35 / 51
22
しおりを挟む
さあ旅立とうとした時だった。
急に幸せな匂いを感じる。
口で感じる味が僕のことを大切に思ってくれている人がいる事を教えてくれる。
脳に今までの記憶がなだれ込んでくる。
蓮くん…
気がついたら濡れていた目を開けると、ぼやっとした視界に戸惑う。
名前を呼ばれてようやく彼を見つけて口元が緩む。
「…れんくん。」
久しぶりに喋った言葉は小さく掠れていたけれど、それでも蓮くんには届いたのか、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「………おかゆさん、おいしい、ね?」
きっと今食べたお粥さんは蓮くんが作ってくれた1番美味しいお粥さん。
「…っ、うん、うん。もう少し食べる?」
と蓮くんが聞くので頷いた。
蓮くんがお粥さんを食べさせるためか少し体が離れた時、兄が床に膝をつき泣いているのが目に入る。
「…おにいさま…。」
思わず呟いた僕に、兄は謝ると顔を手で覆い隠した。
胸元のハンカチから片手をゆっくり離し、そっと兄の顔を覆う手に触れた。
兄も蓮くんも驚いた顔をした。
入院中は震えてしまっていたからだろうか。今はそんな震えはない。だってこの人は僕を助けてくれた人。
「…ありがとう……めいわくばかり、、ごめんなさい。」
なんとか絞り出すように言うと兄は両手で僕の手を手包みこんでくれた。
それ以上兄は言葉を発しなかったが、顔を見ると安心したのが伝わった。
いつもぶっきらぼうで強い口調の兄はきっと作り物で、本当はこんな優しい目で僕のことを見ててくれたのだろう。
蓮くんは残りのお粥さんを食べさせてくれて、兄はしばらくそれを眺めていたけれど、たくさん食べる僕の姿に安心したのか
「また来るよ」
と帰っていった。
少しして病院の先生がやってきて、診察をしてくれた。
特に問題ないし、戻ってこれてよかったねと頭を撫でられた。
先生を玄関まで送りに行ってた蓮くんがまた戻ってきて隣の椅子に座る。
「澪、本当に良かった。」
そう言って手を繋ぐ蓮くんに微笑み返す。
「僕も、また蓮くんに会えて嬉しい。」
少しするとまた瞼が重くなってきてウトウトしていると、
「寝ていいよ」
と頭を撫でられる。
「蓮くんはどこで?」
「今日は心配だからここに座ってるよ。ゆっくり寝てね。」
「体痛くなっちゃうよ?」
「大丈夫。」
「蓮くん、嫌じゃなかったら一緒に寝よ?」
と少し詰めて布団をめくった。
「え!?」
驚いた様子の蓮くんはしばらく考え込んでいたが、繋いでいた手を引っ張ると観念したように布団に入ってきた。
向かい合わせで転がり、胸板に擦り寄るように蓮くんに近づくと恐る恐る背中に手を回された。
「ふふふ。これ、すごく安心するね?」
そう言って少し体を離して蓮くんの顔を見上げると、
「澪が安心するならいつだってこうするよ。」
と微笑まれた。
安心しきってそのまま目を閉じた。
何か寒気のようなものを感じて目を覚ますと、隣にいたはずの蓮くんの姿が見当たらない。
寝起きでぼーっとしたままの頭で、どこ?どこ?と部屋の中を見渡すも、見当たらず、不安になる。
広い室内を彷徨うように探し回る。
お風呂のドアから蓮くんのフェロモンが漂ってきていることに気付いて、立ち止まる。
………お風呂か。
シャワーの音がしないから、湯船に浸かっているのか、もう脱衣所で着替えているのか。
もうすぐ出てくるのかな…
ドアの隣に腰を下ろした。
待っている間にまたうとうとしてきて、目を閉じた。
「ぅわっ、、澪!?」
呼ばれて目が覚めて顔を上げると、蓮くんがお風呂から出てきたようで、驚いてこちらを見ている。
「どうしたのこんなところに座り込んで。床冷たくなかった?」
支えられるようにして立たせてもらって、ベッドの方へと誘導される。
「うん。蓮くんいなかったから。」
そう答えると頭を撫でられた。
ベッドへ横になると、また蓮くんが一緒に横になってくれて、抱きしめてくれる。
「もうどこにも行かない?まだ何か用事ある?」
甘えん坊の子供のように蓮くんに尋ねた。
「もう、何も用事はないよ。俺もこのまま寝るよ。」
それを聞いて安心して眠りについた。
急に幸せな匂いを感じる。
口で感じる味が僕のことを大切に思ってくれている人がいる事を教えてくれる。
脳に今までの記憶がなだれ込んでくる。
蓮くん…
気がついたら濡れていた目を開けると、ぼやっとした視界に戸惑う。
名前を呼ばれてようやく彼を見つけて口元が緩む。
「…れんくん。」
