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「んー…僕だったら、一度会うかなぁ。今更何の用なのって聞きたいしなんなら文句の一つや二つも言ってやりたいよ。αの執着ってすごいって聞くから会ってきっぱり断ってやったほうが、まだ諦めてくれる気もするし。」
なかなか結論が出ず、悩んでいることを僕や彼のことがわからないように少しぼかしながらコミュニケーションセラピーの時に伝えると春人くんはそう言って会うことを勧めた。
「僕は…もし会ってしまったら、また囚われてしまいそうで怖くなるかもしれないです。顔も覚えていないのに、いつも何処かにいないか探してしまってる自分が居るんです。会ってしまったら、今以上にその人のことを考えてしまいそうで怖いです。」
「…蓋をするんだよ。もう絶対に開かない重たい蓋。好きって気持ちをそこに入れてもうそこから出さないの。それで会って文句言ってスッキリしたら自由になれるよ。」
ー春人くんはそうやって、文句を?
「うん。言ってやったよ。一度向こうの親と謝りにここに来たから、もう僕は番の解消を始めていたし、気持ちに蓋をするのはそんなに苦しいことではなかったのかも。どのツラ下げてここまできたんだ、帰れって言ってやったよ。今までの人生で1番スッキリした瞬間だったかもしれない。」
春人くんはそう言ってふふふっと楽しそうに笑った。
コミュニケーションセラピーが終わってからも春人くんの明るい笑顔が頭から離れない。
僕も会ってこのどんよりと背負ってしまったものを彼に投げつけたら、彼みたいに明るくなれるのだろうか。
今までは嫌われたくなくて、鬱陶しいと思われなくなくて、自分の気持ちや意見を言わないようにしてきた部分もあったけれど、どうせ好かれてないないのだから、何を言っても変わらない。
ー彼と一度会ってみます。
そう先生に伝えると少しびっくりしていた。
先生から会う条件として、フェロモン無効空間での面会と体は接触しないように会う事を言い渡された。
施設が連絡を取るとすぐに来るとのことで、その日のうちに彼と会うことになった。
ガラス窓の設置された机に座って彼を待つ。
彼が入る空間とは完全に仕切られていて、スピーカーから声が聞こえるようになっている。
僕が喋れないからタブレットと職員の呼び出しボタンも設置してある。
刑務所の面会みたいな感じなのかも。
行ったことないけれど。
空間にキョロキョロと観察しているとノック音がして向こう側のドアが開いた。
久しぶりにちゃんと見る彼は相変わらず整った顔で、でも少し痩せたのかな?
頬がこけた感じがした。
懐かしさが込み上げそうになるのを息をはいて押さえつける。
「美鶴!」
机の反対側の席に走るようにやってきた彼は、ガラスの仕切りへ手を伸ばす。
ー久しぶりだね。
「……ずっと会いたかった。戻ってきてくれないか。きちんと説明する。」
僕は静かに首を横に振った。
ー今更戻れる訳がないよ。
「後で君の納得がいくまで説明するから。誤解なんだ、全て。」
ー戻らないよ僕は。もう来ないで欲しい。放っておいて。
「どうして…?」
ー今はこうやってフェロモンが効かないから話ができるけど、会うと心と体があっちとこっちに引き裂かれるみたいで苦しいんだ。もう本当は顔も見たくない。静かに穏やかに過ごしたい。
「君の気持ちは分かった。でも俺は君に戻ってきて欲しいんだ。」
何も分かってないよ稜くん…。
ー発情期に見捨てられた僕の気持ちが貴方にわかるって言うの?
沸々と腹の底から怒りの感情が湧いてきてついそう打ち込むと、稜くんは少し驚いたような顔をした。
ー苦しくて悲しくて、自分が何してるのかどこにいるのかもよく分からなくなって、それでもたった一つだけ欲しいものは絶対に手に入らないんだよ。発情期が終わっても胃が食べ物を受け付けないし、ずっと息苦しくて仕方がなかった!ここに来てやっと少し息ができるようになってきたのに、そんなこと言えるなんて僕には理解できない。死ぬまでそんなに僕に苦しんで欲しいってこと?
感情のままに打ち込んでから、稜くんの顔を見上げると、画面を見つめて固まっている。
何の反応もないことになんだかさらにムカムカとしてくる。
ー僕の声が出なくなっていたこと貴方は知っていたの?誰かから聞いて?いつ僕がどこから出て行ったのか知ってる?引き止めもしなかったくせに。探すのだって体裁が悪いからって興信所に依頼しただけのくせに!もう要らないの!そんな体裁取り繕うだけのためにあんな苦しみ味わいたくない!
