ホワイト・ルシアン

第１８章．ジプシー

２．

その後は何事もなく、平穏に練習を終えた。

「朋樹、ちょっといいか？」

帰り支度をする背中に声をかける。

「なに？」
「その……剣崎君は元気か？」
「何でオレに聞くの？自分で確かめたら？」

そう言ってリュックを背負う。

「会ったんだろう？」
「……だったら何？」
「それだったら、元気かどうか教えてくれたっていいじゃないか」

食い下がると、ふーっと息を吐かれた。

「元気だったよ」

じゃあね、って帰りかけ、あ、そうだ、と言って振り返る。

「うん？」
「カクテルの意味、分かったってさ」

まるで捨て台詞のように言うと、朋樹はさっさと道場を出て行った。


──意味が、分かった……？


なら、どうして連絡をくれないのだろう？もしかして、やはり、迷惑だったのでは、と、思う。
きっとそうだ。中年親父からの告白なのだ、気持ち悪がられても仕方ないだろう。


──フラれに行くか……


私は執務室に戻り、彼にメッセージを送った。

『今夜、あのバーで会えないか？』