久しぶりに喋った言葉は小さく掠れていたけれど、それでも蓮くんには届いたのか、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「………おかゆさん、おいしい、ね?」
きっと今食べたお粥さんは蓮くんが作ってくれた1番美味しいお粥さん。
「…っ、うん、うん。もう少し食べる?」
と蓮くんが聞くので頷いた。
蓮くんがお粥さんを食べさせるためか少し体が離れた時、兄が床に膝をつき泣いているのが目に入る。
「…おにいさま…。」
思わず呟いた僕に、兄は謝ると顔を手で覆い隠した。
胸元のハンカチから片手をゆっくり離し、そっと兄の顔を覆う手に触れた。
兄も蓮くんも驚いた顔をした。
入院中は震えてしまっていたからだろうか。今はそんな震えはない。だってこの人は僕を助けてくれた人。
「…ありがとう……めいわくばかり、、ごめんなさい。」
なんとか絞り出すように言うと兄は両手で僕の手を手包みこんでくれた。
それ以上兄は言葉を発しなかったが、顔を見ると安心したのが伝わった。
いつもぶっきらぼうで強い口調の兄はきっと作り物で、本当はこんな優しい目で僕のことを見ててくれたのだろう。
蓮くんは残りのお粥さんを食べさせてくれて、兄はしばらくそれを眺めていたけれど、たくさん食べる僕の姿に安心したのか
「また来るよ」
と帰っていった。
少しして病院の先生がやってきて、診察をしてくれた。
特に問題ないし、戻ってこれてよかったねと頭を撫でられた。
先生を玄関まで送りに行ってた蓮くんがまた戻ってきて隣の椅子に座る。
「澪、本当に良かった。」
そう言って手を繋ぐ蓮くんに微笑み返す。
「僕も、また蓮くんに会えて嬉しい。」
少しするとまた瞼が重くなってきてウトウトしていると、
「寝ていいよ」
と頭を撫でられる。
「蓮くんはどこで?」
「今日は心配だからここに座ってるよ。ゆっくり寝てね。」
「体痛くなっちゃうよ?」
「大丈夫。」
「蓮くん、嫌じゃなかったら一緒に寝よ?」
と少し詰めて布団をめくった。
「え!?」
驚いた様子の蓮くんはしばらく考え込んでいたが、繋いでいた手を引っ張ると観念したように布団に入ってきた。
向かい合わせで転がり、胸板に擦り寄るように蓮くんに近づくと恐る恐る背中に手を回された。
「ふふふ。これ、すごく安心するね?」
そう言って少し体を離して蓮くんの顔を見上げると、
「澪が安心するならいつだってこうするよ。」
と微笑まれた。
安心しきってそのまま目を閉じた。
何か寒気のようなものを感じて目を覚ますと、隣にいたはずの蓮くんの姿が見当たらない。
寝起きでぼーっとしたままの頭で、どこ?どこ?と部屋の中を見渡すも、見当たらず、不安になる。
広い室内を彷徨うように探し回る。
お風呂のドアから蓮くんのフェロモンが漂ってきていることに気付いて、立ち止まる。
………お風呂か。
シャワーの音がしないから、湯船に浸かっているのか、もう脱衣所で着替えているのか。
もうすぐ出てくるのかな…
ドアの隣に腰を下ろした。
待っている間にまたうとうとしてきて、目を閉じた。
「ぅわっ、、澪!?」
呼ばれて目が覚めて顔を上げると、蓮くんがお風呂から出てきたようで、驚いてこちらを見ている。
「どうしたのこんなところに座り込んで。床冷たくなかった?」
支えられるようにして立たせてもらって、ベッドの方へと誘導される。
「うん。蓮くんいなかったから。」
そう答えると頭を撫でられた。
ベッドへ横になると、また蓮くんが一緒に横になってくれて、抱きしめてくれる。
「もうどこにも行かない?まだ何か用事ある?」
甘えん坊の子供のように蓮くんに尋ねた。
「もう、何も用事はないよ。俺もこのまま寝るよ。」
それを聞いて安心して眠りについた。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
蜘蛛の巣
猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω)
世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。
混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。
やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。
伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは?
※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる