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141 大魔術師の落とし物(1)
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学園長は、それからしばらく学園に居た。
学園長がいることで、日々の夕食は、食堂ではなく、大広間での食事となった。
朝食と昼食は、みんなと同じものを、部屋へ運ぶことになっていた。
「今日の朝食、持っていこうか?」
学園長の部屋へ食事を持っていくのは、ヴァルの仕事だ。
ヴァルが朝弱いにも関わらず、毎朝、学園長のために、パンを焼いたりサラダを用意したりするのは、なんだか不思議な光景だった。
……自分は、朝食はりんご1個だったりするのに。
だから、その言葉は、気遣いだったし、厚意だった。そのほとんどは。
残りの少しは、学園長と話すチャンスが欲しいと思っていることだ。
エマの心には、一つだけ、気になることがあった。
ヴァルを転生させたのは、学園長だという話だ。
だからもしかしたら、エマを転生させたのは学園長なんじゃないかと思っていたし、そうでなくても、転生について何か知ることができるかもしれないと思っていた。
けれど、こっそりと学園長に近付くチャンスがない。
今まで、気にもならなかった。学園長とゆっくり話すことができないことに。
けれど。
「ありがとう。大丈夫だよ。これは俺の仕事だから」
その言葉。
もしかしたら、師弟関係で守らないといけないものなのかもしれない。
けど、食事を持っていくだけで、ここまで守らないといけないものなのだろうか。
なんだか、学園長に避けられているような気がしてしまうのだ。
エマを?それとも、ヴァル以外の全員を?
それは、わからない。
けど。
なんだか、不自然さを感じてしまっていた。
そんなある日のことだった。
その日は、偶然、昼食のお弁当と一緒に、食堂のおかみさんがちょっとしたプチケーキを届けてくれていた。
そのため、お茶の時間には、全員が食堂に集まっていた。
学園長を含む全員が。
学園長は、お誕生日席に座るため、エマの隣にはシエロが居た。
少し手狭な感じはしたけれど、それほど困ることはなかった。
もともと、食堂の部屋自体は大きいのだ。
メンテが、いつも通り紅茶を入れてくれた。
プチケーキは20個あり、数も申し分なかった。
余ったケーキは、ヴァルの口の中へ消えていった。
「美味しかったね」
「私またお礼のお手紙書こうかな」
「おや、エマはお礼の手紙を書くのかい?」
そうエマに尋ねたのは、他でもない、学園長だった。
「はい。嬉しかった気持ちは、出来るだけ相手に伝えないとって思ってて」
学園長は、これ以上ないほど、優しい笑顔を見せた。
「いい心がけじゃのぅ」
エマも、それに応じるように笑顔を見せた。
食堂には、たまたま全員がいて、全員がお茶の後片付けを始めていた。
今、いいチャンスかも。
エマは、学園長の側に寄って行った。
「学園長、ちょっといいですか」
話がしたいと、一言言うつもりだった。
ただ、それだけ。
学園長はすでに立ち上がり、扉の方へ行こうとしていた。
エマが声をかけたので、ふいっと後ろを振り返った。
その瞬間。
カシャン、と音がした。
学園長の服から、何かが落ちた音だった。
全員が、そちらの方に目をやった。
シエロ、ヴァル、チュチュ、メンテ、リナリ。そして、エマ。その全員が。
そして、エマ以外の全員が、ピッタリと固まるようにそれを凝視した。
エマが、それに駆け寄る。
「学園長、落としましたよ。壊れてないと……」
そこまで言って、エマは、それに触れる手前で、ピッタリと止まった。
エマは、そこでやっと、自分がやらかしたことに気がついた。
◇◇◇◇◇
今回からの展開で、この物語の設定は出し尽くすことになると思います。
こんな話だったのか~って思っちゃってください!
エマちゃんが知ってしまった事実とは。
学園長がいることで、日々の夕食は、食堂ではなく、大広間での食事となった。
朝食と昼食は、みんなと同じものを、部屋へ運ぶことになっていた。
「今日の朝食、持っていこうか?」
学園長の部屋へ食事を持っていくのは、ヴァルの仕事だ。
ヴァルが朝弱いにも関わらず、毎朝、学園長のために、パンを焼いたりサラダを用意したりするのは、なんだか不思議な光景だった。
……自分は、朝食はりんご1個だったりするのに。
だから、その言葉は、気遣いだったし、厚意だった。そのほとんどは。
残りの少しは、学園長と話すチャンスが欲しいと思っていることだ。
エマの心には、一つだけ、気になることがあった。
ヴァルを転生させたのは、学園長だという話だ。
だからもしかしたら、エマを転生させたのは学園長なんじゃないかと思っていたし、そうでなくても、転生について何か知ることができるかもしれないと思っていた。
けれど、こっそりと学園長に近付くチャンスがない。
今まで、気にもならなかった。学園長とゆっくり話すことができないことに。
けれど。
「ありがとう。大丈夫だよ。これは俺の仕事だから」
その言葉。
もしかしたら、師弟関係で守らないといけないものなのかもしれない。
けど、食事を持っていくだけで、ここまで守らないといけないものなのだろうか。
なんだか、学園長に避けられているような気がしてしまうのだ。
エマを?それとも、ヴァル以外の全員を?
それは、わからない。
けど。
なんだか、不自然さを感じてしまっていた。
そんなある日のことだった。
その日は、偶然、昼食のお弁当と一緒に、食堂のおかみさんがちょっとしたプチケーキを届けてくれていた。
そのため、お茶の時間には、全員が食堂に集まっていた。
学園長を含む全員が。
学園長は、お誕生日席に座るため、エマの隣にはシエロが居た。
少し手狭な感じはしたけれど、それほど困ることはなかった。
もともと、食堂の部屋自体は大きいのだ。
メンテが、いつも通り紅茶を入れてくれた。
プチケーキは20個あり、数も申し分なかった。
余ったケーキは、ヴァルの口の中へ消えていった。
「美味しかったね」
「私またお礼のお手紙書こうかな」
「おや、エマはお礼の手紙を書くのかい?」
そうエマに尋ねたのは、他でもない、学園長だった。
「はい。嬉しかった気持ちは、出来るだけ相手に伝えないとって思ってて」
学園長は、これ以上ないほど、優しい笑顔を見せた。
「いい心がけじゃのぅ」
エマも、それに応じるように笑顔を見せた。
食堂には、たまたま全員がいて、全員がお茶の後片付けを始めていた。
今、いいチャンスかも。
エマは、学園長の側に寄って行った。
「学園長、ちょっといいですか」
話がしたいと、一言言うつもりだった。
ただ、それだけ。
学園長はすでに立ち上がり、扉の方へ行こうとしていた。
エマが声をかけたので、ふいっと後ろを振り返った。
その瞬間。
カシャン、と音がした。
学園長の服から、何かが落ちた音だった。
全員が、そちらの方に目をやった。
シエロ、ヴァル、チュチュ、メンテ、リナリ。そして、エマ。その全員が。
そして、エマ以外の全員が、ピッタリと固まるようにそれを凝視した。
エマが、それに駆け寄る。
「学園長、落としましたよ。壊れてないと……」
そこまで言って、エマは、それに触れる手前で、ピッタリと止まった。
エマは、そこでやっと、自分がやらかしたことに気がついた。
◇◇◇◇◇
今回からの展開で、この物語の設定は出し尽くすことになると思います。
こんな話だったのか~って思っちゃってください!
エマちゃんが知ってしまった事実とは。
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