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2日目
1.
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朝方までかかってしまったが、田中アユムが曲の中で使用していたギターコードを全て拾いきった。途中からベッドの上に広げたノートには、手書きの譜面が出来上がっていた。
「ふわぁ……」
寝不足で欠伸が止まらない。今日はこの後に雑誌の取材があるので、寝惚けたままの顔ではまずい。とにかく、目を覚ます為にコーヒーを淹れた。インスタントを、眠気覚ましにブラックのまま飲み干す。少しは目が覚めたが、まだ駄目だ。頭がしゃっきりしない。
どこかのテレビで、コーヒーは即効性の眠気覚ましにはならず、効果は2時間ぐらいかかるのだと、聞いたような記憶があった。
仕方がなくシャワーでも浴びようと支度していると、ベッドサイドの棚に置いたままにしていた携帯が鳴った。手に取って見ると、画面には『マネージャー』と表記されている。またか、と思いながらも、タクミは渋々通話ボタンを押した。
「もしもしー、おはよー」
『おはようございます』
マネージャーの三上シノブは、タクミより10歳も上の女性で、赤い枠の丸メガネをした、一見すれば文学女子のような容姿をしている。昨夜のラジオ放送にもいたが──目立たない──影の薄い存在だった。
「迎えに来る時間なら、7時だったろー?」
『そうです。ホテルの地下駐車場にお迎えに上がりますので』
「確認の電話ならさー、いいって言ってんじゃん」
朝に仕事が入った時にだけ、三上はこうして連絡をしてくる。それと言うのも以前、タクミがうっかり寝坊してしまい、危うく仕事に遅刻しそうになると言う失態を起こしたからだった。その時はギリギリ間に合ったのだが、それから三上は、モーニングコールを寄越すようになった。
『いえ、そう言う訳にはいきませんよ。タクミさんには前列がありますからね』
「もう寝坊しないって。いつの話を引っ張るんだよー」
『念には念を、ですよ。諦めて下さい』
タクミはため息をついた。
「はいはい、分かりました!」
『では7時に』
電話が切れ、タクミは携帯をベッドに放り出した。早くシャワーを浴びなければ。ちょっとでも遅れたりしたら、2度寝したと思われかねない。そうならない為にも、急いで服を脱いでシャワールームに入った。蛇口を捻り、熱い湯を頭からかぶる。冷水でもよかったのだが、さすがに12月の後半も過ぎた時期に、それはマズイと思ったから止めた。熱いシャワーを浴びていると、全身が驚いたように目が冴えた。
もうすぐクリスマスだ。だからと言って、特別な事は何もない。恋人もいなければ、家族も遠方に住んでいて、あまり連絡もしていない。友人はいるが、今年は仕事が詰まっていて会えそうにもなかった。
都会でタクミは、4回目のクリスマスを目前にしていた。
「ふわぁ……」
寝不足で欠伸が止まらない。今日はこの後に雑誌の取材があるので、寝惚けたままの顔ではまずい。とにかく、目を覚ます為にコーヒーを淹れた。インスタントを、眠気覚ましにブラックのまま飲み干す。少しは目が覚めたが、まだ駄目だ。頭がしゃっきりしない。
どこかのテレビで、コーヒーは即効性の眠気覚ましにはならず、効果は2時間ぐらいかかるのだと、聞いたような記憶があった。
仕方がなくシャワーでも浴びようと支度していると、ベッドサイドの棚に置いたままにしていた携帯が鳴った。手に取って見ると、画面には『マネージャー』と表記されている。またか、と思いながらも、タクミは渋々通話ボタンを押した。
「もしもしー、おはよー」
『おはようございます』
マネージャーの三上シノブは、タクミより10歳も上の女性で、赤い枠の丸メガネをした、一見すれば文学女子のような容姿をしている。昨夜のラジオ放送にもいたが──目立たない──影の薄い存在だった。
「迎えに来る時間なら、7時だったろー?」
『そうです。ホテルの地下駐車場にお迎えに上がりますので』
「確認の電話ならさー、いいって言ってんじゃん」
朝に仕事が入った時にだけ、三上はこうして連絡をしてくる。それと言うのも以前、タクミがうっかり寝坊してしまい、危うく仕事に遅刻しそうになると言う失態を起こしたからだった。その時はギリギリ間に合ったのだが、それから三上は、モーニングコールを寄越すようになった。
『いえ、そう言う訳にはいきませんよ。タクミさんには前列がありますからね』
「もう寝坊しないって。いつの話を引っ張るんだよー」
『念には念を、ですよ。諦めて下さい』
タクミはため息をついた。
「はいはい、分かりました!」
『では7時に』
電話が切れ、タクミは携帯をベッドに放り出した。早くシャワーを浴びなければ。ちょっとでも遅れたりしたら、2度寝したと思われかねない。そうならない為にも、急いで服を脱いでシャワールームに入った。蛇口を捻り、熱い湯を頭からかぶる。冷水でもよかったのだが、さすがに12月の後半も過ぎた時期に、それはマズイと思ったから止めた。熱いシャワーを浴びていると、全身が驚いたように目が冴えた。
もうすぐクリスマスだ。だからと言って、特別な事は何もない。恋人もいなければ、家族も遠方に住んでいて、あまり連絡もしていない。友人はいるが、今年は仕事が詰まっていて会えそうにもなかった。
都会でタクミは、4回目のクリスマスを目前にしていた。
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