監視がてら、誰からも見える場所に置いたらこうなった。

 学園に残っていた三人は、その鳥籠の中をまじまじと見た。
「これが……、翼竜……」
 メンテが呟く。
「全く見ることが出来なかったあの竜のような何かが、こんな鳥もどきだったなんて……」
 メンテは言いながら、翼竜の翼やくちばしなどを観察していく。
 三人の中でも特にチュチュは、間近で翼竜を見ているせいで、目の前の生物があれと同じものだとは信じられずにいた。

 エマも、じっと翼竜を眺める。
 前世にいた世界で聞いた、火の鳥みたいだと思う。
 死んだ後、また復活するなんて。

 それぞれが、平和の訪れを祝い、騒ぎながら食事をした。
 キリアンが、じっと翼竜を睨みつけ、串焼きに齧り付いた。

「んぴゅい」
 ヴァルがリンゴに齧り付いた時、翼竜が声を上げた。
「…………」
 ヴァルが、何も考えていないような顔で、翼竜の方を見た。
「……果物、好きなのかな」
 エマが、じっと翼竜の様子を眺めた。
「ああ。たぶんな」
 誰もがそうなんじゃないかと思えるほど、翼竜はリンゴを見ながらくちばしをパクパクさせている。

 よく見れば、鳥ではない。
 好物から見ても、やっぱり、あれは翼竜で間違いないようだ。

「ここから、馬で半日ほどの所に、石造りの小屋を建てるつもりじゃ」
 馬で半日。
 大きくなってしまえば、気休めにしかならないだろう。

 誰かがふっとため息を吐くのが聞こえた。



◇◇◇◇◇




誰かがとか言ってますが、ため息を吐いたのはシエロくんです。
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