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たける

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ジャック・グロウは38になるが独身で、酷い人間嫌いな男だった。いつでも俯いて歩く姿は陰気で、何かを呪っているようだと思われていたが、陰気と言うだけでそう思われているのではなく、彼の家庭環境とその外見が影響していた。

グロウの父はかつて牧師をしていたが、悪魔崇拝者だとあらぬ噂を立てられてしまった。それまで幸せだった環境は一変して荒み、グロウの外見も虚弱で枯れ枝のように細く、頬は痩け皿のような目の下にはいつでも深い隈を作り、まるで悪魔に取り憑かれているように変わってしまった。
だがグロウも父も悪魔崇拝者などではなく、敬虔なクリスチャンであり、聖母マリアを愛していた。
そんな彼の小さく質素な家には手作りの祭壇があり、毎朝と言わず、暇を見つけては祈りを捧げていた。

人間嫌いのグロウだったが、その祈りの内容はもっぱら隣に嫁いできた若く美しい女ジェシカの幸せで、グロウが唯一恋をする人間だった。
ジェシカに恋をするようになったのは、彼女が隣の家に出入りするようになってからだったが、1年もすると結婚してしまった。
それでもグロウは毎日祈った。


いつか彼女が夫に愛想を尽かしてしまい、自分の想いに気付いてくれるようにと。


しかし噂はジェシカの耳にも勿論入っており、彼女もグロウに冷たかった。最初は挨拶をしても無視されるぐらいだったが、妊娠して腹が膨れるにつれ、睨まれるようになった。そして臨月を迎えた彼女は、ついにグロウを罵倒し始めたのである。
グロウは酷く傷付き、そしてあろう事か彼女を呪い始めた。


不幸が降りかかればいい。


そうマリアに祈るようになっていた。

そんなある日の事、朝の祈りを終えて庭に出ると、彼女の夫がグロウの庭に生えているラプンツェルを無断で摘んでいるのを目撃した。

「何をしている?」

そう無表情で尋ねると、夫は大層困った顔をした。

「妻が、ラプンツェルを食べないと死ぬと言ったから……」

言い訳をする夫に対し、グロウは尚も無表情で彼を見遣った。
ジェシカが酷い態度を取るようになってから、グロウは以前より酷い人間不信になり、僅かに残っていた表情をも失っていた。そして青白い肌は更に悪くなって痩せ、目だけが凶悪に際立っていた。

「だからと言って、他人の庭から無断で盗むとは……」

そう言って睨むと、女の声がした。

「ラプンツェルはまだなの?」

それを聞いた夫は恐縮し、グロウを何か恐ろしいものを見るような目付きで見返してきた。

「お願いだ。ラプンツェルを分けてくれないか?」

グロウは夫を蔑み、そして隣の家を見遣った。
その胸はあの女への憎しみが燃え盛り、今こそ仕返しの時だと感じていた。

「いいだろう。だが……生まれた子を私に譲ってくれ。そうしたら、いつでも好きな時に好きなだけラプンツェルを食べさせてやろう」

子は幸せの証である。グロウはそんな幸せを、ジェシカから奪ってやろうと思った。そうする事であの憎き女が、グロウにした仕打ちに悶え苦しみ、罪深い事をしたのだと悔いて欲しかった。
夫はグロウの提案を受け入れ、礼を言いながらラプンツェルを摘んで帰った。その姿が家の中へ消えるまで、グロウは黙って見つめていた。




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