打ち込みながら怒りか悲しみかよく分からないまま涙が溢れる。
ーもう帰って。2度と来ないで。
もう顔を見もしなかった。
勢いのまま立ち上がって扉の外に走り出た。
職員さんがまだ涙の止まらない僕を近くの部屋に誘導してくれる。
ひっくひっくとしゃくりあげるように泣き続ける僕に職員さんがお茶を入れますねと言ってくれた。
温かいお茶を淹れてもらって飲むと少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
ほっと一息つくと、すごくスッキリした気持ちになっていることに気がついた。
僕きっとずっと彼に辛かったと言いたかったんだと思う。
愛されないことが辛かったことを分かって欲しかったんだきっと。
彼に愛されたかったなんて直接的な言葉で言えなかったけど、言いたいことは言えて心が軽くなった。
なかなか結論が出ず、悩んでいることを僕や彼のことがわからないように少しぼかしながらコミュニケーションセラピーの時に伝えると春人くんはそう言って会うことを勧めた。
「僕は…もし会ってしまったら、また囚われてしまいそうで怖くなるかもしれないです。顔も覚えていないのに、いつも何処かにいないか探してしまってる自分が居るんです。会ってしまったら、今以上にその人のことを考えてしまいそうで怖いです。」
「…蓋をするんだよ。もう絶対に開かない重たい蓋。好きって気持ちをそこに入れてもうそこから出さないの。それで会って文句言ってスッキリしたら自由になれるよ。」
ー春人くんはそうやって、文句を?
「うん。言ってやったよ。一度向こうの親と謝りにここに来たから、もう僕は番の解消を始めていたし、気持ちに蓋をするのはそんなに苦しいことではなかったのかも。どのツラ下げてここまできたんだ、帰れって言ってやったよ。今までの人生で1番スッキリした瞬間だったかもしれない。」
春人くんはそう言ってふふふっと楽しそうに笑った。
コミュニケーションセラピーが終わってからも春人くんの明るい笑顔が頭から離れない。
僕も会ってこのどんよりと背負ってしまったものを彼に投げつけたら、彼みたいに明るくなれるのだろうか。
今までは嫌われたくなくて、鬱陶しいと思われなくなくて、自分の気持ちや意見を言わないようにしてきた部分もあったけれど、どうせ好かれてないないのだから、何を言っても変わらない。
ー彼と一度会ってみます。
そう先生に伝えると少しびっくりしていた。
先生から会う条件として、フェロモン無効空間での面会と体は接触しないように会う事を言い渡された。
施設が連絡を取るとすぐに来るとのことで、その日のうちに彼と会うことになった。
ガラス窓の設置された机に座って彼を待つ。
彼が入る空間とは完全に仕切られていて、スピーカーから声が聞こえるようになっている。
僕が喋れないからタブレットと職員の呼び出しボタンも設置してある。
刑務所の面会みたいな感じなのかも。
行ったことないけれど。
空間にキョロキョロと観察しているとノック音がして向こう側のドアが開いた。
久しぶりにちゃんと見る彼は相変わらず整った顔で、でも少し痩せたのかな?
頬がこけた感じがした。
懐かしさが込み上げそうになるのを息をはいて押さえつける。
「美鶴!」
机の反対側の席に走るようにやってきた彼は、ガラスの仕切りへ手を伸ばす。
ー久しぶりだね。
「……ずっと会いたかった。戻ってきてくれないか。きちんと説明する。」
僕は静かに首を横に振った。
ー今更戻れる訳がないよ。
「後で君の納得がいくまで説明するから。誤解なんだ、全て。」
ー戻らないよ僕は。もう来ないで欲しい。放っておいて。
「どうして…?」
ー今はこうやってフェロモンが効かないから話ができるけど、会うと心と体があっちとこっちに引き裂かれるみたいで苦しいんだ。もう本当は顔も見たくない。静かに穏やかに過ごしたい。
「君の気持ちは分かった。でも俺は君に戻ってきて欲しいんだ。」
何も分かってないよ稜くん…。
ー発情期に見捨てられた僕の気持ちが貴方にわかるって言うの?
沸々と腹の底から怒りの感情が湧いてきてついそう打ち込むと、稜くんは少し驚いたような顔をした。
ー苦しくて悲しくて、自分が何してるのかどこにいるのかもよく分からなくなって、それでもたった一つだけ欲しいものは絶対に手に入らないんだよ。発情期が終わっても胃が食べ物を受け付けないし、ずっと息苦しくて仕方がなかった!ここに来てやっと少し息ができるようになってきたのに、そんなこと言えるなんて僕には理解できない。死ぬまでそんなに僕に苦しんで欲しいってこと?
感情のままに打ち込んでから、稜くんの顔を見上げると、画面を見つめて固まっている。
何の反応もないことになんだかさらにムカムカとしてくる。
ー僕の声が出なくなっていたこと貴方は知っていたの?誰かから聞いて?いつ僕がどこから出て行ったのか知ってる?引き止めもしなかったくせに。探すのだって体裁が悪いからって興信所に依頼しただけのくせに!もう要らないの!そんな体裁取り繕うだけのためにあんな苦しみ味わいたくない!
打ち込みながら怒りか悲しみかよく分からないまま涙が溢れる。
ーもう帰って。2度と来ないで。
もう顔を見もしなかった。
勢いのまま立ち上がって扉の外に走り出た。
職員さんがまだ涙の止まらない僕を近くの部屋に誘導してくれる。
ひっくひっくとしゃくりあげるように泣き続ける僕に職員さんがお茶を入れますねと言ってくれた。
温かいお茶を淹れてもらって飲むと少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
ほっと一息つくと、すごくスッキリした気持ちになっていることに気がついた。
僕きっとずっと彼に辛かったと言いたかったんだと思う。
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