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2日目
2.
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昼前には雑誌の取材も終え、タクミは三上と共にタクシーに乗っていた。日射しが射し込んでいて、年末だと言うのに車内は少し蒸し暑い。
「この後は、アルバムのレコーディングの続きです」
三上は分厚い手帳をめくりながら言った。タクミはそれに、黙って頷く。来年の春に発売予定の3枚目のアルバム製作は、決して順調とは言えなかった。
「その前にさー、ラジオ局、寄ってくんない?」
「何故です?」
「や、昨日さー、すんごいもん、聞いちゃったんだよね!」
タクミがカセットテープの話をしても、三上は笑いもしない。普段からあまり笑わないから、ファンの間では鉄仮面などと呼ばれているらしい。
「寄っても構いませんが、テープをお返しするだけにして下さい」
「なぁんで?ちゃんと感想言わなきゃ駄目だろー」
そう反論すると、三上がチラとタクミを見遣ってきた。丸メガネが日射しにキラリと光る。
「レコーディングは押してるんですよ?分かってますか?」
それを言われると辛いものがある。タクミは唇を噛み締めると、三上に頷いて見せた。
それからは静かな車内で、タクミはずっと流れる景色を見ていた。三上は携帯と手帳を交互に見ている。やがてタクシーがラジオ局に到着し、タクミは1人で車を降りた。受付に顔を出すと、馴染みの受付嬢に頼んで、すぐに林田を呼んでもらった。
「あ、どうもタクミさん。お疲れ様です」
昨日と同じ服を着た林田が、エレベーターから降りるなり会釈してくる。
「時間なくて手短に話すけどさ、昨日預かったテープ、凄かったよ!君も聞いてみたら分かるよ」
そう早口に言いながら、カセットテープを返す。林田は、キツネのような顔をポカンとさせながら受け取った。
「でさ、出来たら本人に会いたいんだけど、連絡取れたらさ、今レコーディングの最中だから、スタジオまで来てって、伝えてくれないかな?」
「え?スタジオに?どうして……」
「いいから、頼んだよ?」
返事を聞かないまま、タクミはエレベーターに飛び込んだ。後は林田に任せるしかないが、どうしても田中アユムと言う若者に会ってみたかった。もし叶うなら、自分がプロデュースしたいぐらいだ。だがそれは、恐らく社長が許してはくれないだろう。
タクミが所属するレーベル会社の社長である村瀬ノリフミは、少し偏屈なところがある。自分が認めなければ駄目だ、と言う気質で、回りから薦められるのを酷く嫌がるのだ。だから、うまく話をしたりしなければ台無しになってしまう。
その点タクミは、常沖が上手く社長に話をしてくれたお陰でデビューする事が出来たのだ。
タクシーに戻ると、三上は腕時計に落としていた視線を上げた。
「では参りましょうか」
「あぁ……」
どうやら時間は、三上の許容範囲内だったらしい。タクシーは地下駐車場を出て左折し、ミックススタジオへ向かう通りに向かった。
「感想も、ちゃんとお伝えしてこられたんでしょう?」
お見通しだと言わんばかりに、三上は前を向いたまま言った。
「ん?うん、言ったよ。それでさー、もしかしたら近々スタジオにさー、俺を訪ねて田中アユムって男が来るかも知れないから」
「どう言ったご用件で?」
漸く横を向いた三上と目が合った。だがすぐ、三上はカバンから手帳を取り出すと、そっちに視線を落とす。
「テープの感想、本人にもちゃんと伝えたいからだよ」
ふーん、と、あまり納得していない返事を寄越し、手帳のメモ欄にタナカアユムと書き込むと、それきり三上は黙り込んでしまった。タクミもタクシーから見える景色に目をやり、早く会えたらいいなと期待を募らせた。
「この後は、アルバムのレコーディングの続きです」
三上は分厚い手帳をめくりながら言った。タクミはそれに、黙って頷く。来年の春に発売予定の3枚目のアルバム製作は、決して順調とは言えなかった。
「その前にさー、ラジオ局、寄ってくんない?」
「何故です?」
「や、昨日さー、すんごいもん、聞いちゃったんだよね!」
タクミがカセットテープの話をしても、三上は笑いもしない。普段からあまり笑わないから、ファンの間では鉄仮面などと呼ばれているらしい。
「寄っても構いませんが、テープをお返しするだけにして下さい」
「なぁんで?ちゃんと感想言わなきゃ駄目だろー」
そう反論すると、三上がチラとタクミを見遣ってきた。丸メガネが日射しにキラリと光る。
「レコーディングは押してるんですよ?分かってますか?」
それを言われると辛いものがある。タクミは唇を噛み締めると、三上に頷いて見せた。
それからは静かな車内で、タクミはずっと流れる景色を見ていた。三上は携帯と手帳を交互に見ている。やがてタクシーがラジオ局に到着し、タクミは1人で車を降りた。受付に顔を出すと、馴染みの受付嬢に頼んで、すぐに林田を呼んでもらった。
「あ、どうもタクミさん。お疲れ様です」
昨日と同じ服を着た林田が、エレベーターから降りるなり会釈してくる。
「時間なくて手短に話すけどさ、昨日預かったテープ、凄かったよ!君も聞いてみたら分かるよ」
そう早口に言いながら、カセットテープを返す。林田は、キツネのような顔をポカンとさせながら受け取った。
「でさ、出来たら本人に会いたいんだけど、連絡取れたらさ、今レコーディングの最中だから、スタジオまで来てって、伝えてくれないかな?」
「え?スタジオに?どうして……」
「いいから、頼んだよ?」
返事を聞かないまま、タクミはエレベーターに飛び込んだ。後は林田に任せるしかないが、どうしても田中アユムと言う若者に会ってみたかった。もし叶うなら、自分がプロデュースしたいぐらいだ。だがそれは、恐らく社長が許してはくれないだろう。
タクミが所属するレーベル会社の社長である村瀬ノリフミは、少し偏屈なところがある。自分が認めなければ駄目だ、と言う気質で、回りから薦められるのを酷く嫌がるのだ。だから、うまく話をしたりしなければ台無しになってしまう。
その点タクミは、常沖が上手く社長に話をしてくれたお陰でデビューする事が出来たのだ。
タクシーに戻ると、三上は腕時計に落としていた視線を上げた。
「では参りましょうか」
「あぁ……」
どうやら時間は、三上の許容範囲内だったらしい。タクシーは地下駐車場を出て左折し、ミックススタジオへ向かう通りに向かった。
「感想も、ちゃんとお伝えしてこられたんでしょう?」
お見通しだと言わんばかりに、三上は前を向いたまま言った。
「ん?うん、言ったよ。それでさー、もしかしたら近々スタジオにさー、俺を訪ねて田中アユムって男が来るかも知れないから」
「どう言ったご用件で?」
漸く横を向いた三上と目が合った。だがすぐ、三上はカバンから手帳を取り出すと、そっちに視線を落とす。
「テープの感想、本人にもちゃんと伝えたいからだよ」
ふーん、と、あまり納得していない返事を寄越し、手帳のメモ欄にタナカアユムと書き込むと、それきり三上は黙り込んでしまった。タクミもタクシーから見える景色に目をやり、早く会えたらいいなと期待を募らせた。
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