ホワイト・ルシアン

たける

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第12章.吸収合併

2.

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父さんから沢山ラインや着信があった。けど、こっちからは連絡しない──ラインも読んでない──まま、家に帰っていた。
1人暮らしを始めてから──大きな大会前以外──息子として、実家に帰ってない。
大会前はさすがに──選手として──帰るけど、必要最低限以外の会話はなかった。だから今回のこの連絡も、一体何の用だよ──澪さんの事もあるし──って思ってる。
社用なら、明日出勤した時に話せばいい。


──そろそろ夕食の買い物に行かなきゃ……


気持ちが億劫がっていても──自分以外に──誰が作ってくれる訳でもない。渋々ソファから立ち上がると、スマホから着信音が流れた。
きっと父さんだ、と思いつつ、あまりにしつこいから出てやる事にする。

「もしもし?しつこいなー」

『うん?すまない。だが、凄く重要な、秘密の話をしたいんだ』

うちに来てくれないか?って言われ、乗り慣れたクロスバイクで──1人暮らしのマンションから、30キロぐらいの山裾にある──実家に帰った。
白い外壁は築年齢に比例してくすみ、門扉も少し錆びかけている。けど、少し広い庭──ワンボックスカーが、余裕で切り返しや方向転換が出来るぐらいだ──に、雑草はおろか、花も咲いてない。

「ただいま」

玄関の引戸を開けて三和土たたきに靴を脱いでいると、焼き肉の匂い──父さんは、オレが帰るといつもそれを用意する──がした。
木目の廊下はギシギシと軋み、どんなにこっそり歩いたってすぐバレるように──ただたんに、古いだけだけど──なってる。
キッチンに入ると、既にテーブルには夕食ゆうげの支度が整えられていた。

「あぁ、お帰り」
「ん……」
「さ、手を洗ってきなさい」
「うん」

手を洗って戻ると、父さんは座って待っていた。オレも黙って椅子に座る。

「お腹空いたろ、沢山食べなさい」
「うん、いただきます……」

2枚程食べて、オレは──呼びつけたくせに何も言わない──父さんに、ねぇ、って声をかけた。

「呼びつけといて、何の話?」

凄く重要な、秘密の話って言ってたけど。

「あぁ、それな……」

私も今朝聞いたんだが、って前置きし、ちょっと真顔で話し出した。

「うちの会社な、サンライズ株式会社に吸収合併される事になったそうだ」
「ふーん」
「で、そのPRとしてCMを作るそうなんだが、社長がお前にって言っててな」
「え?嫌だよ」
「私もそう言うだろうと思ったんだが、どうやらサンライズの方は、剣崎澪さんを起用するらしい」

ドキリ、と、胸が高鳴った。暫く連絡も断つと、決めたばかりなのに。

「澪さんを……?」
「あぁ。最初は鮫島選手をと言ってたんだが、うちの社長が剣崎さんのファンらしくて、それで……」
「じゃあやるよ」
「そ、そうか?まぁ、撮影前には顔合わせをするらしい。日取りはどっちも決まってないが、今週中にはするそうだ」
「分かった。決まったら教えて」

そう言ってご飯を頬張る。


──今回会えるのは、仕事でだから。


と、自分に言い聞かせてみても、会える事には違いなくて、嬉しさに口元が緩む。

「あと、今の話はまだ口外しないように、との事だ」
「分かったよ」

どんな顔で会えばいいだろう?それに澪さんは、どんな顔をするんだろう?
ふと、不安が過った。




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